魔王様は攻略中! ~ヒロインに抜擢されましたが、戦闘力と恋愛力は別のようです

枢 呂紅

文字の大きさ
5 / 39

5.魔王、『おとゅめげえむ』について知る

しおりを挟む

 『おとゅめげえむ』の世界。

 大真面目な顔で、メリフェトスが告げた聞きなれない言葉。――意味がまったくわからない。なんならその前段にあった、物語だとかヒロインだとか世界の中心だとか、何ひとつ頭に入ってこない。

 メリフェトスは相変わらず、美しい顔に苦渋の色を乗せて、重々しく息を詰めている。そんな彼に、アリギュラは敢えて問い返した。

「おぬしがわらわをからかっているのではないのはわかる。わかるが、敢えて聞こう。なんて????」

「『おとゅめげえむ』です、我が君」

「その『おとゅめげえむ』が、まったくわからないのだが????」

 真顔で答えるメリフェトスに、アリギュラは戸惑い首を傾げる。するとメリフェトスは、大いに頷き眉を八の字にした。

「アリギュラ様が戸惑われるのも当然です。ご安心ください。このメリフェトス、順を追って説明させていただきましょう」

 そう言って、魔王の一の腹心、メリフェトスは語り出す。この世界の創造主、女神クレイトスから知らされた真実について。

「まず、『おとゅめげえむ』ですが。それは、ここともまた異なる異界の地にて人間たちが興ずる娯楽、物語のようなものだそうです」

 物語の主軸は恋愛。主人公ヒロインと魅力的な異性との恋愛を描いた、主に人間の女どもに人気の娯楽なのだという。

「この世界も、そうした『おとゅめげえむ』の一つ。作品の大ファンである女神が、趣味と性癖を詰め込み再現した世界とのことです」

「おい、待て。『おとゅめげえむ』とは、人間の娯楽ではなかったのか? 女神もやるのか?」

「女神のもとには、多種多様の『おとゅめげえむ』が積まれていました」

「どんな女神だ!」

 突っ込みが追いつかないアリギュラを置き去りに、メリフェトスは先を続ける。

 アリギュラたちが飛ばされたのは、おとゅめげえむ『セカイを救う魔法のKiss』、通称『まほキス』を再現した世界らしい。

主人公ヒロインは、ここエルノア王国に聖女として召喚される。少女を迎えるのは、6人の魅力的な男性。数々の試練を乗り越えて少女はそのうちの一人と恋に落ち、エルノア王国を救う――というのが、まほキスの大筋だ。

「6人の男――攻略対象には、先ほどアリギュラ様がお会いされた人間どもが含まれています。エルノア国第一王子ジーク。その近衛騎士アラン。補佐のルリアン。ほかにも第二王子や王宮魔術師などがいるとか」

「第一王子……さっきペタペタ触ってきた奴か!」

「ええ。女神クレイトスにより世界は整い、あとは聖女を待つばかりとなりました。そして召喚の儀が執り行われたのですが……、それがたまたま、我らがアーク・ゴルドの地に繋がり、勇者と激突をしていたアリギュラ様を召喚するに至ったとのことです」

 なぜ、そんなことが。アリギュラは唖然としたが、考えてみればあり得ない話でもないのかもしれない。

 なにせあの時、アリギュラとカイバーンは命を削る激戦を繰り広げていた。そこに満ちていた魔力量は、半端なものではなかっただろう。異界から飛ばされた魔術が、ふらふらと引き寄せられてしまったのも無理はない。

 そして悔しいが、カイバーンとアリギュラとでは、アリギュラの方が弱っていた。だから異界の魔術に引きずられ、召喚などされてしまった。メリフェトスは言うなれば巻き添え。アリギュラのように直にこの世界に飛ばされるのではなく、一度女神のもとに飛ばされたのはそのために違いない。

 頭の中を必死にフル回転させて、アリギュラは考える。つまり、この世界は物語の再現で、大筋が決まっていて、世界の主人公は聖女で……?

「待て待て待て。つまり、わらわは主人公なのか? 世界の中心なのか?」

「その通りにございます、我が君! アリギュラ様は『まほキス』のヒロインとして、この世界に召喚されたのでございます!」

 メリフェトスがアリギュラの手を取る。しっかと両手で握りしめてから、魔王軍一の知将は恭しく進言した。

「かくなる上は、我が君! その類まれなる美貌と知略をもってして、『まほキス』のヒロインとしてのお役目、全うくださいませ!」

「――――イヤじゃ」

 ぺい、と手を引き剥がし、アリギュラは憮然と答えた。「な、なにゆえ……!?」と衝撃を受けるメリフェトスに、アリギュラは可憐な顔を思い切りしかめた。

「いや、おぬしが何をいっておるのだ? おぬし、さっき『おとゅめげえむ』の主題は恋愛だとはっきり言ったではないか。わらわ、魔王ぞ? 魔族の長ぞ? なにが悲しくて、人間の男と恋愛ごっこなどせねばならぬのだ」

「仰ることはもっともです! もっともですが、我が君……」

「だいたい、異界の人間などどうでもいいわ。滅ぼうがなんだろうが、好きにすればいい。わらわはやる気が出ぬ。徹底的に出ぬ」

「それが、滅ぼしてはならぬのです、魔王様!!」

 ぷいとそっぽを向いたアリギュラの前に、メリフェトスが回り込む。いつも以上に真剣な部下の様子――どうでもいいが、真面目な顔もイケメンである――に、アリギュラはついつい耳を傾けてしまう。

 一応は聞く姿勢を見せたアリギュラに、メリフェトスは衝撃の事実を告げた。

「『まほキス』のヒロインとして、エルノア王国を救う。それが叶わなければ、魔王様の魂はこの世界からはじき出され、世界のハザマで消失してしまうのです!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...