平和の狂気

ふくまめ

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愛してる⑧

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兵士がこの集落に訪れていると聞いてから、私たちはすぐにこの場を離れるという方針で固まった。兵士の目的がはっきりしないとはいえ、お尋ね者の私たちが遭遇するようなリスクは避けたい。
正直、エリザもルイズも置いていくことになってしまうことが心残りではあるが。ここから連れ出しても、お尋ね者として追われる立場になってしまう。これは最善とは言えないだろう。

「…よし、忘れ物はないな?もしあっても取りに帰ってこれないし、送ってもらうこともできないからなー。」
「なんて呑気な。」
「そもそも俺たちは旅をしているんだから、送り先がないだろう。」
「そういうことじゃないんですよ、ギルさん。」

荷物を再確認して、問題なし。いつでも出発できる状態にはしたが、危機感のないロランさんの声掛けやギルさんの返事に緊張感が緩んでしまいそうだ。
いかんいかん、これは逃走劇なわけなのだから。気を引き締めていかないと。

「…お姉さんたち、行っちゃうの?」
「えぇと…。」

エリザがおずおず、といった様子で話しかけてくる。この状況、私たちの立場から察する部分があるのだろう。「ここにいて」とか「連れて行って」とかは言い出さなかったが、こちらを見つめる二つの両目からはそういった感情が感じ取れるような、そんな印象を持ってしまう。これは私の勝手な想像なのだろうか。
どう返事をするべきなのか、分からない。

「…えっと、あのね…。」
「うし、こっちも荷造り完了!じゃあな二人とも、元気でな!」
「気をつけてな。」
「え、え?」

何とか返事をしなければ、その考えを遮るようにロランさんとギルさんはさっさと宿を出てしまった。そのあまりの潔さに慌てて追いかける。一拍遅れるようにして、エリザとルイズもついてきた。

「ちょ、ちょっと、二人とも!いいんですか!?」
「いいんですか、とは…どういうことだ?何か問題があったか?」
「あの子たちをこのまま置いて行っていいんですか?何かあったら…。」
「メアリちゃんの言いたいことはまぁ分かるが…俺様達の状況を考えると、これ以上できることは何もない。最後まで責任を持つことができないなら、最初からするべきじゃないよ。」
「…でも。」

ここ数日間を過ごした仲だというのに、あまりにあっさりとした別れのように思えて二人の行動に戸惑いを覚える。私たちは追われる身。そんな人間とこの子たちが一緒の行動すれば、厳しい生活になることは間違いない。でも、だからと言って…。

「…いいよ、お姉さんたちに良くしてもらって、あたしたち本当に嬉しかった。感謝してる。」
「いろんなことも教えてもらったし。」
「おうガキンチョ、感謝しろよ?お前がもしまかり間違って身を立てることができたら、この俺様の部下として『幼少の頃にお世話になりました』と身を粉にして働くことができる権利を与えよう。」
「どんな権利だよ!…まぁ、もし機会があったら…。」
「…本当にいいのね。」
「うん。」
「あたしたち、二人でやっていける。ここまでだって、二人だから頑張れたんだから。」
「…。」
「思うところがあるのは分かるが、ロランの言い分が現実的だ。俺たちの旅に巻き込むのは勧められない。」
「…はい、分かりました…。」
「納得してないって顔だなぁ、メアリちゃん。そんな優しいところもいいんだけど!」

後ろ髪を引かれながらも、エリザとルイズと別れようとしていると、少し離れた建物の影から現れた人影がキョロキョロと辺りを見回しているのが見えた。
まずい。

「…そこのお前たち、」
「んじゃーお二人さん、そういうことで!行くぞーお前たちぃ!」
「え、え?」
「…達者でな。」
「お兄さんたちも。」
「元気でね、お姉さん。」
「…。」

こちらに気がついたらしい人影が、何かを口走りながら向かってくる。それに気がつかないふりをしながら、ロランさんは足早にこの場を後にする。それにギルさんも続く。双子たちに小さく声をかけるが、返事も控えめだし目線も合わせようとしない。ここで私は、この双子と私たちが親密な関係にあることを悟られないよう配慮しているのだと気がついた。
私はつくづく、穏やかなところで生活していたんだと思い知らされる。エリザとルイズは即座に対応していたし、こういった修羅場を潜り抜けた経験があるのだろう。私よりも、随分若いだろう二人なのに。

「おい待て!貴様ら…!!」
「タスケテー、オニイサン!」
「あたしたち、あの人たちにキョーヨーされてたの!」
「え?あ、こら…!」
「コワカッター、コワカッタヨー!」
「タスカッター!」

急いで離れる私たちの背後で、追いかけてこようとした何者かに縋るエリザとルイズの声が聞こえる。
まるで足止めをするかのように。

「…まったく、相手に自分がどう見えてるのか考えて行動しろって教えたのに、あの演技じゃあなぁ。ま、及第点ってとこか。」

集落の影が見えなくなり始めた頃、ロランさんが小さくつぶやいた。
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