某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

文字の大きさ
31 / 84

あるのっぽの話~兄弟③~

しおりを挟む
家族みんなが忙しくしている間、僕が家のことをはじめとする雑用をこなす。そんな日々が変わらず続いていた。
そんなある日、父さんの診療所に急患が運び込まれた。大人2名。彼らは僕もよく知った夫婦だった。

「いるか、先生!急患だ!」
「診てやってくれ!出血がひどい!」
「いったいどうした!」

家からでも聞こえた異様な騒ぎに、僕も診療所を覗き込んだから、その時のことはよく覚えている。忘れられるはずもない。ひどい有様だった。担ぎ込まれた2人の体から大量の血が流れだし、運んできたであろう人の体までも真っ赤に染め上げていた。2人とも既に意識はないのだろう。ぐったりとしてピクリとも動かない。女性の薄く開いた口元からは血の気が感じられず、男性の方は、両足がなかった。

「作物の出荷に出たところを、魔獣に襲われたんだ!」
「あの道は国に魔獣被害を訴えていただろう!」
「こんな田舎まで兵士が出張ってくるはずがねぇ!」
「でも、生きてくためには…!」
「俺たちは見て見ぬふりか!上の奴ら…!」
「もういい!患者が優先だ!」
「先生…。」
「みんな、よくここまで運んでくれた。だがここからは部外者は席を外してもらう。アレックス!お前もだ!」
「!!」
「グライス!母さんと一緒に処置室の準備を。」
「はい!」
「処置に必要な薬品を取って来ます!」

父さんは人払いをするように村の人へと伝えていた。部外者を遠ざけ、緊急性のない患者には一旦診療を中止するようにと。父さんの思う部外者には、僕も含まれていた。
父さんは兄さんと母さんを引き連れて、患者さんと共に奥へと入ってしまった。僕へと目を向けることもなかった。今は患者さんが最優先だ、父さんが言ってたじゃないか。この状況からしたら当然だ。僕が今役に立てることなんて、父さんたちの邪魔をしないことだけだ。
それに、僕には気がかりなことがあった。こうしてはいられない、行かなきゃ。
やりかけだった家事を投げ出して、家とは違う方向に走り出した。

「アレックスー!」
「あ、レイ!」

ある場所に向かって走っていると、別の道から走って来るレイに出くわした。いつもとは違ったきっちりした服を着ているあたり、今日はお父さんから逃げ出せなかったようだ。
しかし、この騒動の中では勉強を続けられるはずもなく、こうして抜け出してきたみたいだ。普段であれば遊びに行くところだろうが、今日はそうもいかない。レイの顔色は悪く、引きつっている。きっと僕もそうだろう。

「おい、話は本当なのか!?」
「う、うん…!だから僕、いてもたってもいられなくて…。」
「早いところ行こうぜ!あいつが心配だ!」
「うん!」

レイは既にこの状況を知っているようだった。それもそうか。この村の重要な出来事は真っ先にレイの家へと伝えられる。きっと父さんが帰した村の人が、伝えに行った時に聞いたのだろう。
レイと一緒に目的の場所へと走り出す。僕たちの向かう場所はこの村の少しはずれ。あの夫婦はそこで農業をしていた。
そして2人は、ウィルの両親だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...