某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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冷えた体に

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カランカラン…

「こ、こんにちは。」
「ん?あぁ、アンタかい。」
「おー?アレク坊じゃないか。どうしたんじゃ?」

寒さが身に染みる年の瀬。時折手伝いに顔を出しているアレックスは、今日も今日とて薬屋『魔女の一撃』に足を運んでいた。

「いくらアタシでも、この年の瀬にまともに営業はしないよ。手伝いなんてのも必要ないさね。」
「そんなこと言ってー。先輩はいつでも薬が必要な人が来てもいいように、待ち構えるつもりでしょうに!」
「黙ってなジーク!」
「あはは…。」

この店の店長であり一部から魔女とも恐れられるアメリアは、我が物顔で入り浸っているジークに目を吊り上げて叫んでいる。それをいいじゃないか!と軽く笑って流すまでがいつもの光景だ。アレックスから見てジークは年齢の割に元気な男だ。毎日薬屋に来なければならないような人間には思えないが、それでもここに足しげく通っているのは別の理由があるのだろうか。…二人が楽しそうにしているのでいいとは思うが。

「…客が来たら、対応しないわけにはいかないじゃないか。普段通りに開店しないつもりなのは本当さ。」
「この間まで、常備薬を買い込もうとするお客さんでいっぱいでしたもんね…。」

年の終わりから新しい年を迎えての数日間まで、通常営業はしないと知っているお客さんは前もって必要な薬を買い求めに来ていた。手伝いに来ているアレックスは、ここ数日の忙しさを思い出してため息が出そうになる。

「まったくじゃー!わしもただ遊びに来ただけじゃというのに駆り出されて、体のあちこちが悲鳴を上げとる!」
「薬屋遊は遊びに来るような場所じゃないんだよ!まったく、何度言えば…。恨むんだったら、そんな時期にまでうちに来ちまった自分を恨むんだね。」
「でも、あれでしばらくはゆっくりできそうじゃないですか?」
「…だったら、何だってアンタはここに来たんだい?まさかアンタまで遊びに来た、何て言うんじゃないだろうねぇ?」
「えぇ!?いやいや、そういうつもりじゃ…!寒くなってきたので、雪かき必要かなって…。」

ジークから怒りの矛先がこちらに向きそうになった気配を察知して、慌てて用件を伝える。北の地域ほどではないが、この街にも雪は降る。雪が積もった日には、子供も大人も関係なく雪かきに駆り出される。ここよりも少し南の地域になる故郷でも、たびたび見られた光景だ。僕は体が大きかったから、他の家の手伝いに行ったりして同郷のウィルやレイよりも多少雪かきに慣れているという自負がある。ふわふわした新雪であればそこまで苦労せずに片づけることができるが、問題は少し水分を含んで重くなってしまった雪を寄せなければいけない時だ。昨日まさに、この時期にしては少し暖かく雨が降った。雪が融けるという意味ではありがたいが、融け残った雪を片付けなければならないとなれば話は別だ。

「雪かき?…アンタ、そんなことまで。」
「いやー偉いなぁ、アレク坊!ありがたいじゃないか、先輩!」
「また雪が積もる前に、少しでも片づけたほうがいいと思って…。雪が重そうだから、手伝おうかと。」
「…店先だけで十分だよ。」
「はい、キリのいいところまでやっちゃいますね。」
「アンタ話聞いてるかい?」

さっそく入り口近くに寄せてあったシャベルに手をかける。日が高いうちにできるだけ片付けてしまいたい。手袋をつけて、よしと気合を入れて外へと踏み出した。
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