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冷えた体に②
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せっせと雪を片付けていく。思った通り、水を含んだ雪はじっとりと重い。しばらく作業して流れる汗を拭う。アメリア店長は店先だけでいいって言ったけど、さすがにそこだけで終わるわけにはいかない。この店は自宅も兼ねているのだ。普段の生活をするのにも不便のないように、周りも片づける。一旦始めるとあちこち気になってしまって、店長が寄せていたであろう雪の山も減らそうと手をつけ始めたら止まらなくなってしまう。
「ふぅ…。」
「アレク坊、無理するなよー。…ってもう終わっちまったのか!?」
「え?まぁ、こんな感じかなって…。」
「まったく、よくもまぁこんなきれいに…。もう十分だよ、中に入って一息入れな。」
「でももう少し…。あ、あのあたりとか。」
「中に入りな。」
「…はい。」
もう少し片づけたい気持ちはあったけれど、店長の圧によって終了となってしまった。すごすごと中に入ってくる僕に、ジークさんも苦笑している。
「本当なら、ジークの奴にもやらせるべきだったんだが…。」
「体が痛いと言うとるのに、雪かきまでさせようというのか先輩!さすがに人使い荒すぎじゃ!」
「一人きりで雪かきをして、身動き取れなくなったりしたらどうするんだい。危ないだろう。」
「確かにそうなんじゃが…。そこの心配にわしは含まれないのか…?」
「少し片づけるだけなので、大丈夫ですよ。」
「アンタの少しは少しじゃないよ!止めなかったらまだ続けるつもりだったくせにねぇ。」
「…すみません。」
「先輩先輩、アレク坊は良かれと思ってやってくれたんじゃ。心配だからって…そのくらいでいいじゃろうて。さ、アレク坊。ずっと外にいて体冷えたじゃろう。特製ドリンクを作ったから、飲んであったまるといいぞ!」
ぶつぶつと文句を続けている店長をなだめ、ジークさんは人数分のカップを持ってきた。中を満たしている赤い液体は湯気を立てていて、温かい飲み物であることは分かるが…。
「ジークさん、これは…?」
「昔北の寒い地域を旅していた時に、現地の人たちに振舞ってもらった飲み物じゃ。葡萄酒に香辛料を加えて煮込んだものでの。寒い時期にはこれを飲んで、体を温める習慣があるという。」
「へぇ。」
「こいつ、アンタが雪かきし始めたら鍋を貸してほしいと言い出してね。何をするのかと聞けば、葡萄酒を煮るなんて言うじゃないか。アタシの店で勝手させるわけにはいかないんで、監視してたんだ。」
「信用がないのう…。まぁ、これには香辛料が必要になるから、先輩にいてもらって助かったがの!」
「アンタの言う香辛料は確かに手元にあったが…。本当に合ってるんだろうねぇ?」
「間違いない!…はずじゃ!」
各自に配られたカップを前に、店長はまじましと中身を見つめる。温かい葡萄酒の赤に加えられた香辛料が浮いている。砂糖が入っているのか甘い匂いもする。そもそも温かい葡萄酒なんて飲んだことがないので、どんな味になっているのか想像もつかない…。
「アレク坊でも飲めるように、しっかり酒精を飛ばしてあるから安心安全じゃ!」
「あの…。僕もうお酒飲める年齢なんですけど…。」
「まぁ酔う必要もないだろうからね、アタシもその方がいいさね。」
「若いからって体を蔑ろにしてはいかんぞ、アレク坊!若いころの行いが、歳を取ってからの体に反映されるんじゃ!」
さぁ飲め!と言わんばかりにカップをずいと差し出される。少し緊張しながらも、その勧めに従って口をつける。ジークさんの言うように、お酒らしい風味はほとんどなく葡萄酒の深い香りが感じられる。甘みもあって飲みやすい。ぽかぽかとしてくるような感じがするのは、加えられたという香辛料のおかげなのだろうか。
「おいしいじゃろう?わしも初めて飲んだ時はたいそう驚いたのー。それ以来お気に入りになったんじゃ!」
「本当においしいです…!特別な香辛料でも入っているんです?」
「いや、アタシが持っているので事足りたから、そこまで珍しいもんは入ってないさ。…葡萄酒はこいつが持ち込んだもんだがね。」
「じゃあそっちが特別なんですか?」
「何の変哲もない、そこらの店で手に入るもんじゃ。この飲み物の一番の隠し味は…愛情じゃ!」
「…さ、今日は一段と冷えるね。あまり遅くならないうちに帰るんだよ、アレックス。」
「あ、はい…。」
