魔王様は攻略中! ~ヒロインに抜擢されましたが、戦闘力と恋愛力は別のようです

枢 呂紅

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5.魔王、『おとゅめげえむ』について知る

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 『おとゅめげえむ』の世界。

 大真面目な顔で、メリフェトスが告げた聞きなれない言葉。――意味がまったくわからない。なんならその前段にあった、物語だとかヒロインだとか世界の中心だとか、何ひとつ頭に入ってこない。

 メリフェトスは相変わらず、美しい顔に苦渋の色を乗せて、重々しく息を詰めている。そんな彼に、アリギュラは敢えて問い返した。

「おぬしがわらわをからかっているのではないのはわかる。わかるが、敢えて聞こう。なんて????」

「『おとゅめげえむ』です、我が君」

「その『おとゅめげえむ』が、まったくわからないのだが????」

 真顔で答えるメリフェトスに、アリギュラは戸惑い首を傾げる。するとメリフェトスは、大いに頷き眉を八の字にした。

「アリギュラ様が戸惑われるのも当然です。ご安心ください。このメリフェトス、順を追って説明させていただきましょう」

 そう言って、魔王の一の腹心、メリフェトスは語り出す。この世界の創造主、女神クレイトスから知らされた真実について。

「まず、『おとゅめげえむ』ですが。それは、ここともまた異なる異界の地にて人間たちが興ずる娯楽、物語のようなものだそうです」

 物語の主軸は恋愛。主人公ヒロインと魅力的な異性との恋愛を描いた、主に人間の女どもに人気の娯楽なのだという。

「この世界も、そうした『おとゅめげえむ』の一つ。作品の大ファンである女神が、趣味と性癖を詰め込み再現した世界とのことです」

「おい、待て。『おとゅめげえむ』とは、人間の娯楽ではなかったのか? 女神もやるのか?」

「女神のもとには、多種多様の『おとゅめげえむ』が積まれていました」

「どんな女神だ!」

 突っ込みが追いつかないアリギュラを置き去りに、メリフェトスは先を続ける。

 アリギュラたちが飛ばされたのは、おとゅめげえむ『セカイを救う魔法のKiss』、通称『まほキス』を再現した世界らしい。

主人公ヒロインは、ここエルノア王国に聖女として召喚される。少女を迎えるのは、6人の魅力的な男性。数々の試練を乗り越えて少女はそのうちの一人と恋に落ち、エルノア王国を救う――というのが、まほキスの大筋だ。

「6人の男――攻略対象には、先ほどアリギュラ様がお会いされた人間どもが含まれています。エルノア国第一王子ジーク。その近衛騎士アラン。補佐のルリアン。ほかにも第二王子や王宮魔術師などがいるとか」

「第一王子……さっきペタペタ触ってきた奴か!」

「ええ。女神クレイトスにより世界は整い、あとは聖女を待つばかりとなりました。そして召喚の儀が執り行われたのですが……、それがたまたま、我らがアーク・ゴルドの地に繋がり、勇者と激突をしていたアリギュラ様を召喚するに至ったとのことです」

 なぜ、そんなことが。アリギュラは唖然としたが、考えてみればあり得ない話でもないのかもしれない。

 なにせあの時、アリギュラとカイバーンは命を削る激戦を繰り広げていた。そこに満ちていた魔力量は、半端なものではなかっただろう。異界から飛ばされた魔術が、ふらふらと引き寄せられてしまったのも無理はない。

 そして悔しいが、カイバーンとアリギュラとでは、アリギュラの方が弱っていた。だから異界の魔術に引きずられ、召喚などされてしまった。メリフェトスは言うなれば巻き添え。アリギュラのように直にこの世界に飛ばされるのではなく、一度女神のもとに飛ばされたのはそのために違いない。

 頭の中を必死にフル回転させて、アリギュラは考える。つまり、この世界は物語の再現で、大筋が決まっていて、世界の主人公は聖女で……?

「待て待て待て。つまり、わらわは主人公なのか? 世界の中心なのか?」

「その通りにございます、我が君! アリギュラ様は『まほキス』のヒロインとして、この世界に召喚されたのでございます!」

 メリフェトスがアリギュラの手を取る。しっかと両手で握りしめてから、魔王軍一の知将は恭しく進言した。

「かくなる上は、我が君! その類まれなる美貌と知略をもってして、『まほキス』のヒロインとしてのお役目、全うくださいませ!」

「――――イヤじゃ」

 ぺい、と手を引き剥がし、アリギュラは憮然と答えた。「な、なにゆえ……!?」と衝撃を受けるメリフェトスに、アリギュラは可憐な顔を思い切りしかめた。

「いや、おぬしが何をいっておるのだ? おぬし、さっき『おとゅめげえむ』の主題は恋愛だとはっきり言ったではないか。わらわ、魔王ぞ? 魔族の長ぞ? なにが悲しくて、人間の男と恋愛ごっこなどせねばならぬのだ」

「仰ることはもっともです! もっともですが、我が君……」

「だいたい、異界の人間などどうでもいいわ。滅ぼうがなんだろうが、好きにすればいい。わらわはやる気が出ぬ。徹底的に出ぬ」

「それが、滅ぼしてはならぬのです、魔王様!!」

 ぷいとそっぽを向いたアリギュラの前に、メリフェトスが回り込む。いつも以上に真剣な部下の様子――どうでもいいが、真面目な顔もイケメンである――に、アリギュラはついつい耳を傾けてしまう。

 一応は聞く姿勢を見せたアリギュラに、メリフェトスは衝撃の事実を告げた。

「『まほキス』のヒロインとして、エルノア王国を救う。それが叶わなければ、魔王様の魂はこの世界からはじき出され、世界のハザマで消失してしまうのです!!」

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