某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

文字の大きさ
8 / 84

ある魔女の話~過去と未来⑧~

しおりを挟む
「さて、アメリア。今回の薬はちょっと難しいぞ。大丈夫?」
「はい、店長。成功させて見せます。」
「よし!じゃあ落ち着いて、薬作り開始。」

この村から出ることを心に決めてから、もう2年が経った。
その間あたしは店長のところで働きながら勉強を続け、様々な薬の作り方や知識を学ばせてもらって、
今日やっとこの日を迎えている。

―――

「薬屋になりたい?」
「はい。」

図書館の火事があってから数日後。あたしは店長に薬屋になりたいと相談していた。
あたしの言葉を受けて、店長はうーんと少し考えこんで続けた。

「確かに君の知識はすごいよ。でもそれは同年代の子達と比べてってことは、払拭しようがない。
 専門家として、お客さんからお金をもらって薬を提供するにはまだまだだ。
 正直現実的じゃないね。」
「…。」

店長の言うことはもっともだ。薬は使用者の体調を左右する。命にだって。

「ま、でも君の事だから、今すぐに薬屋を開業しようなんてことを考えていないことは分かるよ。
 将来的に、ってことでしょ?そうだね…。」
「…難しいでしょうか。」
「…薬屋としてやっていくつもりなら、それなりの腕前でなきゃ。」
「そうですね…。」
「うちで修行して、僕の指定した薬が全て作れるようになったら、薬屋としてやっていくことを認めよう!」
「はい?」

ほんとは僕にそんな権限ないけどねー、と店長は笑っていた。
こうして、あたしはこの店で働きながらも見習いとしてより勉強に力を入れる日々を送ることになる。
店長から指定された薬を作るという課題を少しずつ熟しながら、徐々に薬を作る技術を身に着けていったのだった。

―――

「いよいよだね。…正直、こんなに早くこの薬を作るようなところまで来ると思ってなかったよ。」
「そうだったんですか。」
「うん。ちょっと難し目の課題にしたつもりだし。でも、期待していたことも確かだよ。
 ここで働く前から、優秀だってお母さんから聞いた話でも思ってた。」
「…。」

恥ずかしい…。お母さんは店長に何を話していたのだろう。
お母さんは今でも薬草をこの店に卸しているが、気を使っているのかあたしが働いている時間帯は来たことがない。
もし来たらどんな顔で対応したらいいか分からないから、助かるけれど。
さて、今回作る薬はこれまでの物と比べてかなり難易度が高い。
材料と機材を確認しながら、作成する過程を何度も思い浮かべる。

「…薬屋になりたいってこと、お母さんには言ったの?」
「昔からそればかり話してましたから。今改めてそんなこと言っても、驚かれませんよ。
 そう言うと思ってた、ぐらいの反応です。」
「そっか。…ジークには?」

店長の言葉に薬草を刻んでいた手が止まる。…ジークか…。
将来あたしが薬屋になりたいことは何となく分かっているかもしれないが、
実際開業しようと動いていることについては、何も話していない。
ましてや、この村から出て行こうと思っていることなんて…。
沈黙を貫くあたしに何かを察したのか、店長は深いため息をつく。

「…別に他人が口を挟むことじゃないとは思うけどね、僕は。
 でもあえて言わせてもらうとすれば、ちゃんと話しておいた方がいいよ。きっと後悔する。」
「…ちょっと集中したいので。」

以前作った軟膏をジークに渡してから、その軟膏を買い足すためか度々ジークはここに顔を出すようになっていた。
それなりの頻度で来ていたので、店長ともすっかり顔なじみ。
とはいえ、この村に住んでいる人数を考えれば、全く知らない人間なんてほとんどいないんだけど。
何を勘違いしているのか、店長は何かにつけてあたしとジークの話をするようになって、正直困るのだ。
その気持ちを込めて、店長との話を切り上げる。
この薬は材料を手際よく加えてかき混ぜ続けなくてはならない。
繊細な作業に集中するために、頭の中からジークを追い出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...