某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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ある魔女の話~過去と未来⑨~

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結果として、最後の課題の薬作りは成功した。…何回か、失敗したけど。
最終的に店長から合格をもらったし、大丈夫よね。
とはいえ薬作りを始めて間もないあたしがお店を持つなんて無謀。
開店資金だってまともにないし、もう少しこの店で働くつもりではいる。
薬屋になりたいと相談してから、店長が知り合いの人と掛け合って、
ここよりもう少し大きい町での働き口も探してくれているらしい。
本当に店長にはお世話になりっぱなしだ。

「それじゃ、僕は3日ぐらいお店を空けるから。
 店番をお願い。無理して開けなくてもいいけどねー。」
「分かりました。気をつけて。」

今日から店長はその知り合いの方に会いに行くため、数日店を空けることになっている。
定期的に通っているお客さんには事前に伝えているし、ほとんどお客さんが来ることはないだろう。
この店のほとんどのことを任せてもらえるようになっていたあたしは、店番を任せられることも多くなっていた。
店長を乗せて町へと向かう馬車を見送り、店の在庫の確認がてら整理するために奥へと下がる。
店のカウンターに呼び出し用のベルを置いたし、もしお客さんが来ても呼んでもらえるだろう。
ま、お客さんなんて来ないと思うけど。

『チリンチリーン』
「…え?」

しばらく薬と薬草に埋もれながら片付けていると、カウンターに置いていたベルが来客を告げた。
持っていた瓶を置いて店頭へと顔を覗かせる。

「はい?」
「あ、先輩!お疲れ様です!」
「ジーク。どうかした?軟膏はこの間買っていったと思ったけど…。何か新しい薬が必要になった?」
「いえ、そうじゃないですけど…。」
「…もしかして店長に用事だった?ちょうど今出てしまって…。」
「て、店長に用事があったわけでも、ないです。」
「そう…?」

お客さんはジークだったわけだけど、特に用事があったわけでもないと…。
まぁ他のお客さんが来る様子もないし、別にいいけれど。
店内に面白いものがあるわけではないけれど、まじまじと見るのは初めてなのか、
ジークは瓶詰された薬が置かれた棚を眺めている。
色とりどりの瓶が並べられた棚は、その薬を買いに来たお客さんだけでなく、一時期女性に人気が出た。
薬によって瓶の色や形を変えるようになったのは、あたしの提案だ。
店長が容器を仕入れていた時は、あまり瓶の種類を取り扱っていなかった。
そのため同じような瓶に違う薬を入れてしまっていて、
ぱっと見中身の薬が何かわかりづらいという話を聞いていた。
確かに、あたしたち作る側は分かっていても使う時に間違えでもしたら一大事。
ということで、多少仕入れに時間やお金がかかっても、
もう少し種類を増やして薬によって入れ物を変えることを提案させてもらったのだ。
薬を数種類使っている人から薬が見分けやすくなったと好評だったが、
一部の女性からは中身はいらないから容器の瓶の方を売ってほしいと持ち掛けられる事態となった。
正直ここまでになるのは予想外だったけど、こういったものに女性は心躍るわよね。
…ジークがこのカラフルな瓶に興味がある可能性は、あまりないかもしれないけど。

「…この瓶って、店長が仕入れたんですか?」
「いや、これはあたしの提案。同じような瓶だけだと、中身を間違えてしまうことになりかねないから。」
「へぇ…。先輩、こういうの好きなんですか?」
「…悪い?瓶の種類を増やして使い分けできるようにすればいいだけなんだから、何だっていいでしょ。」
「意外とかわいいの好きなんですね。」
「…邪魔するなら帰れー!」

笑いながらつぶやくジークにカチンときて追い出してしまった。
意外とは余計だ!可愛いものが似合わなくて悪かったな!
ジークを追い出したその足で、店の入り口に『本日閉店』の札をひっかける。
鼻息荒く奥に引っ込んで、やりかけていた在庫整理に取り掛かる。
心なしか物を取り扱う手つきが少々荒い。落ち着いて、薬品は慎重に扱わないと…。大丈夫。
…ジークにちょっとからかわれただけで、あたしは何をムキになってんのよ。
そこから店長が帰ってくるまでまともにお店を空けることはなく、ジークに会うこともなかった。
帰ってきた店長に少し八つ当たりをしてしまうくらいなぜは引きずっていたけれど、
薬学の本をお土産にもらって機嫌を直してしまった。
ありがとう店長。そしてごめんなさい。

「そうそう、この間言ってた知り合いからの紹介の話なんだけどさ。」
「新しい職場を探してくれる話ですか?」
「うん。何軒か人手がほしいお店があったって。
 どんなところか書類もらって来たから、はい。しっかり読んで返事するようにね。」
「ありがとうございます。」

店長の知り合いの方が済んでいる町は、薬屋が数軒あってその中から候補を絞っている感じだ。
様々なお店の情報が載っている書類をめくりながら、それぞれのお店へと思いを馳せる。
店長がおススメしてくれているお店もあって、そのお店のページだけ書き込みの量がすごくてふきだしてしまう。

「あ、そのお店の人ね、とってもいい人なんだ!女性の店長さんだし、いいんじゃないかなぁ。」
「店長、その方のお店本当に好きなんですね。」
「え!?そ、そうかなぁ、普通じゃないかぁ。いや普通というか、その店長さんの人柄って言うか…。」

何やらごにょごにょと続ける店長を無視して書類を読み進めていく。
でも、店長の知り合いだったら安心かも。…腕の良さや人柄だけじゃない部分の評価も入ってそうだけど。
よし、このお店に話を聞きに行こう。

「店長、その知り合いの店長さんにお話し伺いに行きたいんですが。紹介していただいてもいいですか?」
「え、ほんとに!?このお店でいいの!?」
「え、えぇ…。何か問題があるなら結構ですが…。」
「ううん!そんなことない!いやーそっかぁ。君もこのお店が気になるのかぁ。
 弟子が気になるって言うんだったら、師匠である僕が間を取り持たないわけにはいかないよね、うん!」
「ですから、それをお願いしているんですが。」

店長は早速、紹介の手紙を書こうと便箋を取り出してカウンターで書き始めた。
心なしか店長の周りには花が舞っているように見える。
というか、可愛らしい薄ピンクの便箋なんて、どこから出したんです?
季節のあいさつにあーでもないこーでもないと頭を悩ませている店長を見て、少し心配になってしまった。
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