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32.魔王、奇跡の再会を果たす
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上空から眼下をじっくり眺めて、アリギュラは赤い瞳を細めた。
辿り着いたのは、アルデールから東にまっすぐ飛んだ先。切り立った岩山の中腹、縦に亀裂の入った洞窟の入り口であった。
(前に、ジークあたりが話していたな。この世界の魔王はエルノア国の東のハズレ、終末の山に封印されていたと。ここがその山か?)
まあ、そこが終わりだか終末だか、名前がなんであれ関係ない。重要なのは、非常に微かだが、洞窟の中から慣れ親しんだメリフェトスの魔力を感じるということだけだ。
気になるとすれば、山の周辺および洞窟の入り口も含めて、アリギュラを待ち構える伏兵の姿がないことだが。
(罠か? いや。罠だろうと問題ない。身の程知らずにもわらわに向かってくる魔獣がいたら、お灸を据えてやれば済む話じゃ)
クリスによれば、最初に襲ってきたグズグリは、この世界の魔獣の中で強い部類に入るらしい。正直アリギュラにとってグズグリとの戦闘は、子猫をあやすように簡単であった。あれで高位魔獣と言うなら、ほかも恐れる必要はない。
魔王サタンだけは、底が知れない部分があるが。
(どちらにせよ、いずれ対峙する相手だ。行くぞ!!)
気合いを入れ、アリギュラは一気に洞窟に飛び込む。驚いたコウモリ等が、入れ違いに外に飛び出していく。それをものともせず、アリギュラはまっすぐに突き進む。
縦に細い通路が、しばらく続く。と思いきや、不意にぐんと視界がひらけた。
ゴツゴツとした岩肌の壁に囲まれた、半球のホール。半球といっても天井が高く、上の方がどうなっているのか目視することはできない。よく見ると光苔によってぼんやりと明かりはあるが、全体を把握するのは難しかった。
魔王サタンはどこだ。メリフェトスは。そう目を凝らしたアリギュラは、ふと壁にもたれて座り込む人影を目に捉えた。
「っ、メリフェトス!」
考えるより先に、アリギュラは人影に一目散に向かう。途中で地面に降りて駆け寄れば、やはりそれはメリフェトスだった。
近づいたアリギュラは、彼の痛々しい姿に思わず表情を歪める。汚れひとつなかった純白の装束は薄汚れ、あちこち擦り切れている。隙間から覗くのは、血の滲む切り傷。ひとつひとつは大きな怪我ではないが、ぐったりと壁に寄りかかる姿が、戦闘の激しさを窺わせた。
どくりと、心臓が嫌な音を立てる。それには気づかなかったふりをして、アリギュラはメリフェトスの隣にしゃがみこんだ。
「起きろ。わらわが来たぞ。おぬしの王が、わざわざ迎えに来たのだぞ」
肩を軽く揺するが、返事はない。重く閉ざされたままぴくりともしない瞼に、アリギュラは焦りを募らせた。
「おい、起きろ! こんなところで死ぬなど許さぬぞ!! もしそんなことがあれば、おぬしから四天王の座を剥奪して、永遠にわらわの前から追放して――……」
「……無茶、言わないでくださいよ」
微かな声と共に、メリフェトスの手がぴくりと動いた。
「メリフェトス!」
アリギュラが表情を緩めるのと、メリフェトスが目を開けるのとが同時だった。アリギュラの手を借りて身を起こした彼は、忌々しそうに額を押さえて顔をしかめた。
「死んだ上、四天王まで剥奪とか、さすがに私が可哀そうでしょうが……」
「お、おぬし! そんな軽口が叩けるくらいなら、わらわを驚かすな! てっきり、てっきりわらわは……!」
「死にませんよ。王の許可もないのに。人間の体ですので、少々回復には手間取りましたが」
壁に手を付きながら、メリフェトスが立ち上がる。体の傷が、みるみるうちに癒えていく。どうやら、アーク・ゴルドから持ち込んだ魔力を使って、体の再生能力を高めているようだ。
「それより、我が君。ひとつ厄介な報告がございます」
ヘーゼルナッツ色の髪の間から、メリフェトスが奥の暗闇を睨む。青紫色の瞳を細めて、彼は苦笑いを浮かべた。
「この世界の魔王の正体がわかりました。……少々、我々に分の悪い相手ですよ」
コツリと、高い足音が天井に響く。何か強力な魔力の持ち主が、こちらに近づいてくる気配がある。となりでメリフェトスが、姿勢を低くして身構える。それをちらりと見てから、アリギュラは黒い髪を揺らして暗がりに向き直った。
「ひさしぶりだな、魔王アリギュラ」
暗がりの中から響いたのは、低く艶やかな男の声。魔王と呼ぶには爽やかすぎる声に、アリギュラはぴくりと眉を動かす。
なぜだろう。今の声、どこかで聞いたことがある気がする。訝しんでアリギュラは赤い瞳を細めた。そうやって眺めていると、明るみの中にひとりの男が進み出てくる。
「数年ぶりにかつての宿敵と会えてうれしいよ。もっとも、君にとってはここ数か月の話だろうけど」
目を瞠るアリギュラをよそに、男はニヤリと笑う。けれどもアリギュラは、それに答える余裕はなかった。
黒く長いローブに身を包んだ、筋肉質だがすらりとした肢体。その上に乗る、男らしく端正な顔立ち。人と天使のハーフであることを示す、星々の光を閉じ込めたような輝く銀髪。
渦巻く角を二本、頭に生やしているが、間違いない。
「勇者カイバーン……!」
アリギュラが呼ぶと、カイバーンがますます笑みを浮かべる。それを睨みつけたまま、アリギュラは魔剣ディルファングを呼びだし、強く手に握った。
「貴様がなぜ、この世界にいる――!」
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