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2.魔王、異世界に召喚される
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魑魅魍魎うずまく魔族の長として君臨した、魔王アリギュラ。絶対的美貌と、冷酷無慈悲な采配は見る者を圧倒し、アーク・ゴルドの人間共を恐怖と混乱の渦に巻き込んだ。
その覇王アリギュラが困惑していた。それはもう、大大大パニックに陥っていた。
「聖女様ー!」
「聖女様、どちらにいらっしゃるのですかー!」
「お隠れになってないで出てきてくださーい!」
(誰が出ていくか、たわけ!!!!)
柱の影にべたりと張り付き、アリギュラは追っ手をやり過ごす。そして、必死にいまの状況を整理しようとした。
(待て待て待て。まずここはどこじゃ!? 右も左も、人間共の気配しかせぬが!?)
勇者カイバーンに敗れ、奴らの城に囚われた可能性も考えた。だが、それはありえない。アリギュラを生かし、捕らえるメリットが連中にはない。加えて記憶の最後にある、勇者の必殺技。あれを食らって、無事で済んだとはとても思えない。
(それに連中が口にする、『聖女』とやら……。なぜその名で、わらわを呼ぶ!?)
聖女と呼ばれる人間が勇者陣営にいることは、アリギュラも知識として知っている。だが、その名でアリギュラが呼ばれるいわれはない。全くもって身に覚えがない。
そして、何より。
(なぜわらわ、人間の小娘になっておるのじゃ~~~~!?!?)
アリギュラは窓に映る自身の姿に、再度頭を抱えてのたうちまわった。
艶々でまっすぐな黒髪に赤い瞳と元の要素は残っているものの、受ける印象は全然違う。ぱっちりとした目に、ふっくらした小さな唇。華奢で小さな体に、すらりとした手足。
あんなにたわわだった胸が小さくなりもしたが、これはこれで違う色気を醸し出す、圧倒的美少女。これがどうして、魔王アリギュラの姿だと信じられようか。
「いたいた、子猫ちゃんっ」
「ひっ!?」
身悶えしていたアリギュラは、背後から響いた声にびくりと飛び上がった。恐る恐る振り向けば、3人のイケメンがこちらの逃げ場を塞ぐように立っていた。
「突然逃げちゃうからびっくりしたよ。さっ! こっちにおいで」
騎士っぽい格好の、見るからに遊んでそうなイケメンその一が、微笑んで手を差し出した。
「ほんとにこの子で大丈夫なのー? まあ、可愛いのは認めるけど」
女の子と見紛うような、ふわふわの髪にくりりとした瞳のイケメンそのニがふんと鼻を鳴らした。
「こらこら、二人とも。そんな風に詰め寄ったら、また彼女を怖がらせてしまうよ」
二人を嗜めて、イケメンその三がすっと前に出る。
陽光を受けて輝く金髪に、青い瞳が印象的な甘く優しげな面差し。金糸の刺繍の入った白い服が、これまた憎らしいほどに似合う。
アリギュラをドン引きさせるほどのキラキラオーラ全開に、彼は胸に手を当てて微笑んだ。
「私はこの国の王子、ジーク・ローエンベルンです。こっちは護衛のアラン・メリアークで、こっちは侍従のルリアン・キッドソンです」
(聞いとらんわ!!)
あわや口から飛び出しかかった全力のツッコミを、アリギュラは精一杯飲み込む。ジークと名乗った三人目のイケメンが、さらりとアリギュラの手を取ったからだ。
自ら王子と名乗ったくせに、ジークは何故かその場に跪く。唖然とするアリギュラ、ジークは潤んだ瞳で見上げた。
「貴女が、私達が長年焦がれてやまなかった救いの姫君……! 聖女様、お会いできて嬉しゅうございます」
「ひっ!?」
今度こそアリギュラは飛び上がった。ちゅっと音を立てて、ジークがアリギュラの手に口付けたからだ。
仰天したアリギュラは、無理矢理ジークから手を奪い返した。
「な、にゃ、んな!! なにをするか、人間の小童がー!! に、ににににんげん如きが、わらわにく、くくく口付けをするなどと!?」
「かーわいっ。子猫ちゃんってば、悪魔みたいなこと言ってるっ」
(まさしく悪魔だが!?!?)
