某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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あるのっぽの話~兄弟⑤~

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次の日、村では早くからたくさんの人が村のはずれに集まっていた。そこはウィルの家ではなく、この村の共同墓地だ。今日はウィルの両親の葬儀が行われる。
無くなった状況が状況なだけに、レイのお父さんが集まった人たちに事情を説明している。ウィルの両親は農作物の出荷に出たところを、魔獣に襲われたのだそうだ。隣町へと向かうその道は、僕たちにとって生活に欠かせない道でありながらも最近魔獣を見かけるようになってきて、国にどうにかしてほしいと訴えているところだった。しかし、待てども兵士や討伐隊が派遣される様子はない。生活していくためにも、できるだけ通らないようにするのも限界だというところに今回の事故が起きたのだ。
一通り説明が終わり、2人に祈りをささげる。埋葬のために男の人たちで前もって準備していた穴に棺桶を沈めていく。湿った土の匂い。すすり泣く人の声。穴の中に土が入れられて、すっかり棺桶の姿が見えなくなっても、ウィルは一言も発しなかった。
ウィルには兄弟や親戚はいなかったから、レイのお父さんが側に立って葬儀を進めた。村の人がウィルに声をかけても、静かに頭を下げるだけ。その痛々しい様子に、大人たちは口々にかわいそうだと胸を痛めている。

「…。」
「ウィル…。」

朝から行われた葬儀はとっくに終わり、すでに日が沈もうとしている。村の人たちも、ウィルを心配して付き添っていたレイのお父さんも、もう村へと帰ってしまっていた。この墓地にいるのは、ウィルとレイと僕の3人だけ。やっと3人だけになった。ウィルは心配する大人たちに囲まれていて、近づくことができなかったから。

「…これからどうするんだ、ウィル。オレんちに来るって話、断ったんだって?」
「…うん。」
「え、そうなの…?」
「…俺、もともとどこかに就職しないで父さんたちの農業を手伝うつもりだったんだ。小さい時から手伝ってたし、最近は任せてもらえる仕事も増えて来てたし。…商売の部分は、教えてもらえなかったけど、自分が生きていくくらいはどうにかなるから。」

だから、レイの家では暮らさないで、1人で暮らすよ。そう言うウィルは、かなり落ち着いているように見える。確かに、昔遊びがてらウィルの家の畑を手伝った時、同じ年とは思えない程てきぱきと働いていたのを思い出す。そのまま農家になると言われても、何の違和感もない。何より、数日とはいえご両親がウィルだけを置いて家をかけていたことが、かなり信用されていたことを表している。今回は、それが裏目に出てしまったわけだが。

「そうじゃねぇよ。1人で暮らして、何するんだって話だよ。」
「え、だから、農家を続けるって…。」
「その後、1人で出ていくつもりなのか。」
「え…。」
「こっそりするには、誰かが一緒じゃ不便だもんね。だから、おじさんの話断ったんでしょ?」

僕とレイは気づいていたのだ。ウィルの目に、激しい炎が灯っているのを。

「…どうして…?」
「馬鹿言え。どんだけつるんでると思ってんだ。」
「ウィルは、結構負けず嫌いで頑固だもんね。」

普段のウィルは穏やかで優しいが、何か我慢できないことや納得できないことがあると相手が誰であろうと噛みついていく性格でもあった。この3人で問題を起こすのはレイだと大人たちには思われがちだが、揉め事の面倒さ具合で言えばウィルの方が質が悪い、というのが僕たちの見解だった。こと理不尽な物事に関しては、反抗せずにはいられないのだ。
唐突に両親を奪われた、今回の事件のように。

「…俺、そんなに分かりやすいかなぁ。」
「ほとんど気づかれてないと思うぜ。そうじゃなかったら、毎回オレばっかり怒られるわけないもんな。」
「それはレイがいつもどこかで問題起こすからでしょ。」
「ウィルはしっかりしていると思われてるもんね。僕たちの中で目を離したら一番何するか分からないの、ウィルなのにね。」
「ひどい言われよう。」
「本当の事だろうが。…なぁ、すぐに行くなんてこと、しないだろ。」
「…そうしたいけど、現実的じゃない。少しずつ、準備していくつもり。」
「…。」
「でも絶対にやる。魔獣を、根絶やしにしてやるんだ…!」
「…なぁ。もし準備ができたらよ、3人で行こうぜ。」
「え?」
「な、何でだよ。別に、2人には関係ないだろ。」
「今までつるんできた仲だろ?これからだって、そうだってことだよ。」
「…うん、そうだよ。僕もそう思う。」
「アレックス…。」

ウィルは今は冷静に見えるけど、放っておいたらいつ飛び出していくか分からない。僕たちは、そんな状態で1人にすることはできなかった。友達だしね。この村から出るときは3人で。僕も、レイの提案には賛成だった。

「よし!じゃあその日まで、各自準備をしていこうってことで。」
「うん。」
「…本気?2人とも、将来とかしっかり考えた方が…。」
「村飛び出そうとしている奴が何言ってんだよ。…オレはいいんだよ。親父の手伝いとか、向いてなさそうだし。」
「…僕も、家の手伝いくらいしか、できる事ってなさそうだから。」
「…そっか。それじゃあ…。」
「「「約束。」」」

それ以上、ウィルも僕たちが一緒に行くことにとやかく言うことはなかった。
こうして僕たちは、来る約束の日に向けて静かに準備を進めることになったのだ。
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