某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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真夏の夜の儚い夢

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「暑い…。」
「暑すぎる…!」
「止めろ止めろ…!余計に暑く感じんだろ…。」
「で、でも、さすがに…。」

夏。そう、それは暑い季節。
しかし今年の夏は、例年以上に酷暑だと巷で騒がれるような異常な暑さで、多くの人を茹だらせていた。
どれくらい暑いのかというと、暑さのせいで人手が激減し、我が家をはじめとする多くの店の売り上げまでもが大幅に下がってしまうくらいだ。
つまり、由々しき事態ということだ。

「こう暑いと…何もしたくなくなるわね…。」
「そうだね…。」
「…あんたたち、ここより南の出身じゃなかった?暑いのなんて、慣れっこなんじゃないの?」
「そんなに違いが出るような距離じゃねぇよ…。ここまで暑いのなんて、経験ねぇ…。」
「ど、どんなに暑いのに慣れている人だって、熱中症にならないわけじゃないし…。か、軽く考えたりしないで、しっかり水分補給しようね…!水だけじゃなく、塩分もしっかり摂取すること…!」
「誰に向かって言ってんの?」

確かに、この暑さで体調を崩す人が多いと聞いている。
つい先日も、ほねつき肉の店長が体調不良で急遽お店を休んでいた。普段から火の前で仕事をしている人だっただけに、暑さでやられてしまうなんて意外や意外。私たちの危機意識が跳ね上がるという事態になったのだった。
…それで思い出した。この暑さに何とか対抗しようと、栄養のあるものを求める人が急増していて、魔女の一撃で販売を開始した特製栄養ドリンクが大人気を博しているらしい。
らしいというか、すでにこの街では『出歩く前にはこの一本!』と習慣づき始めているくらいだ。商売繁盛で羨ましい限り…。

「…でも、このままだと本当に何もできないわね…。何かいい方法ない?」
「暑さを何とかする方法?」
「そう。」
「…ないかな。」
「思考まで溶けちゃってるじゃない…。」
「…エナが確か…暑い地域の服や布の流通が、増えてるって…話してたような…。」
「それはいい考えね…。暑いところに住んでいる人の知恵や習慣は、絶対外さないわ…。…うちでも取り扱いを検討しようかしら…。」
「ユイさん、何か言った…?」
「いえ何も。とにかく、エナちゃんのところに行ってみましょうか。…後でね。」
「「「賛成…。」」」

日はまだ高い。このじかんたいに外に出るなんて自殺行為に等しい。
私たちは日陰から出る勇気もなく、窓から入り込む熱風に呻きながら耐えるしかないのだった。



「いらっしゃ…あ、ユイさん!」
「こんにちは、エナちゃん。…いや、こんばんは?とにかく、お邪魔します。こんな時間だけど、大丈夫?」
「もちろんですよ。最近じゃ、日中に来られるお客さんの方が少ないくらいです。」

夜の気配が感じられる頃。日中の熱気がまだ残っているとはいえ、比べるまでもなく涼しくなっている。そんな時間帯になってから私たちはやっと動き出し始めた。通常であれば、このような時間帯に訪ねてくるなんて常識的に良くないのだが…。聞けば、私たちだけでなく他のお客さんたちも夕方に訪ねてくる傾向にあると。
つまり、日中出歩くには暑すぎる、ということだ。

「そうよね、この暑さじゃ…。あと、気になってたんだけど、そのスカートって…。」
「あ、気づいてくれます!?最近このあたりでも扱うようになった生地なんですけど、色もきれいに出てて刺しゅうも素敵ですよね!それに、見た目以上に涼しいんですよ。ユイさんも着てみます?」
「え!いいの!?」
「生地を見せてもらった時、きれいで決めきれなくて!他の色地のものもあるので、ぜひ!」
「ほんとにー!?ありがとう!」
「…女が三人寄れば姦しい、とは言うが…。二人でも十分だよな。」
「レイ、何か言った?」
「何も。」

普段はシンプルなものを着用している印象のあるエナちゃんだが、今日は鮮やかな布地を纏うような服装だ。大きな布を巻くように身に着けているので、重苦しくないのかと思えば見た目以上に涼しいのだそうだ。鮮やかな生地は見ているだけでも元気が出るし、お言葉に甘えて他の生地も見せてもらうことにした。
キャイキャイ二人で盛り上がっていると、残された男三人が辟易したようにこちらを見ていた。
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