某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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あるのっぽの話~兄弟➁~

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優秀な兄と愚鈍な弟。
そういわれても仕方がないと、小さな頃から思っていた。
兄さんは、僕の歳の頃にはもう父さんの仕事を手伝っていたし、今だって少しずつ仕事を教わっていて、いずれは診療所を継ぐだろう。
その頃の僕は、いったい何をしているだろう。全く想像もできない。

「アレックス、夕飯の準備お願いしてもいいかしら。今日患者さんが多くて!」
「う、うん。」
「お願いねー。私も診療所に戻らないと!」
「い、行ってらっしゃい、母さん…。」

兄さんが出ていったのを見送ってから、母さんもいくつか薬草を持って診療所に戻ってしまった。母さんも、患者さんの薬を調合したり悩み事を聞いたりして、いつも忙しくしている。父さんは言わずもがな、たくさんの患者さんを診断するため、いつも診療所にかかりきりだ。
いつもこうだ。いつも僕はみんなが忙しくしている時に雑用をしている。
雑用をすることが嫌なんじゃない。自分が戦力になれないことが嫌なんだ。
役に立てるように努力するように言いつけられたこともない。初めから頭数に入っていないんだ、僕は。

「…これ…。」

まずはリビングを片付けようと手を付けるが、その中でさっきまで兄さんが呼んでいた本が目に入った。
当然のように医療に関係している本の様だ。表紙からでも難しい内容であることが伺える。
おもむろに手に取り、適当なページを開いてみる。内容に目を通してみても、どこもかしこも難しい内容ばかり。正直僕の読める言語で書いてあるのかも疑いたくなるくらい訳が分からない。ページをめくってみようが文章をじっと見つめてみようが、やっぱり理解できない。
兄さんはいつもこんな難しい本を読んで勉強しているんだ。僕は絵が乗っている植物の図鑑や冒険物語が好きだから、どうしたって難しい内容は理解が追い付かない。ウィルやレイだって、こんなに難しい本は読んだことが無いだろう。何でもないように読み進めてしまう兄さんは、やっぱりすごいなぁ…。

「何してる。」
「ひっ!?」

急に背後から声をかけられたものだから、驚いて肩がびくついてしまう。その拍子に持っていた本を落としてしまう。兄さん、父さんのところに行ったんじゃ…。
振り返って様子を窺うも、すでに兄さんの視線はさっきまで僕が持っていた本へと移っていた。

「読んでたのか。」
「ご、ごめんなさい、片付けようと、思って…。」
「片付けるのに内容まで確認する必要があるのか。」
「…ごめん、なさい。」
「それで、内容がちょっとでも理解できたのか、お前に。」
「…。」
「お前には、絵がたくさん載っているような本がお似合いだよ。」
「…うん。」
「…二度と触るな。」
「…はい…。ごめんなさい…。」

兄さんは本を持って自室へとこもってしまった。どうやら、父さんの用事はすぐに終わるものだったようだ。
…兄さん、怒ってたな。また僕のせいで、怒らせてしまった…。
僕が、気が利かなくて、余計なことをしてしまったから…。
兄さんは優秀で、いつも勉強を頑張っている。だから僕は、そんな兄さんを手助けできるようになりたい。小さなことでもいいから…。兄さんは、そんなこと求めていないのかもしれないけど…。もしかしたら、また余計なことをして怒らせてしまうかもしれないけど…。それぐらいしか、僕にできる事ってないから。
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