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赤い衣を纏いし使者
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「エナちゃんいるぅー!?」
「!?」
両親は会合やお得意様との話し合いに出かけてしまい、自分一人という静かな我が家。こんな日も悪くはないかなと思っていた矢先、よく知った声が家中に響き渡った。思わずこぼしそうになった紅茶を慌ててテーブルに戻し、玄関へとバタバタと出迎えに行く。
「ユイさん!」
「あぁ、エナちゃん!ごめんなさいね、急に。」
「いえ…どうかしたんですか?」
声の主は思っていた通り、昔からお世話になっていて最近はギルドの代表の一人として忙しくしているユイさんだった。今日も今日とて何か急ぎの用があったのか、少々荒く白い息を吐いている。すでにもう寒い季節だ。こんな寒い玄関にはいられない、談話室で温かいお茶でも、と中に促す。ユイさんは少し申し訳なさそうにしながらも、お言葉に甘えて、とほっと息をついたようだった。
「…それで、どうしたんです?お父さんもお母さんも今いなくて…。あ、レイ、さんも、今いない、です…。」
冷えていたであろう指先を温めるように、紅茶の注がれたカップを両手で包み込むように持っているユイさんを改めてみながら要件を伺う。もし両親やレイさんに急ぎの用事で来たのであれば、アタシが急いで伝言に行こうと思ってのことだった。…結婚して間もないアタシは、まだレイさんの呼び方が正直安定していない。当の本人は気にしていないようだが、アタシとしてはくすぐったいような気がして少しどもってしまう。それに気づいているのだろう、ユイさんはにっこりと笑いながら切り出す。
「びっくりさせて本当にごめんなさいね。でも、用事はエナちゃんになの。」
「アタシに?」
何だろうか。急に何か入用になったということだろうか。話を聞き逃すことのないように居住まいを正す。
「あぁ、そんな堅苦しい話じゃないの。…えっとね、エナちゃんは、赤い服を着て子供たちに物を配って歩く使者の話を聞いたことって、ある?」
「…はい?」
一体何の話だろうか。子供に物を配る?赤い服を着て?それは…不審者、ではないだろうか。想像したら怖すぎる。知り合いならまだしも、知らない人間からそんなことをされれば大泣きしながら全力で逃げ出すような事件だ。
「あー、私も最初に聞いたときは非常に疑問に思ったんだけどね、ちゃんと背景があってね。」
「はぁ…。」
「年の瀬の夜、一年間いい子で過ごしていた子供に贈り物をして回るっていう話があるみたいなのよ。」
「へー、そんな話が。」
「うん。この間、北の方から来た人が教えてくれたの。」
ユイさんのギルドの活躍を始め、最近人や物の行き来が盛んになったことで、様々な文化に触れることができるようになった。自身の結婚式の時にも、どういった式にするか、服装をどうするか、今まで聞いたこともないような方法や素敵な衣装を提案されて迷いに迷ったのは記憶に新しい。この話も、そういった人の行き来によってもたらされた結果と言えるのだろう。
「私も初めて聞いたんだけど、一年間頑張った子にご褒美をあげるなんて素敵だと思ったの!…特に、孤児院の子たちには普段我慢させているに違いないわ。そんな子たちに贈り物をしたいの。」
「…素敵です、アタシにも手伝わせてください!」
「ありがとう!私も聞いた話だから、ちょっとまだ整理したい部分があるの。一緒に考えてくれる?」
「もちろんです!」
ユイさんはギルドの運営の傍ら、魔獣の被害によって親と暮らすことのできない子供たちの面倒を見られるよう、孤児院の運営も行っている。自分のことだけで手いっぱいだという人も珍しくないが、そのような発想ができること自体尊敬してしまう。年々遠い人になってしまったように感じるようになってしまったが、今目の前にいるユイさんは昔一緒にいらずらを考えて遊んでくれたような、あの頃を思い出させるような笑顔をしていた。
