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ある悪ガキの話~キョウダイ⑤~
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オレたちが15歳になってからも、各々こっそりと準備を進めていた。幸いなことに、と言っていいのか、元々家の仕事を手伝っていたオレたちは、大きな生活の変化もなく過ごしていた。もちろん、今まで以上に仕事に本腰を入れることにはなったので、全く同じ生活とも言えないのだが。
そんなオレたちをよそに、ガラリと生活が変化した人物がいた。ルゥだ。今まで多少のやんちゃは注意される程度だったが、15歳になった途端全く許されなくなった。これにはさすがに面食らっていたな。
「…よし。」
「どこいくんだ?」
「うわっ、レイ!びっくりさせないでよ!」
「勝手にびっくりしたんだろ。…また抜け出したのか。」
「…だって。」
「今まで勉強してこなかったのに急にやれって言われても、だろ?いい加減聞き飽きたぜ。…気持ちは分からなくないけどな。」
「でしょ!?」
「今まで散々周りを振り回してきたんだから、腹くくっていうこと聞いとけよ。もう15歳なんだしよ。」
「…15歳になったからって、どうしてこんな…。」
「あーこんなところにいたのね!」
親父から仕事に使う書類の整理を言いつけられ、書斎に向かっていたところ、廊下を見回している不審人物、もといルゥを見かけた。様子から察するに、というかここ最近の行動と本人の性格からして、勉強が嫌になって逃げだしているところであることは明確。声をかけるとやはり、といったところだ。オレも手伝いをさせられるようになった初めの頃は逃げ出す方法ばかり考えていたから、正直気持ちはよく分かる。よく分かるが、もうオレたちはわがままを言って逃げ出せるような年齢ではない。ルゥはまだ、急な環境の変化に馴染めないでいる。
ちょっと愚痴っぽくなってしまったが、こそこそと廊下の端で話しているところを母親に見つかってしまった。気の強い母親に昔から怒られているせいか、ルゥはビクリと肩を跳ねさせオレの後ろに引っ込む。
「こら!まだ勉強終わってないでしょう!レイは仕事があるんだから、邪魔しないの。」
「邪魔なんかしてない!これは、たまたま…。」
「うん。これからちょうど書斎に行くとこだったんだ。…オレが引き留めちまったな、ルゥ。勉強頑張れよ。」
「あ…。」
親父に散々噛みついてきたオレも、母親には歯向かえない。これはもはや体に染みついたもんだろう。…親父ですら頭が上がらないしな。悲しそうな顔をしたルゥを送り出して、オレも書斎へと体を滑り込ませた。
オレはルゥの勉強の内容がどんなもんなのか、全く知らなかった。だから、なぜ悲しそうな表情をしていたのか、心の隅に少し引っかかっていた。だがそれも、日々の忙しさの中でどんどん奥まったところへと追いやられ、いつの日か気にならなくなってしまった。
それから、両親から厳重注意でも受けたのか、家の中にいてもルゥに接触する機会がめっきり減った。とはいえ、オレも親父と共に仕事のために家を空けることも少なくなかったので、それのせいもあるだろう。昔は2人で1部屋で与えられていたので、顔を見ないことなど不可能だったが、年齢を重ねて小さいながらも自室を持つようになっていた。初めのうちは互いに違和感があっただろうが、それにも慣れるもんだなとぼんやりと思う。寝静まる頃に2人で同じ布団に潜り込んで、朝起こしに来た母親に呆れられていた頃が懐かしい。
時折村の中でルゥを見かけることがあるが、あのわがまま放題していた奴が嘘のように静かに振る舞うようになっていた。勉強の成果ともいえるが、オレには別人になってしまったようにも見えて少し、何だろうな…。怖かった、のかもしれない。とにかく、どうにも声をかけるような気分にはなれなかった。
そんなオレたちをよそに、ガラリと生活が変化した人物がいた。ルゥだ。今まで多少のやんちゃは注意される程度だったが、15歳になった途端全く許されなくなった。これにはさすがに面食らっていたな。
「…よし。」
「どこいくんだ?」
「うわっ、レイ!びっくりさせないでよ!」
「勝手にびっくりしたんだろ。…また抜け出したのか。」
「…だって。」
「今まで勉強してこなかったのに急にやれって言われても、だろ?いい加減聞き飽きたぜ。…気持ちは分からなくないけどな。」
「でしょ!?」
「今まで散々周りを振り回してきたんだから、腹くくっていうこと聞いとけよ。もう15歳なんだしよ。」
「…15歳になったからって、どうしてこんな…。」
「あーこんなところにいたのね!」
親父から仕事に使う書類の整理を言いつけられ、書斎に向かっていたところ、廊下を見回している不審人物、もといルゥを見かけた。様子から察するに、というかここ最近の行動と本人の性格からして、勉強が嫌になって逃げだしているところであることは明確。声をかけるとやはり、といったところだ。オレも手伝いをさせられるようになった初めの頃は逃げ出す方法ばかり考えていたから、正直気持ちはよく分かる。よく分かるが、もうオレたちはわがままを言って逃げ出せるような年齢ではない。ルゥはまだ、急な環境の変化に馴染めないでいる。
ちょっと愚痴っぽくなってしまったが、こそこそと廊下の端で話しているところを母親に見つかってしまった。気の強い母親に昔から怒られているせいか、ルゥはビクリと肩を跳ねさせオレの後ろに引っ込む。
「こら!まだ勉強終わってないでしょう!レイは仕事があるんだから、邪魔しないの。」
「邪魔なんかしてない!これは、たまたま…。」
「うん。これからちょうど書斎に行くとこだったんだ。…オレが引き留めちまったな、ルゥ。勉強頑張れよ。」
「あ…。」
親父に散々噛みついてきたオレも、母親には歯向かえない。これはもはや体に染みついたもんだろう。…親父ですら頭が上がらないしな。悲しそうな顔をしたルゥを送り出して、オレも書斎へと体を滑り込ませた。
オレはルゥの勉強の内容がどんなもんなのか、全く知らなかった。だから、なぜ悲しそうな表情をしていたのか、心の隅に少し引っかかっていた。だがそれも、日々の忙しさの中でどんどん奥まったところへと追いやられ、いつの日か気にならなくなってしまった。
それから、両親から厳重注意でも受けたのか、家の中にいてもルゥに接触する機会がめっきり減った。とはいえ、オレも親父と共に仕事のために家を空けることも少なくなかったので、それのせいもあるだろう。昔は2人で1部屋で与えられていたので、顔を見ないことなど不可能だったが、年齢を重ねて小さいながらも自室を持つようになっていた。初めのうちは互いに違和感があっただろうが、それにも慣れるもんだなとぼんやりと思う。寝静まる頃に2人で同じ布団に潜り込んで、朝起こしに来た母親に呆れられていた頃が懐かしい。
時折村の中でルゥを見かけることがあるが、あのわがまま放題していた奴が嘘のように静かに振る舞うようになっていた。勉強の成果ともいえるが、オレには別人になってしまったようにも見えて少し、何だろうな…。怖かった、のかもしれない。とにかく、どうにも声をかけるような気分にはなれなかった。
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