くすりと笑った一人目のイケメン、アランに、アリギュラは内心全力で突っ込む。やはり、この者たちの目にも、アリギュラの姿は人間の小娘として映っているらしい。
「ちょっと。いつまでここにいるつもり? 僕疲れちゃったんだけど」
むすりと唇を尖らせたイケメンそのニ、ルリアンに、ジークとアランもそうだそうだと頷き合った。
「ルリアンの言う通りだ。レディをこんなに長く立たせたままだなんて、私はジェントル失格だね」
「ごめんね、子猫ちゃん。よかったら俺が、君を部屋まで運ぼうか?」
「ほんっとアランってば、女の子と見ればすぐ口説く。まあ、けど、手を繋ぐくらいなら正解かも。また逃げられても困るし」
「さあ」
「さあ」
「さあ!!」
(ひ、ひぃぃ……!?)
イケメン三人に詰め寄られ、アリギュラは心の中で悲鳴を上げた。
視界がキラッキラしている。キラッキラしすぎてもはや眩しい。アリギュラはこれまでも人間に囲まれたことがあるが、すべて戦場でのこと。殺意マックスに剣をぶん回す相手と対峙するのと、謎のイケメン三銃士ににっこにこ笑顔で迫られるのとでは勝手が違いすぎる。
なんだ、ヤるか。ヤればいいのか。ジリジリとにじり寄ってくるイケメンたちに、混乱するアリギュラの思考は物騒な方向に傾く。
「わ、わらわに寄るな、触るなー!! それ以上近づくなら、貴様らに『覇王の鉄槌』を……!」
「こちらにおられましたか!」
その時、イケメン三銃士とは別の、第三者の声が響いた。イケメンたちが振り返るのと同時に、アリギュラも彼らの合間から新しいその人物を覗いた。
その覇王アリギュラが困惑していた。それはもう、大大大パニックに陥っていた。
「聖女様ー!」
「聖女様、どちらにいらっしゃるのですかー!」
「お隠れになってないで出てきてくださーい!」
(誰が出ていくか、たわけ!!!!)
柱の影にべたりと張り付き、アリギュラは追っ手をやり過ごす。そして、必死にいまの状況を整理しようとした。
(待て待て待て。まずここはどこじゃ!? 右も左も、人間共の気配しかせぬが!?)
勇者カイバーンに敗れ、奴らの城に囚われた可能性も考えた。だが、それはありえない。アリギュラを生かし、捕らえるメリットが連中にはない。加えて記憶の最後にある、勇者の必殺技。あれを食らって、無事で済んだとはとても思えない。
(それに連中が口にする、『聖女』とやら……。なぜその名で、わらわを呼ぶ!?)
聖女と呼ばれる人間が勇者陣営にいることは、アリギュラも知識として知っている。だが、その名でアリギュラが呼ばれるいわれはない。全くもって身に覚えがない。
そして、何より。
(なぜわらわ、人間の小娘になっておるのじゃ~~~~!?!?)
