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第九章 変わりゆくヘタレの世界
第十話 反省会と公営ギャンブル
しおりを挟む「お兄様ー!」
「はいはい。シルは頑張ったと思うぞ」
バトルトーナメントを終えた数時間後、意識を取り戻したシルを連れて帰宅し、豪勢な夕食を振る舞っている。
まあ残念会というか反省会だな。
シルが半べそで俺に抱き着いてきて暑苦しいが、頑張ったと思うので好きにさせてやることにした。
「そうですよシルお姉さんっ! お父さんが『縮地』を使うなんて滅多にないんですよっ!」
シバ王がシルトの戦いで披露したあの瞬間移動のような技は『縮地』といい、強者と認めた相手にしか使わない奥の手らしいのだ。
地竜相手にも使わなかったらしい。
「サクラの言う通りですぞシルヴィア殿。貴女は相当にお強い」
そして何故か優勝したシバ王もこの場にいる。
お前は祝勝会だろ……。
親子揃ってテーブルの上の料理を食いまくってるが、流石にフライドチキンを食いながらシルを慰めるのはどうなんだ?
「旦那様、アイリーンが到着次第、優勝者への報奨のご相談をさせて頂きたいのですが」
ひとしきり柴犬親子がシルを慰めた後、取り皿から料理が無くなったからなのか、俺に抱き着くシルを放置して料理を漁りに行くと、入れ替わるようにクリスが俺の側にやってくる。
「そうだな。叙爵するって謳っちゃってたしな。とはいえ仮面付けてたし、偽名だったし別にいいんじゃないのか?」
「ところがシバ王は『是非ファルケンブルクの騎士爵を頂きたい、閣下に忠誠を誓いたい』と聞かないのです」
「ファルケンブルクじゃなくてラインブルク王国の騎士爵なんだが……。あくまでもうちとしては叙爵を推薦するだけだしな」
「とはいえ慣例的にはファルケンブルク領で家臣として扱われるわけですからね」
「めんどくせー」
「王宮に叙爵の為に亜人国家連合の代表を向かわせるわけにはいきません。亜人国家連合がラインブルク王国の支配下に収まるのを喧伝することになります」
「ちわっこがこっちに来た時に騎士叙爵するくらいしかないか」
「そうですね……正式な書類も出せませんし、あくまでも名誉爵位の扱いになりますが」
「それっぽい記念品やら任命書なんかはうちで仮発行みたいなのでもいいしな。それで対応するか」
仮の騎士爵として任命しておいて、そのうちちわっこに騎士叙爵してくれって話を通しておけば何とかなるかな。
「かしこまりました。仮の名誉称号扱いでもシバ王はお喜びになられるでしょうしね」
「わかりやすいからな。あと例の件はどうだった?」
「やはり裏ではかなり盛況だったようです。後程アイリーンが詳細な情報を持って来ますが」
以前に懸念事項としていたギャンブルに関する調査をさせていたのだが、やはりバトルトーナメントが賭け事の対象とされていたらしい。
「やはりそうか。まああれだけ盛り上がったんだ、多少の賭け事もしたくはなるだろうが……しかし……」
「旦那様どうでしょうか? アンダーグラウンドでやられるよりはいっそ公営でやりませんか?」
「そうだなー。どうせ公営ギャンブルに関する計画書なんかはもうできてるんだろ?」
「もちろんですわ」
クリスはそう答えるとドヤ顔でマジックボックスから書類を出して俺の前に置く。
相変わらず仕事が早い。
書類をざっと眺めてみると、バトルトーナメントのような不定期の催しに加えて、野球のリーグ戦での勝敗などの賭けの対象になるイベントも羅列されている。
「四十パーセントか、胴元としてガッツリ取るのな」
「そうですね、社会保障に回しますから」
「カジノ場は建てないのな」
「カジノ場はまだ時期尚早と判断します」
「この計画書の段階では野球以外は年一回のイベントとかしか賭場を開かないから、まだそれほどの規模ではない感じだけど」
「そうですね、まずは試験的な運用です」
「まあやってみるか。問題が出るようなら廃案にするかもしれんが」
「かしこまりました。早速今シーズンの野球リーグから採用したいと思います」
「野球リーグの開幕は来週じゃないか……。すでに事前準備を始めてないと無理なスケジュールだろ」
「旦那様の許可があればいつでも始められるようにするのは当然ですから」
なんとなく納得は行かない気持ちを抑えつつ、公営ギャンブル組織を設立し、まずは野球の試合での勝敗に対して賭け行為を容認することにした。
「んーお兄様―、もっと頭なでなでしてくださいー」
「はいはい」
「えへへ!」
シルのご機嫌も直ってきたし、アイリーンが来たら早速シバ王の扱いと公営ギャンブル組織の設立をやらせるか。
しかしギャンブルか。領民の生活に余裕が出てきたと好意的に受け取れば良いんだろうけど、問題はギャンブルで生活が破綻する連中が出たり、治安が悪くなったりしないかってところなんだよな。
酒場で少額を賭けてカードゲームをしたりするのは黙認状態だから、金額制限とかが現実的なのかね。
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