13 / 93
1章 呪われた皇帝
13
しおりを挟む翌日、藍玉は当たり前のような顔をして紫霄宮に現れた。
美しい妃は紅焔を見るなり、ふむと満足そうに頷いた。
「よろしい。言い付けに従い、昨夜はぐっすり眠ったようですね」
「おかげさまでな。身体も随分と軽くなった」
「食事もしっかり採られたと侍従長より聞き、何よりです。念のため、何も口に出来なかったときのため、昨夜と同じ薬を用意していましたが……せっかくなので、飲んでおきます?」
「いらんわ!」
得も言われぬ苦さを思い出し、紅焔は思わず口を押える。あのまずさは、飲まずに済むのなら飲まないのが一番いい。
顔をしかめて後ずさる皇帝に、藍玉はふふっと笑った。
「慣れれば癖になる味わいなのですが、まあ、いいでしょう。この薬は、またの機会にとっておきます」
できればそんな日が来ないようにと、紅焔はこっそり天に祈る。その時、ふと、夜明け前に目が覚めたときのことを思いだした。
「そういえば、今朝がた、部屋にいたのは君か?」
「はい?」
きょとんと小首を傾げられ、紅焔は「あ、いや……」と言いよどんだ。まだ日が昇る前、誰かが枕元にいた気がしたのだ。
ひやりと心地の良いものが額を撫でたので、初めは侍従長が汗を拭ってくれたのかと思った。けれども、朝になってから侍従長に尋ねたが、彼はその時間は顔を出してないという。もしかしたらと思って藍玉にも聞いてみたのだが、まったくの見当違いだったようだ。
(侍従長でも彼女でもないとすれば、俺は夢でも見たのか?)
だとすれば、誰かが枕元で様子を見守ってくれただなんて、なんとも自分勝手で都合のいい夢だ。それが気恥ずかしくて、紅焔は慌てて話題を変えることにした。
「それで、具体的にはどうやって怨霊を祓う?」
なぜそんな力を持っているのかわからないが、藍玉は怨霊や呪いを祓う術が使える。それも、かなりの使い手らしい。その彼女に「厄介な」と言わせる怨霊だ。いまさら疑うのもあれだが、なにか策はあるのだろうか。
すると藍玉は、微かに笑みを浮かべて頷いた。
「さっそく参りましょうか。ここから本気の、怨霊祓いが始まりますよ」
「以前も言いましたが、怨霊を祓うには、祓う相手のことをよく知る必要があります」
道すがら、藍玉は天気のことを話すような気軽さで、そんなことを話した。
「怨霊や呪いというのは、陰の気が寄り固まったもの。死者であれ生者であれ、恨み、妬み、無念、悲しみ、人間の負の感情が陰の気を生み、この世に留まっています。特に強い思念を持つ者は、無闇に陽の気をぶつけたところで、簡単に祓うことはできません」
弱く力のない霊であれば、軽く陽の気をぶつけるだけで、容易に祓うことができる。しかし、紅焔に憑りついているものは、その限度を超えているという。
「ですから、相手を知るのです。その怨霊を形作る陰の気の中身がなにか――なにを無念に思い、なにを恨めしく思うのか。その中身を正しく知り、相反する陽の気を的確にぶつける。そうして怨念の根元を断つことで、除霊することができるのです」
そうやって藍玉が連れてきたのは、春陽宮だった。先日と違って、壁の五か所に複雑な模様の描かれた札が張ってある。
「怨霊をおびき寄せ、この札で捕らえます」
赤筆で描かれた札の模様を眺めていると、藍玉がそう説明した。
「この部屋には、あえて結界を無くしています。代わりに、あなたを蝕むものを呼び出し、呪符の牢に閉じ込める。そこを、私が祓います」
「できるのか? 君はまだ、俺に憑りつくものについて多くを知らないだろう」
「それは、これからお聞きします。――玉、宗」
「「はい、姫さま」」
0
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる