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呪いのアイテム②
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「はー…最高…。」
「そうだね…。」
結局オレたち四人はすっかりコタツに取り込まれて動けなくなっていた。はたから見ると、小さな机に群がる大の大人、という不気味な光景だろうが、見た目以上に心地いい。そして甘酸っぱいみかんも控えめに言って最高だ。
「こ、これ、一度味わったらなかなか出られそうにないよ…。」
「そうね…。」
「…まさかこれが呪い?」
確かに、コタツに入ってしばらく時間が経っているはずだが、誰一人として出ようとはしていない。この後に用事がないから、と言われればそれまでなのだが…。それにしたって出がたい気持ちは否定できない。どうしたもんかと思いながらも無意識に伸ばしたその先に、みかんの姿はもうなかった。
「…。」
「あ、みかんもうないの?」
「もしものことを考えて、私が多めに仕入れておいたわ!」
「さすがユイさん!」
「お前性格変わったよな…。」
「レイ、裏口の廊下に箱があるからそれ持ってきて。その中にみかん入ってるから。」
「何でオレが…。」
「あんたが今みかん食べたそうにしてたからでしょ。食べたい人が取ってきてくださーい。」
「はー?お前らだってどうせすぐ食べたくなるんだろ。箱ごと持って来いって、完全にお前らの分まで持ってこさせようとしてるじゃねぇか。」
たまたま食べきってしまったみかんに手を伸ばしてしまったばっかりに、ユイが顎で使おうとしているのがありありと伝わってくる。こいつもまだまだみかんを食べたいと思っているに決まっている。俺を体よく使ってみかんにありつこうというのだ。そうはいくか。
「別にオレはないならないで食べなくてもいいかなぁ。他の奴がどうか知らないけど。」
「…何よ、みかん質でも取ろうっての?」
「あ、人質じゃなくてね。」
「みんなのために取ってきてくれたっていいじゃない。犠牲になりなさいよ!」
「はっきり犠牲って言ったなお前!お前が始めたことなんだから、お前が行って来いよ。」
「嫌、寒いし。」
「誰だってそうだよ!」
ぎゃんぎゃんとコタツ越しに言い争いを始めるユイさんとレイ。正直どちらが取りに行ってもいいとは思うけど、この暖かいコタツから出たくないのは全員同じ気持ちのようで、俺も代わりに行こうと思わなかったし、普段気を使っているアレックスもじゃあ僕が、とは口にする様子はない。まさか、この仕事を押し付けあって仲たがいをするところが本当の呪いだとでもいうのだろうか。…みかん食べたいなぁ。
「…あ、そういえば。」
「どうかした?アレックス。」
「う、うん。僕の家、必要な薬を遠くから取り寄せてもらうことあったから、昔から遠くの地域の話を聞かせてもらうことがあったんだけど…。」
「あぁ、そっか。」
「そ、その行商さんの中に、東の地域から来ている人もいてさ…。お、教えてくれた話があるんだけど、寒い日に関係した話だったんだぁ。」
「へぇー。」
「そ、その話だと、寒い日の夜、二人組の怪物が家に来て、その家の子供がちゃんと手伝いをしているか確認していくんだって。」
「え、怪物?何のために?」
「さ、さぁ…。でも、その怪物はその地域の神様なんだって。神様が、子供たちの様子を見に来てる、ってことなのかな…。」
「ふーん…。」
何となく、この前ユイさんが奔走していたサンタだかの話に似ている気がするなぁ。
「お手伝いしていない子供は、その怪物に脚の肉をそがれてしまうんだって。」
「急に怖くない!?何だって神様がそんなことするの!?」
「わ、分からないけど…。お手伝いしない子は、いつも火にあたって温まっているから、脚が少し火傷っぽくなって分かるらしいんだけど、その部分を包丁でそいじゃうんだって。」
「…子供に対してその話は、怖すぎじゃない?」
「ま、まぁ、そうならないように、お手伝いちゃんとしようね、って話なんじゃないかな。」
「はー、結構厳しくしつけるんだね。」
まぁ親側の気持ちも分からなくはないけど、自分がそんな環境に育ったとしたらなかなかの恐怖体験を味わうことになるんだろうなと震えてくる。うんうんとアレックスと話していると、やけに周りが静かになっていることに気がついた。…あれ?
「「…。」」
「…あ、あれ、レイ…?」
「ユイさん、どうかした?」
「…私、みかん取ってくるわ。」
「いや、オレが取ってくる。お前はここにいろよ。」
「いえ、私が。」
「オレが。」
急にすっと立ち上がったレイとユイさん。さっきまで通路に置いてあるみかんと取ってくるよう、お互いに押し付けあっていたっていうのに…。今度は自分が取りに行くから、と早足に部屋を出て行ってしまった。…どうしたんだろう。
「…まぁ、何でもいいけどさ。あ、ちなみにさ、その神様っていい子には何か贈り物でもしてくれるの?」
「え?い、いや、特に…何もないんじゃないかな。」
「厳しすぎない?」
その後、俺たちはレイとユイさんが箱ごと持ってきたみかんをお腹いっぱい食べながら、遅くまでごろごろして過ごした。最終的にコタツがギルドに置かれ続けることになったんだけど…。少しずつ暖かくなってきたころ、今度はコタツをいつ片付けるかってことでまた一悶着起きることになって。確かに揉め事が起きやすくなるって意味では、呪いのアイテムと言える、のかな?
