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第六章 ヘタレ領主の領地改革
第三話 deep-fried pork cutlet with egg on rice
しおりを挟む院長室での話し合いが終わった。
話し合いと言っても、俺が案を挙げて、クリスが異世界本の知識で補完して、婆さんやアイリーンが現地にローカライズさせて、それを議会に掛けるという流れだから、俺ってあまり仕事してないんだよな……。
ま、それはそれとして昼飯を作らないと。あとミリィがうるさいからラスクも揚げないとな。
そして今日はとうとうあのメニューを試作するのだ!
「兄さま、とんかつとはむかつの衣はこんな感じで良いですか?」
クレアがハムと、丁寧に筋取り、筋切りをした豚ロース肉に、小麦粉をまぶして、卵液に浸し、パン粉をつけたものを俺に見せる。
「俺も初めて作るからな、テレビ番組で揚げてるシーンは見たことある程度だから。そもそも総菜コーナーで買ってきちゃってたから」
「じゃあまずはこれで試しに揚げてみますね」
「頼む。ふわっとした説明で作れちゃうクレアの能力に任せる」
「てへへ、頑張りますね」
照れながらもクレアはじゅわーっと熱した油の中に衣をつけたハムと豚ロースを入れる。
クレアが揚げ物をしてる間に、ふわふわなスクランブルエッグを作りながら、白ワイン、醤油、砂糖、ブイヨンでかつ丼用の割り下を作っておく。
ちなみにこの和風つゆのレシピも、俺のふわっとした知識でクレアが作り上げたレシピだ。すごいだろ。
日本酒と和風だしが無くても大分近いものが作れるのだ。
「兄さま、はむかつは大丈夫そうですよ」
と言ってクレアが金網で作った油切りの上に置く。
サクッと包丁で切って味見をする。
美味い。揚げ時間も完璧だ。
「クレアは天才だな」
「てへへ、褒め過ぎですよ兄さま」
「お兄ちゃんぽてさらもそろそろできるよ!」
「今日はシンプルな奴でいいからな」
「うん!」
十分冷ましたハムカツに少しトンカツソースをつけてクレアとエリナに食べさせる。
「さくっとして美味しいですね兄さま!」
「これ美味しいよお兄ちゃん!」
「これをサンドイッチにして売るとなると値段はどれくらいになるかな? 揚げる手間もあるから、通常メニュー化は厳しいかもしれんが」
「あとで計算しておきますね」
「無理してメニュー化する必要はないからな。晩飯に揚げ物がある翌日の限定品とかでもいいし。かえってプレミア感が出て良いかもしれないし」
「はい。兄さま、とんかつもそろそろ良いと思いますよ」
クレアの置いたトンカツを切り、断面を見る。ばっちり火が通っているようだ。
ソースをつけて食べると、予想通り、日本で食べたトンカツだった。それも上等な。
「完璧だクレア。揚げ時間とか衣の着け方とかを、ある程度固めたらレシピに纏めておいてくれ」
「はい兄さま!」
「クレアはすごいねー」
「クレアは俺のイメージする料理を再現する能力は凄いけど、エリナはそこから発展させる能力があると思うぞ」
「そうかな!」
「俺が最初に作ったシチューとかはほとんどお前が手を入れて完成度を上げてるからな。その辺は俺の素案を法案レベルまでにブラッシュアップする駄姉クラスに有能だぞ」
「えへへ!」
「あと駄妹はガキんちょどもに人気なんだから、こんなところで正座してないでリビングに行けよ……」
料理を開始した直後からずっと台所の隅でちょこんと正座している駄妹にとうとう突っ込んでしまう俺。
だってさっきから段ボールに入れられた捨て犬が凄くうれしそうに尻尾を振っているみたいにこっちを見てるんだもん。
ちょっと可愛く見えちゃうのが悔しいな。狙ってやってたら恐ろしい。
「今は院長先生が算数の授業をしていますので、少しでもお兄様のお役に立てればと!」
「お兄ちゃん酷いよ! シルお姉ちゃんだって役に立ってるよ! 最近は高い場所にあるお皿とか割らずに取ってくれるようになったし!」
「うーん、この」
「兄さま、とんかつが揚がりましたよ、大体わかってきましたのでとんかつとはむかつをどんどん揚げちゃいますね」
「頼む。じゃあ俺は揚がったトンカツの内、何割かをカツ煮にするか。俺の分はカツ丼にしちゃうけどな」
あらかじめ手鍋に準備しておいた割り下に、スライスした玉ねぎを加えて、揚がったばかりのトンカツを投入する。
少しばかりに立たせたら溶き卵を回し入れ、蓋をして火からおろす。
あとそこの駄妹に味見させるかと、ハムカツに少しソースをつけて駄妹に差し出す。
「ほれ、食ってみろ。ハムを揚げたハムカツってやつだ」
「ありがとう存じますお兄様! 頂きます!」
ぱくっと菜箸から直接食う駄妹。貴族だろお前……。
「これは! はむかつ、とても美味しいですお兄様!」
「はいはい。次に豚の肩ロースを揚げたトンカツな」
躊躇なく菜箸から直接食うのなこの駄妹……。
なんだか餌付けしてるみたいだな。
「とんかつも素晴らしく美味しいです! コートレットなら何度か頂いたことがありますが、これは絶品です!」
「コートレット? うすっぺらい牛カツみたいなもんかな? 高級レストランとか行ったことが無いから良くわからんが、これはパンに挟んでも美味いからな」
「売れると思いますよお兄様!」
「価格と手間のバランスだな。クレアの判断に任せちゃうけど」
カツ煮の卵が緩く固まり始めたところで、炊き立ての短粒種の白米を盛ったどんぶりにカツ煮を乗せる。
三つ葉が無いのが残念だが、今は秋で時期も外れてるし仕方がない。
ちょっと残念な気持ちを抱えつつも、カツ丼に蓋をして蒸らす。
「お兄ちゃん、ぽてさらとサラダ出来たよ!」
「兄さま、とんかつとはむかつが揚げ終わったのでラスクを揚げちゃいますね」
「お兄様、足が痺れてきました!」
「駄妹は明日から座布団使え。ここにいていいから」
カツ煮をいくつか作った後、一升ほど炊いた米もリビングへ運ぶ。
おかずはトンカツ、ハムカツ、ポテサラにサラダとベーコンスープ。
カツ煮と白米も用意したので、これは少しずつ味見をしてもらう。
短粒種は予想よりはマシな食味だったが、やはり日本人には物足りない。
短粒種の品種改良を急がなくては。
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