平和の狂気

ふくまめ

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人類の進歩

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双子との別れから数日。いまだに私たちは野宿を繰り返していた。

「ベッドに寝たい。」
「無理だ。」
「分かってますよ。分かっているんですけどぉー!」
「そういうことじゃねぇんだよ野蛮人。女の子はいつだって、お姫様みたいに扱ってほしいと思ってるんだよ。ねー、メアリちゃん!」
「いえそういうことではなく。」
「手厳しい!でもそんなところも良い!」

この旅にも少しずつ慣れてきてしまっているとはいえ、できることなら安心でやわらかい寝床で睡眠をとりたいという気持ちは変わらない。
何でもかんでも割り切れるわけではないのだ。

「でもまぁ、宿屋がないとどうにもな。」
「分かってます。言ってみただけですから…。」
「ふっふっふ…。そんなメアリちゃんに朗報だ。もう少し進んだところに町がありまーす!」
「本当ですか!?どこ、どこです!?」
「落ち着いて落ち着いて。今地図出すからねー。」

ロランさんのくだらない話に耳を傾ける必要はないかと思っていたが、街が近くにあるというのであれば話は別だ。早いところ位置を確認して町に辿り着かなければ!
小さな声で『こういうやつが遠征だと死ぬんだよな…。』と言っているギルさんは完全に無視した。

「この先にドラって町があるんだ。」
「ドラ?調剤の町の?」
「お、さすが知ってるね。そう、この町は古くから薬の開発や販売が盛んな町。医療関係者名乗ってて知らない奴はモグリだって言われるくらいに有名なんだってな。」
「昔、両親と一緒に行ったことがあります。」
「そうなのか?このあたりの地形に、見覚えなかったのか?」
「結構小さな頃でしたから。…というか、街の景観ならまだしも、周囲の地形はさすがに分からないかと。」
「俺様も何度か行ったことはあるが、最近重要そうな町は兵士に奴らも気合入れて巡回してたからなぁ。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだし、あんまり近寄らなかったのよねぇ。どうなっていることやら…。」
「…不穏な動きでもあるのか?」
「いんやぁ?だた、かつては軍に多くの薬を卸していた町だ。一方、戦争が終わったとはいえ、薬の製造は万人に求められてる。戦争に加担していないとは言えない町を、このご時世どう扱ってんのか怪しいもんだ。」
「…。」

戦争の折、様々な薬品が軍に献上された。それは一般家庭への流通が滞るほど厳しく行われた時期もあるほどだ。もちろん、軍に向けた薬品の開発が急務だったし、多くの科学者が尽力するその真っただ中にいたのが、私の両親だった。毎日のように、軍のお偉いさんに薬品開発の進捗を説明しなければと身を粉にして働いていた両親の姿が思い起こされる。
その二人も、今どうなってしまっているのか…。

「まぁ遅くとも三日ぐらいしたら見えてくるはずだから。もう少し頑張ろうね、メアリちゃん。」
「はい…。」

三日。三日か…。目標ができて楽しみな気もするが、それまでの道のりが遠く感じる。人によるだろうが、地図で確認すると非常に短い距離に見えることがまた憎々しい。
いや地図に怒っても仕方がないことだと分かっているんだけども。

そして、長いようで短い三日が過ぎた頃…。

「…ここが…。」
「そ、手に入らない薬はないって言われるドラの町。なんだが…。」
「なんです、これ…。」

私たちは一瞬言葉を失ってしまった。
私の記憶にあるのは、新薬の販売を掲げる看板のお店、軒下に薬草を干している大ベテランの薬剤師、そこに勉強しに駆け寄る小さな研究者の卵たち。そんな光景だ。
だが、今目の前に広がっているのは、一体どうしたことだろうか。

「…まともに開いている店を探す方が難しいかもしれないな。」
「販売しているらしい薬品の値段がとんでもないくらい高い。…本当に置いているかも怪しい店構えだなぁ。」
「あんなに賑わっていたのに…。どうして。」

道を行く人はほとんどおらず、お客を呼び込もうと開け放たれていた窓は締め切られている店ばかり。辛うじて開店してるお店も、薄汚れた看板に書きなぐられている薬の値段は相場の数倍。店員も暗い顔をして俯き、数少ない通行人が通り過ぎようが一言も発しない。

「これは…本当にどうにかされちまってんじゃないかねぇ…。」
「どうにかって…。」
「さぁ…。少なくとも、俺様の勘が『長居はすんな』って叫んでるわ。」
「腹が立つが同意だ。」
「俺様の意見マネすんじゃねぇ、腹立つのはこっちだバカ!」

言い合いに発展しそうな二人が気にならない。それほど私はショックを受けてしまっていた。
両親との思い出の場所。一般家庭がどうかは分からないが、私にとってここは充実した家族の時間を過ごすことができた場所だったのだ。それが、こんな姿に…。
私はしばらく呆然と立ち尽くすしかできなかった。
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