「!?」
両親は会合やお得意様との話し合いに出かけてしまい、自分一人という静かな我が家。こんな日も悪くはないかなと思っていた矢先、よく知った声が家中に響き渡った。思わずこぼしそうになった紅茶を慌ててテーブルに戻し、玄関へとバタバタと出迎えに行く。
「ユイさん!」
「あぁ、エナちゃん!ごめんなさいね、急に。」
「いえ…どうかしたんですか?」
声の主は思っていた通り、昔からお世話になっていて最近はギルドの代表の一人として忙しくしているユイさんだった。今日も今日とて何か急ぎの用があったのか、少々荒く白い息を吐いている。すでにもう寒い季節だ。こんな寒い玄関にはいられない、談話室で温かいお茶でも、と中に促す。ユイさんは少し申し訳なさそうにしながらも、お言葉に甘えて、とほっと息をついたようだった。
「…それで、どうしたんです?お父さんもお母さんも今いなくて…。あ、レイ、さんも、今いない、です…。」
冷えていたであろう指先を温めるように、紅茶の注がれたカップを両手で包み込むように持っているユイさんを改めてみながら要件を伺う。もし両親やレイさんに急ぎの用事で来たのであれば、アタシが急いで伝言に行こうと思ってのことだった。…結婚して間もないアタシは、まだレイさんの呼び方が正直安定していない。当の本人は気にしていないようだが、アタシとしてはくすぐったいような気がして少しどもってしまう。それに気づいているのだろう、ユイさんはにっこりと笑いながら切り出す。
「びっくりさせて本当にごめんなさいね。でも、用事はエナちゃんになの。」
「アタシに?」
何だろうか。急に何か入用になったということだろうか。話を聞き逃すことのないように居住まいを正す。
「あぁ、そんな堅苦しい話じゃないの。…えっとね、エナちゃんは、赤い服を着て子供たちに物を配って歩く使者の話を聞いたことって、ある?」
「…はい?」
一体何の話だろうか。子供に物を配る?赤い服を着て?それは…不審者、ではないだろうか。想像したら怖すぎる。知り合いならまだしも、知らない人間からそんなことをされれば大泣きしながら全力で逃げ出すような事件だ。
「あー、私も最初に聞いたときは非常に疑問に思ったんだけどね、ちゃんと背景があってね。」
「はぁ…。」
「年の瀬の夜、一年間いい子で過ごしていた子供に贈り物をして回るっていう話があるみたいなのよ。」
「へー、そんな話が。」
「うん。この間、北の方から来た人が教えてくれたの。」
ユイさんのギルドの活躍を始め、最近人や物の行き来が盛んになったことで、様々な文化に触れることができるようになった。自身の結婚式の時にも、どういった式にするか、服装をどうするか、今まで聞いたこともないような方法や素敵な衣装を提案されて迷いに迷ったのは記憶に新しい。この話も、そういった人の行き来によってもたらされた結果と言えるのだろう。
「私も初めて聞いたんだけど、一年間頑張った子にご褒美をあげるなんて素敵だと思ったの!…特に、孤児院の子たちには普段我慢させているに違いないわ。そんな子たちに贈り物をしたいの。」
「…素敵です、アタシにも手伝わせてください!」
「ありがとう!私も聞いた話だから、ちょっとまだ整理したい部分があるの。一緒に考えてくれる?」
「もちろんです!」
ユイさんはギルドの運営の傍ら、魔獣の被害によって親と暮らすことのできない子供たちの面倒を見られるよう、孤児院の運営も行っている。自分のことだけで手いっぱいだという人も珍しくないが、そのような発想ができること自体尊敬してしまう。年々遠い人になってしまったように感じるようになってしまったが、今目の前にいるユイさんは昔一緒にいらずらを考えて遊んでくれたような、あの頃を思い出させるような笑顔をしていた。
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