「そうだね…。」
結局オレたち四人はすっかりコタツに取り込まれて動けなくなっていた。はたから見ると、小さな机に群がる大の大人、という不気味な光景だろうが、見た目以上に心地いい。そして甘酸っぱいみかんも控えめに言って最高だ。
「こ、これ、一度味わったらなかなか出られそうにないよ…。」
「そうね…。」
「…まさかこれが呪い?」
確かに、コタツに入ってしばらく時間が経っているはずだが、誰一人として出ようとはしていない。この後に用事がないから、と言われればそれまでなのだが…。それにしたって出がたい気持ちは否定できない。どうしたもんかと思いながらも無意識に伸ばしたその先に、みかんの姿はもうなかった。
「…。」
「あ、みかんもうないの?」
「もしものことを考えて、私が多めに仕入れておいたわ!」
「さすがユイさん!」
「お前性格変わったよな…。」
「レイ、裏口の廊下に箱があるからそれ持ってきて。その中にみかん入ってるから。」
「何でオレが…。」
「あんたが今みかん食べたそうにしてたからでしょ。食べたい人が取ってきてくださーい。」
「はー?お前らだってどうせすぐ食べたくなるんだろ。箱ごと持って来いって、完全にお前らの分まで持ってこさせようとしてるじゃねぇか。」
たまたま食べきってしまったみかんに手を伸ばしてしまったばっかりに、ユイが顎で使おうとしているのがありありと伝わってくる。こいつもまだまだみかんを食べたいと思っているに決まっている。俺を体よく使ってみかんにありつこうというのだ。そうはいくか。
「別にオレはないならないで食べなくてもいいかなぁ。他の奴がどうか知らないけど。」
「…何よ、みかん質でも取ろうっての?」
「あ、人質じゃなくてね。」
「みんなのために取ってきてくれたっていいじゃない。犠牲になりなさいよ!」
「はっきり犠牲って言ったなお前!お前が始めたことなんだから、お前が行って来いよ。」
「嫌、寒いし。」
「誰だってそうだよ!」
ぎゃんぎゃんとコタツ越しに言い争いを始めるユイさんとレイ。正直どちらが取りに行ってもいいとは思うけど、この暖かいコタツから出たくないのは全員同じ気持ちのようで、俺も代わりに行こうと思わなかったし、普段気を使っているアレックスもじゃあ僕が、とは口にする様子はない。まさか、この仕事を押し付けあって仲たがいをするところが本当の呪いだとでもいうのだろうか。…みかん食べたいなぁ。
「…あ、そういえば。」
「どうかした?アレックス。」
「う、うん。僕の家、必要な薬を遠くから取り寄せてもらうことあったから、昔から遠くの地域の話を聞かせてもらうことがあったんだけど…。」
「あぁ、そっか。」
「そ、その行商さんの中に、東の地域から来ている人もいてさ…。お、教えてくれた話があるんだけど、寒い日に関係した話だったんだぁ。」
「へぇー。」
「そ、その話だと、寒い日の夜、二人組の怪物が家に来て、その家の子供がちゃんと手伝いをしているか確認していくんだって。」
「え、怪物?何のために?」
「さ、さぁ…。でも、その怪物はその地域の神様なんだって。神様が、子供たちの様子を見に来てる、ってことなのかな…。」
「ふーん…。」
何となく、この前ユイさんが奔走していたサンタだかの話に似ている気がするなぁ。
「お手伝いしていない子供は、その怪物に脚の肉をそがれてしまうんだって。」
「急に怖くない!?何だって神様がそんなことするの!?」
「わ、分からないけど…。お手伝いしない子は、いつも火にあたって温まっているから、脚が少し火傷っぽくなって分かるらしいんだけど、その部分を包丁でそいじゃうんだって。」
「…子供に対してその話は、怖すぎじゃない?」
「ま、まぁ、そうならないように、お手伝いちゃんとしようね、って話なんじゃないかな。」
「はー、結構厳しくしつけるんだね。」
まぁ親側の気持ちも分からなくはないけど、自分がそんな環境に育ったとしたらなかなかの恐怖体験を味わうことになるんだろうなと震えてくる。うんうんとアレックスと話していると、やけに周りが静かになっていることに気がついた。…あれ?
「「…。」」
「…あ、あれ、レイ…?」
「ユイさん、どうかした?」
「…私、みかん取ってくるわ。」
「いや、オレが取ってくる。お前はここにいろよ。」
「いえ、私が。」
「オレが。」
急にすっと立ち上がったレイとユイさん。さっきまで通路に置いてあるみかんと取ってくるよう、お互いに押し付けあっていたっていうのに…。今度は自分が取りに行くから、と早足に部屋を出て行ってしまった。…どうしたんだろう。
「…まぁ、何でもいいけどさ。あ、ちなみにさ、その神様っていい子には何か贈り物でもしてくれるの?」
「え?い、いや、特に…何もないんじゃないかな。」
「厳しすぎない?」
その後、俺たちはレイとユイさんが箱ごと持ってきたみかんをお腹いっぱい食べながら、遅くまでごろごろして過ごした。最終的にコタツがギルドに置かれ続けることになったんだけど…。少しずつ暖かくなってきたころ、今度はコタツをいつ片付けるかってことでまた一悶着起きることになって。確かに揉め事が起きやすくなるって意味では、呪いのアイテムと言える、のかな?
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