アリギュラは窓に映る自身の姿に、再度頭を抱えてのたうちまわった。
艶々でまっすぐな黒髪に赤い瞳と元の要素は残っているものの、受ける印象は全然違う。ぱっちりとした目に、ふっくらした小さな唇。華奢で小さな体に、すらりとした手足。
あんなにたわわだった胸が小さくなりもしたが、これはこれで違う色気を醸し出す、圧倒的美少女。これがどうして、魔王アリギュラの姿だと信じられようか。
「いたいた、子猫ちゃんっ」
「ひっ!?」
身悶えしていたアリギュラは、背後から響いた声にびくりと飛び上がった。恐る恐る振り向けば、3人のイケメンがこちらの逃げ場を塞ぐように立っていた。
「突然逃げちゃうからびっくりしたよ。さっ! こっちにおいで」
騎士っぽい格好の、見るからに遊んでそうなイケメンその一が、微笑んで手を差し出した。
「ほんとにこの子で大丈夫なのー? まあ、可愛いのは認めるけど」
女の子と見紛うような、ふわふわの髪にくりりとした瞳のイケメンそのニがふんと鼻を鳴らした。
「こらこら、二人とも。そんな風に詰め寄ったら、また彼女を怖がらせてしまうよ」
二人を嗜めて、イケメンその三がすっと前に出る。
陽光を受けて輝く金髪に、青い瞳が印象的な甘く優しげな面差し。金糸の刺繍の入った白い服が、これまた憎らしいほどに似合う。
アリギュラをドン引きさせるほどのキラキラオーラ全開に、彼は胸に手を当てて微笑んだ。
「私はこの国の王子、ジーク・ローエンベルンです。こっちは護衛のアラン・メリアークで、こっちは侍従のルリアン・キッドソンです」
(聞いとらんわ!!)
あわや口から飛び出しかかった全力のツッコミを、アリギュラは精一杯飲み込む。ジークと名乗った三人目のイケメンが、さらりとアリギュラの手を取ったからだ。
自ら王子と名乗ったくせに、ジークは何故かその場に跪く。唖然とするアリギュラ、ジークは潤んだ瞳で見上げた。
「貴女が、私達が長年焦がれてやまなかった救いの姫君……! 聖女様、お会いできて嬉しゅうございます」
「ひっ!?」
今度こそアリギュラは飛び上がった。ちゅっと音を立てて、ジークがアリギュラの手に口付けたからだ。
仰天したアリギュラは、無理矢理ジークから手を奪い返した。
「な、にゃ、んな!! なにをするか、人間の小童がー!! に、ににににんげん如きが、わらわにく、くくく口付けをするなどと!?」
「かーわいっ。子猫ちゃんってば、悪魔みたいなこと言ってるっ」
(まさしく悪魔だが!?!?)
くすりと笑った一人目のイケメン、アランに、アリギュラは内心全力で突っ込む。やはり、この者たちの目にも、アリギュラの姿は人間の小娘として映っているらしい。
「ちょっと。いつまでここにいるつもり? 僕疲れちゃったんだけど」
むすりと唇を尖らせたイケメンそのニ、ルリアンに、ジークとアランもそうだそうだと頷き合った。
「ルリアンの言う通りだ。レディをこんなに長く立たせたままだなんて、私はジェントル失格だね」
「ごめんね、子猫ちゃん。よかったら俺が、君を部屋まで運ぼうか?」
「ほんっとアランってば、女の子と見ればすぐ口説く。まあ、けど、手を繋ぐくらいなら正解かも。また逃げられても困るし」
「さあ」
「さあ」
「さあ!!」
(ひ、ひぃぃ……!?)
イケメン三人に詰め寄られ、アリギュラは心の中で悲鳴を上げた。
視界がキラッキラしている。キラッキラしすぎてもはや眩しい。アリギュラはこれまでも人間に囲まれたことがあるが、すべて戦場でのこと。殺意マックスに剣をぶん回す相手と対峙するのと、謎のイケメン三銃士ににっこにこ笑顔で迫られるのとでは勝手が違いすぎる。
なんだ、ヤるか。ヤればいいのか。ジリジリとにじり寄ってくるイケメンたちに、混乱するアリギュラの思考は物騒な方向に傾く。
「わ、わらわに寄るな、触るなー!! それ以上近づくなら、貴様らに『覇王の鉄槌』を……!」
「こちらにおられましたか!」
その時、イケメン三銃士とは別の、第三者の声が響いた。イケメンたちが振り返るのと同時に、アリギュラも彼らの合間から新しいその人物を覗いた。
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