狐姫の弔い婚〜皇帝には愛されませんが呪いは祓わせていただきます

枢 呂紅

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1章 呪われた皇帝

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 翌日、藍玉は当たり前のような顔をして紫霄宮に現れた。

 美しい妃は紅焔を見るなり、ふむと満足そうに頷いた。

「よろしい。言い付けに従い、昨夜はぐっすり眠ったようですね」

「おかげさまでな。身体も随分と軽くなった」

「食事もしっかり採られたと侍従長より聞き、何よりです。念のため、何も口に出来なかったときのため、昨夜と同じ薬を用意していましたが……せっかくなので、飲んでおきます?」

「いらんわ!」

 得も言われぬ苦さを思い出し、紅焔は思わず口を押える。あのまずさは、飲まずに済むのなら飲まないのが一番いい。

 顔をしかめて後ずさる皇帝に、藍玉はふふっと笑った。

「慣れれば癖になる味わいなのですが、まあ、いいでしょう。この薬は、またの機会にとっておきます」

 できればそんな日が来ないようにと、紅焔はこっそり天に祈る。その時、ふと、夜明け前に目が覚めたときのことを思いだした。

「そういえば、今朝がた、部屋にいたのは君か?」

「はい?」

 きょとんと小首を傾げられ、紅焔は「あ、いや……」と言いよどんだ。まだ日が昇る前、誰かが枕元にいた気がしたのだ。

ひやりと心地の良いものが額を撫でたので、初めは侍従長が汗を拭ってくれたのかと思った。けれども、朝になってから侍従長に尋ねたが、彼はその時間は顔を出してないという。もしかしたらと思って藍玉にも聞いてみたのだが、まったくの見当違いだったようだ。

(侍従長でも彼女でもないとすれば、俺は夢でも見たのか?)

だとすれば、誰かが枕元で様子を見守ってくれただなんて、なんとも自分勝手で都合のいい夢だ。それが気恥ずかしくて、紅焔は慌てて話題を変えることにした。

「それで、具体的にはどうやって怨霊を祓う?」

 なぜそんな力を持っているのかわからないが、藍玉は怨霊や呪いを祓う術が使える。それも、かなりの使い手らしい。その彼女に「厄介な」と言わせる怨霊だ。いまさら疑うのもあれだが、なにか策はあるのだろうか。

 すると藍玉は、微かに笑みを浮かべて頷いた。

「さっそく参りましょうか。ここから本気の、怨霊祓いが始まりますよ」


「以前も言いましたが、怨霊を祓うには、祓う相手のことをよく知る必要があります」

 道すがら、藍玉は天気のことを話すような気軽さで、そんなことを話した。

「怨霊や呪いというのは、陰の気が寄り固まったもの。死者であれ生者であれ、恨み、妬み、無念、悲しみ、人間の負の感情が陰の気を生み、この世に留まっています。特に強い思念を持つ者は、無闇に陽の気をぶつけたところで、簡単に祓うことはできません」

 弱く力のない霊であれば、軽く陽の気をぶつけるだけで、容易に祓うことができる。しかし、紅焔に憑りついているものは、その限度を超えているという。

「ですから、相手を知るのです。その怨霊を形作る陰の気の中身がなにか――なにを無念に思い、なにを恨めしく思うのか。その中身を正しく知り、相反する陽の気を的確にぶつける。そうして怨念の根元を断つことで、除霊することができるのです」

 そうやって藍玉が連れてきたのは、春陽宮だった。先日と違って、壁の五か所に複雑な模様の描かれた札が張ってある。

「怨霊をおびき寄せ、この札で捕らえます」

 赤筆で描かれた札の模様を眺めていると、藍玉がそう説明した。

「この部屋には、あえて結界を無くしています。代わりに、あなたを蝕むものを呼び出し、呪符の牢に閉じ込める。そこを、私が祓います」

「できるのか? 君はまだ、俺に憑りつくものについて多くを知らないだろう」

「それは、これからお聞きします。――たまそう

「「はい、姫さま」」
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