渾身の笑顔で決めたジークさんをよそに、店長は僕に上着を持たせて入口へと促す。勢いそのままに帰路に就くことになってしまったが、後にしたお店からはかすかに言い合う二人の声が聞こえる。…やっぱり楽しそうだ。少し雪が残る道だけど、思わずスキップでもしてしまいそうな気分だ。
「ふぅ…。」
「アレク坊、無理するなよー。…ってもう終わっちまったのか!?」
「え?まぁ、こんな感じかなって…。」
「まったく、よくもまぁこんなきれいに…。もう十分だよ、中に入って一息入れな。」
「でももう少し…。あ、あのあたりとか。」
「中に入りな。」
「…はい。」
もう少し片づけたい気持ちはあったけれど、店長の圧によって終了となってしまった。すごすごと中に入ってくる僕に、ジークさんも苦笑している。
「本当なら、ジークの奴にもやらせるべきだったんだが…。」
「体が痛いと言うとるのに、雪かきまでさせようというのか先輩!さすがに人使い荒すぎじゃ!」
「一人きりで雪かきをして、身動き取れなくなったりしたらどうするんだい。危ないだろう。」
「確かにそうなんじゃが…。そこの心配にわしは含まれないのか…?」
「少し片づけるだけなので、大丈夫ですよ。」
「アンタの少しは少しじゃないよ!止めなかったらまだ続けるつもりだったくせにねぇ。」
「…すみません。」
「先輩先輩、アレク坊は良かれと思ってやってくれたんじゃ。心配だからって…そのくらいでいいじゃろうて。さ、アレク坊。ずっと外にいて体冷えたじゃろう。特製ドリンクを作ったから、飲んであったまるといいぞ!」
ぶつぶつと文句を続けている店長をなだめ、ジークさんは人数分のカップを持ってきた。中を満たしている赤い液体は湯気を立てていて、温かい飲み物であることは分かるが…。
「ジークさん、これは…?」
「昔北の寒い地域を旅していた時に、現地の人たちに振舞ってもらった飲み物じゃ。葡萄酒に香辛料を加えて煮込んだものでの。寒い時期にはこれを飲んで、体を温める習慣があるという。」
「へぇ。」
「こいつ、アンタが雪かきし始めたら鍋を貸してほしいと言い出してね。何をするのかと聞けば、葡萄酒を煮るなんて言うじゃないか。アタシの店で勝手させるわけにはいかないんで、監視してたんだ。」
「信用がないのう…。まぁ、これには香辛料が必要になるから、先輩にいてもらって助かったがの!」
「アンタの言う香辛料は確かに手元にあったが…。本当に合ってるんだろうねぇ?」
「間違いない!…はずじゃ!」
各自に配られたカップを前に、店長はまじましと中身を見つめる。温かい葡萄酒の赤に加えられた香辛料が浮いている。砂糖が入っているのか甘い匂いもする。そもそも温かい葡萄酒なんて飲んだことがないので、どんな味になっているのか想像もつかない…。
「アレク坊でも飲めるように、しっかり酒精を飛ばしてあるから安心安全じゃ!」
「あの…。僕もうお酒飲める年齢なんですけど…。」
「まぁ酔う必要もないだろうからね、アタシもその方がいいさね。」
「若いからって体を蔑ろにしてはいかんぞ、アレク坊!若いころの行いが、歳を取ってからの体に反映されるんじゃ!」
さぁ飲め!と言わんばかりにカップをずいと差し出される。少し緊張しながらも、その勧めに従って口をつける。ジークさんの言うように、お酒らしい風味はほとんどなく葡萄酒の深い香りが感じられる。甘みもあって飲みやすい。ぽかぽかとしてくるような感じがするのは、加えられたという香辛料のおかげなのだろうか。
「おいしいじゃろう?わしも初めて飲んだ時はたいそう驚いたのー。それ以来お気に入りになったんじゃ!」
「本当においしいです…!特別な香辛料でも入っているんです?」
「いや、アタシが持っているので事足りたから、そこまで珍しいもんは入ってないさ。…葡萄酒はこいつが持ち込んだもんだがね。」
「じゃあそっちが特別なんですか?」
「何の変哲もない、そこらの店で手に入るもんじゃ。この飲み物の一番の隠し味は…愛情じゃ!」
「…さ、今日は一段と冷えるね。あまり遅くならないうちに帰るんだよ、アレックス。」
「あ、はい…。」
渾身の笑顔で決めたジークさんをよそに、店長は僕に上着を持たせて入口へと促す。勢いそのままに帰路に就くことになってしまったが、後にしたお店からはかすかに言い合う二人の声が聞こえる。…やっぱり楽しそうだ。少し雪が残る道だけど、思わずスキップでもしてしまいそうな気分だ。
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