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ある魔女の話~過去と未来⑧~
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「さて、アメリア。今回の薬はちょっと難しいぞ。大丈夫?」
「はい、店長。成功させて見せます。」
「よし!じゃあ落ち着いて、薬作り開始。」
この村から出ることを心に決めてから、もう2年が経った。
その間あたしは店長のところで働きながら勉強を続け、様々な薬の作り方や知識を学ばせてもらって、
今日やっとこの日を迎えている。
―――
「薬屋になりたい?」
「はい。」
図書館の火事があってから数日後。あたしは店長に薬屋になりたいと相談していた。
あたしの言葉を受けて、店長はうーんと少し考えこんで続けた。
「確かに君の知識はすごいよ。でもそれは同年代の子達と比べてってことは、払拭しようがない。
専門家として、お客さんからお金をもらって薬を提供するにはまだまだだ。
正直現実的じゃないね。」
「…。」
店長の言うことはもっともだ。薬は使用者の体調を左右する。命にだって。
「ま、でも君の事だから、今すぐに薬屋を開業しようなんてことを考えていないことは分かるよ。
将来的に、ってことでしょ?そうだね…。」
「…難しいでしょうか。」
「…薬屋としてやっていくつもりなら、それなりの腕前でなきゃ。」
「そうですね…。」
「うちで修行して、僕の指定した薬が全て作れるようになったら、薬屋としてやっていくことを認めよう!」
「はい?」
ほんとは僕にそんな権限ないけどねー、と店長は笑っていた。
こうして、あたしはこの店で働きながらも見習いとしてより勉強に力を入れる日々を送ることになる。
店長から指定された薬を作るという課題を少しずつ熟しながら、徐々に薬を作る技術を身に着けていったのだった。
―――
「いよいよだね。…正直、こんなに早くこの薬を作るようなところまで来ると思ってなかったよ。」
「そうだったんですか。」
「うん。ちょっと難し目の課題にしたつもりだし。でも、期待していたことも確かだよ。
ここで働く前から、優秀だってお母さんから聞いた話でも思ってた。」
「…。」
恥ずかしい…。お母さんは店長に何を話していたのだろう。
お母さんは今でも薬草をこの店に卸しているが、気を使っているのかあたしが働いている時間帯は来たことがない。
もし来たらどんな顔で対応したらいいか分からないから、助かるけれど。
さて、今回作る薬はこれまでの物と比べてかなり難易度が高い。
材料と機材を確認しながら、作成する過程を何度も思い浮かべる。
「…薬屋になりたいってこと、お母さんには言ったの?」
「昔からそればかり話してましたから。今改めてそんなこと言っても、驚かれませんよ。
そう言うと思ってた、ぐらいの反応です。」
「そっか。…ジークには?」
店長の言葉に薬草を刻んでいた手が止まる。…ジークか…。
将来あたしが薬屋になりたいことは何となく分かっているかもしれないが、
実際開業しようと動いていることについては、何も話していない。
ましてや、この村から出て行こうと思っていることなんて…。
沈黙を貫くあたしに何かを察したのか、店長は深いため息をつく。
「…別に他人が口を挟むことじゃないとは思うけどね、僕は。
でもあえて言わせてもらうとすれば、ちゃんと話しておいた方がいいよ。きっと後悔する。」
「…ちょっと集中したいので。」
以前作った軟膏をジークに渡してから、その軟膏を買い足すためか度々ジークはここに顔を出すようになっていた。
それなりの頻度で来ていたので、店長ともすっかり顔なじみ。
とはいえ、この村に住んでいる人数を考えれば、全く知らない人間なんてほとんどいないんだけど。
何を勘違いしているのか、店長は何かにつけてあたしとジークの話をするようになって、正直困るのだ。
その気持ちを込めて、店長との話を切り上げる。
