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消滅しろ、ハラスメント野郎②
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会社のデスクに向かい、パソコンの画面を見つめている。静かなフロアで、私は仕事をしようとしている。
「…ん?え、仕事?一人で?」
ふと我に返って周りを確認する。大企業と比べると少ないだろうが、少人数とも言えない程度の従業員はいる。にもかかわらずこんなにも静かなことなんてありえない。だが視界を巡らせてみても、私以外は誰もいない。窓の外は明るい。休日出勤?いや私は休日出勤するくらいなら残業を選ぶような価値観の人間だ。そうそう休みの日に会社に来るなんてことはしない。というか、したことがない。早くに会社についてしまっているのだろか?いや、それもおかしい。私は朝が苦手だ。できることなら活動時間を昼からにしたいくらいだ。ギリギリに出勤、なんてことはしないが、わざわざ早めに来ようとするなんてことはしない。
「おーぅ、菓子。今日も苦そうな顔して仕事してんな、菓子なのに。だはは!」
「…。」
唐突にドアが開き、いつものつまらないギャグを引っ提げて安田が入って来る。いつも以上に反応を返す気になれず、真顔で凝視してしまう。静まり返ったこのフロアに違和感はないのだろうか。私の反応の薄さも含め、安田が気に留める様子はない。
「あーぁ、まったく。毎度毎度嫌になるわぁ、このギャグを耳にするの。聴覚の無駄遣い。」
「え!?」
自身のデスクへと向かっていく安田を無意識に目線で追っていると、足元から声がする。思いもよらぬ反応に咄嗟に目を向ける。
「誰?…っていうか、何?」
「人に物を訪ねるのに随分な態度ね、アンタ。まずは自分からって知らないの?まぁ知っているから必要ないんだけど。」
「…えっと。」
「アンタのことは知ってるわよ、お菓子ちゃん。あのつまんない上司に呆れてるってこともね。」
「誰、ですか?ってか、お菓子ちゃんて…。」
視線の先には、猫のような不思議な生き物がいた。全体的な雰囲気は確かに猫、しかし大きさは中型犬ほどの大きさ。お尻には柴犬のようにふんわりした尻尾がくるりと巻かれている。一番の問題はその毛並み、安田相手に文句を言っていた時は曇天を思わせるような灰色をしていたのだが、私に向かって話している時に徐々にクリーム色に変化している。
そして何より、人間である私と会話をしているという事実に思考が止まりそうになる。本当に声の主かと疑問にも思ったが、すぐさまこちらの問いかけに反応を返してきている。しかもなかなかに饒舌。こちらの質問が1だとしたら、3ぐらいにして返してくる勢いだ。
「アンタ菓子って苗字でしょ?だからお菓子ちゃん。可愛いでしょ?」
「いや…その、私には、合ってないかなって…はは。」
「合ってないって何よ、本名でしょ。似合うも何もないの、アタシがどう呼ぼうが勝手でしょ。具合が悪くなるわけでもないんだし。」
「…。」
完全に口で負けている。相手猫?なのに。これだけ人がいない場で会話をしていて、安田に何か言われないかチラっと様子を伺うも、こちらの声なんて聞こえていないかのように平然とデスクで作業をしている。
…この変な生き物、どこから入ってきたんだろう。
「変な生き物って、ホント失礼ねお菓子ちゃん。」
「…え?」
「アンタの考えていることなんてお見通し。アタシがどんな生き物か、このフロアがどうしてこんな静かなのか、この状況をどうして安田が疑問に思わないか。気になっているのはそんなところでしょ。」
「…そんなにわかりやすい、ですか?」
「畏まらなくていいわ!面倒だし。分かりやすいって点は…そうね、この場は少しばかり特殊だから。」
「特殊…?」
「そう、ここはね…。」
ここはね、アンタの夢の中なのよ。
「…ん?え、仕事?一人で?」
ふと我に返って周りを確認する。大企業と比べると少ないだろうが、少人数とも言えない程度の従業員はいる。にもかかわらずこんなにも静かなことなんてありえない。だが視界を巡らせてみても、私以外は誰もいない。窓の外は明るい。休日出勤?いや私は休日出勤するくらいなら残業を選ぶような価値観の人間だ。そうそう休みの日に会社に来るなんてことはしない。というか、したことがない。早くに会社についてしまっているのだろか?いや、それもおかしい。私は朝が苦手だ。できることなら活動時間を昼からにしたいくらいだ。ギリギリに出勤、なんてことはしないが、わざわざ早めに来ようとするなんてことはしない。
「おーぅ、菓子。今日も苦そうな顔して仕事してんな、菓子なのに。だはは!」
「…。」
唐突にドアが開き、いつものつまらないギャグを引っ提げて安田が入って来る。いつも以上に反応を返す気になれず、真顔で凝視してしまう。静まり返ったこのフロアに違和感はないのだろうか。私の反応の薄さも含め、安田が気に留める様子はない。
「あーぁ、まったく。毎度毎度嫌になるわぁ、このギャグを耳にするの。聴覚の無駄遣い。」
「え!?」
自身のデスクへと向かっていく安田を無意識に目線で追っていると、足元から声がする。思いもよらぬ反応に咄嗟に目を向ける。
「誰?…っていうか、何?」
「人に物を訪ねるのに随分な態度ね、アンタ。まずは自分からって知らないの?まぁ知っているから必要ないんだけど。」
「…えっと。」
「アンタのことは知ってるわよ、お菓子ちゃん。あのつまんない上司に呆れてるってこともね。」
「誰、ですか?ってか、お菓子ちゃんて…。」
視線の先には、猫のような不思議な生き物がいた。全体的な雰囲気は確かに猫、しかし大きさは中型犬ほどの大きさ。お尻には柴犬のようにふんわりした尻尾がくるりと巻かれている。一番の問題はその毛並み、安田相手に文句を言っていた時は曇天を思わせるような灰色をしていたのだが、私に向かって話している時に徐々にクリーム色に変化している。
そして何より、人間である私と会話をしているという事実に思考が止まりそうになる。本当に声の主かと疑問にも思ったが、すぐさまこちらの問いかけに反応を返してきている。しかもなかなかに饒舌。こちらの質問が1だとしたら、3ぐらいにして返してくる勢いだ。
「アンタ菓子って苗字でしょ?だからお菓子ちゃん。可愛いでしょ?」
「いや…その、私には、合ってないかなって…はは。」
「合ってないって何よ、本名でしょ。似合うも何もないの、アタシがどう呼ぼうが勝手でしょ。具合が悪くなるわけでもないんだし。」
「…。」
完全に口で負けている。相手猫?なのに。これだけ人がいない場で会話をしていて、安田に何か言われないかチラっと様子を伺うも、こちらの声なんて聞こえていないかのように平然とデスクで作業をしている。
…この変な生き物、どこから入ってきたんだろう。
「変な生き物って、ホント失礼ねお菓子ちゃん。」
「…え?」
「アンタの考えていることなんてお見通し。アタシがどんな生き物か、このフロアがどうしてこんな静かなのか、この状況をどうして安田が疑問に思わないか。気になっているのはそんなところでしょ。」
「…そんなにわかりやすい、ですか?」
「畏まらなくていいわ!面倒だし。分かりやすいって点は…そうね、この場は少しばかり特殊だから。」
「特殊…?」
「そう、ここはね…。」
ここはね、アンタの夢の中なのよ。
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