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4.魔王、腹心の部下と再会する
しおりを挟む魔王アリギュラの下に集った魔族たちからなる、魔王軍。その中でもずば抜けて強大な力を持ち、軍の統率を任されていた最高幹部。それが、魔王軍四天王である。
四天王に連なる者には、それぞれ、西の天、東の天、北の天、南の天と地位が振り分けられている。特に西の天は、魔王が傾き苦しい時も最後まで支え共にする者として、最上の位とされた。
その西の天を冠する者こそ、魔王軍一の知将にしてアリギュラの腹心、メリフェトスである。
「あああ、アリギュラ様!! 再び御身のおそばにお仕えできるなんて、私、まるで夢のようでございます……!」
アリギュラの小さな手を取り、さめざめと泣くメリフェトス………と、名乗る人間の男。
メリフェトスの特徴であった、顔の半分、および体を覆っていた緑の鱗はなく、獲物を一瞬で貫く鋭利な尻尾もない。
確かに、どことなく面差しは似ている。似てはいるのだが、凛々しくも知的な目元も、すっと通った鼻筋も、さらりと揺れるヘーゼルナッツ色の髪も。何より全身から発せられる、目を覆いたくなるほどのイケメンキラキラオーラも。
はっきり言って、「誰だ、おまえ」状態である。
大事なことなのでもう一度言おう。誰だ、おまえ。
「おぬし。本当に、メリフェトスなのか?」
今更ながら疑わしげに眉を顰めて、アリギュラはメリフェトス(仮)を胡散臭く眺める。すると男は、はっとして顔を上げた。
「信じられませぬか!? い、いえ、無理はございません。まさか私も、人間畜生の姿を御身の前に晒すことになろうなどと。ですが我が君! 私は間違いなく、貴女様の一の臣下、メリフェトスでございます」
「いや、しかし……。その姿では、信じようにも……」
目をすがめて、アリギュラは口ごもる。自分だって人のことは言えないのは百も承知だ。アーク・ゴルドにいたときより身長も縮んだし、色んな意味で凄みが失われている。言うなれば、妖艶なる絶世の黒鳥が、ちんちくりんなひな鳥に逆戻りしてしまったかのような心もとなさだ。
けれどもメリフェトス(仮)は、少しも気分を害しはしなかった。それどころか、かっと目を見開いて、切々と訴え始めた。
「では我が君、こちらでいかがでしょう。私が我が君と巡り合った記念すべき日、我が君は私を足蹴にし、その尊い御足で私をお踏みになられましたね。後頭部にめり込む甘美な疼きも、ゾクゾクするような赤い瞳の激しさも、私は鮮明に覚えております!」
「んな!? お、おぬし! なんて記憶を引っ張り出すんだ!?」
「これだけではありません。我が君が猫舌で、熱いスープをこっそりふぅふぅされていることも。本当は丸っこくて可愛いものが大好きなのに、小動物に逃げらればかりで涙目になっていることも。昔は雷が苦手で、『覇王の鉄槌』を落とす時はちょっぴり緊張されていたことも、私はすべて……」
「や、やめろ!! これ以上、我が軍の機密情報を垂れ流すでない!!」
流れるようにアリギュラの秘密をバラす男を、アリギュラは全力で止める。
しかし今この男が口にしたことは、魔王軍の中でも四天王しか知らないトップシークレットだ。四天王の口は堅いし、魔族ならともかく、一介の人間が知りうるような情報でもない。だとすると、この男は。この、直視するには眩しいキラキライケメンは、本当に。
目をすがめつつ、アリギュラは相手を上から下まで眺めまわす。それから彼女は、感慨深くため息を吐いた。
「おぬし、変わったなあ……」
「認めていただけますか、アリギュラ様!」
「認めるというか、認めざるを得ないというか」
口をへの字にして、アリギュラはメリフェトスを観察する。隙もなく完璧に整った顔といい、シンプルだが色気を感じさせる服装という、これ見よがしにつけられたオシャレなモノクルといい。なんというか、盛り盛りである。属性盛り盛りな、イケメンである。
するとメリフェトスは、神妙に頷いた。
「仰りたいことはわかります。女神曰く、この姿は世界観との調整のためでして」
「……ん? なんじゃって? 女神?」
「アリギュラ様のお姿がアーク・ゴルドのそれと異なるのも、女神の調整のためです。申し遅れましたが、我が君。今のお姿も素晴らしゅうございますよ。少々ちんちくりんにはなられましたが、これはこれで男心をくすぐると言いますか、傅き甲斐があると申しますか……」
「話を進めろ! 女神とはどういうことじゃ?」
焦れるアリギュラは、地団駄を踏んで先を急かす。そんなことをしても可愛い少女が駄々を捏ねているようにしか見えないのだが、メリフェトスは恭しく胸に手を当てた。
「心してお聞きください、アリギュラ様。この世界はアーク・ゴルドとは異なる世界。言うなれば我々は、異世界に飛ばされたのです」
「異世界!? 異世界転移ということか!?」
「私はこの世界に飛ばされた折、創造主たる女神に会いました。そこで、世界の真実を知ったのです」
「世界の、真実」
ごくりと唾を呑み、アリギュラは真剣にメリフェトスを見上げる。同じくまっすぐにアリギュラを見つめて、メリフェトスは告げた。
「我々が飛ばされたのは『おとゅめげえむ』の世界。聖女を中心に据えた物語の世界です。そしてアリギュラ様。貴女様はその聖女として、この世界に召喚されたのです!」
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