この薬は材料を手際よく加えてかき混ぜ続けなくてはならない。
繊細な作業に集中するために、頭の中からジークを追い出した。
「はい、店長。成功させて見せます。」
「よし!じゃあ落ち着いて、薬作り開始。」
この村から出ることを心に決めてから、もう2年が経った。
その間あたしは店長のところで働きながら勉強を続け、様々な薬の作り方や知識を学ばせてもらって、
今日やっとこの日を迎えている。
―――
「薬屋になりたい?」
「はい。」
図書館の火事があってから数日後。あたしは店長に薬屋になりたいと相談していた。
あたしの言葉を受けて、店長はうーんと少し考えこんで続けた。
「確かに君の知識はすごいよ。でもそれは同年代の子達と比べてってことは、払拭しようがない。
専門家として、お客さんからお金をもらって薬を提供するにはまだまだだ。
正直現実的じゃないね。」
「…。」
店長の言うことはもっともだ。薬は使用者の体調を左右する。命にだって。
「ま、でも君の事だから、今すぐに薬屋を開業しようなんてことを考えていないことは分かるよ。
将来的に、ってことでしょ?そうだね…。」
「…難しいでしょうか。」
「…薬屋としてやっていくつもりなら、それなりの腕前でなきゃ。」
「そうですね…。」
「うちで修行して、僕の指定した薬が全て作れるようになったら、薬屋としてやっていくことを認めよう!」
「はい?」
ほんとは僕にそんな権限ないけどねー、と店長は笑っていた。
こうして、あたしはこの店で働きながらも見習いとしてより勉強に力を入れる日々を送ることになる。
店長から指定された薬を作るという課題を少しずつ熟しながら、徐々に薬を作る技術を身に着けていったのだった。
―――
「いよいよだね。…正直、こんなに早くこの薬を作るようなところまで来ると思ってなかったよ。」
「そうだったんですか。」
「うん。ちょっと難し目の課題にしたつもりだし。でも、期待していたことも確かだよ。
ここで働く前から、優秀だってお母さんから聞いた話でも思ってた。」
「…。」
恥ずかしい…。お母さんは店長に何を話していたのだろう。
お母さんは今でも薬草をこの店に卸しているが、気を使っているのかあたしが働いている時間帯は来たことがない。
もし来たらどんな顔で対応したらいいか分からないから、助かるけれど。
さて、今回作る薬はこれまでの物と比べてかなり難易度が高い。
材料と機材を確認しながら、作成する過程を何度も思い浮かべる。
「…薬屋になりたいってこと、お母さんには言ったの?」
「昔からそればかり話してましたから。今改めてそんなこと言っても、驚かれませんよ。
そう言うと思ってた、ぐらいの反応です。」
「そっか。…ジークには?」
店長の言葉に薬草を刻んでいた手が止まる。…ジークか…。
将来あたしが薬屋になりたいことは何となく分かっているかもしれないが、
実際開業しようと動いていることについては、何も話していない。
ましてや、この村から出て行こうと思っていることなんて…。
沈黙を貫くあたしに何かを察したのか、店長は深いため息をつく。
「…別に他人が口を挟むことじゃないとは思うけどね、僕は。
でもあえて言わせてもらうとすれば、ちゃんと話しておいた方がいいよ。きっと後悔する。」
「…ちょっと集中したいので。」
以前作った軟膏をジークに渡してから、その軟膏を買い足すためか度々ジークはここに顔を出すようになっていた。
それなりの頻度で来ていたので、店長ともすっかり顔なじみ。
とはいえ、この村に住んでいる人数を考えれば、全く知らない人間なんてほとんどいないんだけど。
何を勘違いしているのか、店長は何かにつけてあたしとジークの話をするようになって、正直困るのだ。
その気持ちを込めて、店長との話を切り上げる。
この薬は材料を手際よく加えてかき混ぜ続けなくてはならない。
繊細な作業に集中するために、頭の中からジークを追い出した。
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