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さよなら、??
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起床してすぐ、体調の変化に気がついた。
「…う…ぐら…うっんん!…ぁ…。」
声、出ない。痛みはないが、かすれた声しか出せない。
今日はまだ金曜日。これはまずい。
『あぁ?菓子?何だよその声!どうした!』
「そ、れが…んん!…あざ、おぎだら、ごえが…。」
『え?…あー分かった分かった!声が出ないんだな、熱は?』
「ないでず…。」
『そうかぁ…まぁでも念のため病院行ってこい。このまま土日入って体調崩したら、それはそれで面倒だろ。』
「でも…。」
まずは職場に電話をする。一応の上司である安田はあまり出勤時間は早くない。少々不安に思いながらの連絡だったが、今日はすでにオフィスにいたようで電話を繋いでもらう。ラッキーだ。
何とか状況を説明すると、そのまま病院受診を勧められる。デリカシー皆無の安田が…、一体何があったのだろうか。
『いいって!疲れが出たんだよ。…その状態で出勤されても、怖いし。』
「あぁ…。」
まぁよく考えたらこの状態での出勤は、さすがにまずいか。声しかおかしい部分がないので感覚が麻痺してしまっているが、この状態ではまともに電話対応もできはしない。周りも気を使ってしまうだろう。大久保さん辺りには『自己管理がなってないのよ!』と飴ちゃんでも握らされて追い返される気しかしない。
少々仕事を休んでしまうのは気が引けるが…。指摘されたようにこの後体調が悪くなってくるかもしれないし、素直に病院に行って診てもらおう。自己判断危険、うん。
素直に病院に行った結果。いわゆる喉風邪だろうということだ。最近喉周りの症状だけで、他の諸症状が特にみられないような風邪が流行っているらしい。念のため薬が処方されてはいるが、心配なさそうだ。会社にも一報入れて、今日のところはそのまま休ませてもらうことにした。有給全然使ってなかったしね。
今日の晩御飯は何か作ってみようかと、スーパーに寄って食材を物色する。お総菜コーナーに視線が向いてしまうのはご容赦いただきたい。料理しないわけではないのだが、決して得意というわけではないのだ。頑張ってそこまで、という料理を食べるよりも、お手軽でおいしい料理、を求めるのは必然。…私は誰に弁明しているんだ?
「お、菓子。」
「…ん?」
そろそろレジに向かおうかと歩いていると、聞きなれた声がする。
そこにいたのは、中村だった。
「菓子、何してんだ。今日平日だろ。」
お前もだろ。
そう思っていると、後ろから子供を抱えた女性が。写真で何度か見たことがある、中村の奥様だ。小さく『誰?』『会社の同僚』と小声で説明をしている様子からも察せられる。適度なタイミングで会釈する。
「珍しいな、菓子でも休んだりするんだな。」
どういう意味だ。
「あ、俺たちは病院の帰りでさ。こっち、奥さんと娘。」
奥様からも会釈される。私も再度会釈。この会釈のやりとり、どこで終わらせていいのか分からなくて苦手なんだよね。
「娘の鼻水がなかなか治らなくてさ。何度も鼻を拭くから、鼻の下も荒れてきちゃって…ほら、可哀そうだろ?」
奥様からご息女を抱え上げ、こちらに顔を向けさせる。確かに鼻周りが赤くなっている。分かったからもうやめてあげて。体調不良、病院帰りでただでさえ疲れているのに、知らない人間の眼前に連れ出されるご息女の気持ちよ。そう願いを込めて早々に頷きで返す。
「なかなか体調戻らなくって、心配なんだよなぁ…。」
「そうかもしれないけど、もう毎回病院について来てくれなくていいんだよ?」
「いやでも小さい子連れての病院って大変だろ!心配だ!」
「うーん…。」
困ったように笑う奥様。おや?と思った頃、さすがに我慢の限界が来たのか、今まで静かに我々のやり取りを見ていたご息女がぐずりだした。中村がポンポンと背中を軽くたたいてあやすが、そう簡単に機嫌は戻らないようだ。彼らが押していたであろう買い物カートは、まだ会計が終わっていない状態。これはどちらかが離脱か?そろそろお暇しますねーの流れか?と思っていると、中村からまさかの発言が。
「おーどしたー?…あ!菓子、ちょっと抱っこしてみないか?」
「「は?」」
奥様とともに思わず聞き返してしまう。何言ってんだこいつ。
「赤ちゃん抱っこするなんて機会、なかなかないだろ。」
「いやでも、この子具合悪いし、病院帰りだよ?」
「でもほら、せっかくだしさ!」
何がせっかくなんだこのバカ。
私と奥様の気持ちは完全に一致しているだろう。
「ながむら、んんっ、その…。」
「おわ、菓子なんだその声!怖っ!」
「いや…ちょっと…喉風邪で…。」
私が編み出したこの喉風邪の数少ない攻略法が、『とにかく低い声であれば会話ができる』ということだ。コミュニケーション自体とれるようになるのだが、非常に印象が悪いということがネックになる。
中村も思わず私に抱っこさせようとしていたご息女を抱きなおす。
「喉風邪!?それ先に言えよ、娘にうつったらどうすんだ。」
ご息女の鼻風邪が私にうつる可能性は考えないのか?
というか伝えようにも声が…まぁこれは察しようがないか。
じゃあ俺たち帰るわ、とスタスタと会計へと歩いていく中村にかすかに頷いて返す。その後を追うように、奥様が『お大事に』との声とともに会釈してレジへ。それに同じく会釈で返す。気持ち中村へのものよりも深めに。少しずつ距離を取りながら、お互いペコペコと繰り返す。
やっぱりこの習慣苦手だわ。
「…う…ぐら…うっんん!…ぁ…。」
声、出ない。痛みはないが、かすれた声しか出せない。
今日はまだ金曜日。これはまずい。
『あぁ?菓子?何だよその声!どうした!』
「そ、れが…んん!…あざ、おぎだら、ごえが…。」
『え?…あー分かった分かった!声が出ないんだな、熱は?』
「ないでず…。」
『そうかぁ…まぁでも念のため病院行ってこい。このまま土日入って体調崩したら、それはそれで面倒だろ。』
「でも…。」
まずは職場に電話をする。一応の上司である安田はあまり出勤時間は早くない。少々不安に思いながらの連絡だったが、今日はすでにオフィスにいたようで電話を繋いでもらう。ラッキーだ。
何とか状況を説明すると、そのまま病院受診を勧められる。デリカシー皆無の安田が…、一体何があったのだろうか。
『いいって!疲れが出たんだよ。…その状態で出勤されても、怖いし。』
「あぁ…。」
まぁよく考えたらこの状態での出勤は、さすがにまずいか。声しかおかしい部分がないので感覚が麻痺してしまっているが、この状態ではまともに電話対応もできはしない。周りも気を使ってしまうだろう。大久保さん辺りには『自己管理がなってないのよ!』と飴ちゃんでも握らされて追い返される気しかしない。
少々仕事を休んでしまうのは気が引けるが…。指摘されたようにこの後体調が悪くなってくるかもしれないし、素直に病院に行って診てもらおう。自己判断危険、うん。
素直に病院に行った結果。いわゆる喉風邪だろうということだ。最近喉周りの症状だけで、他の諸症状が特にみられないような風邪が流行っているらしい。念のため薬が処方されてはいるが、心配なさそうだ。会社にも一報入れて、今日のところはそのまま休ませてもらうことにした。有給全然使ってなかったしね。
今日の晩御飯は何か作ってみようかと、スーパーに寄って食材を物色する。お総菜コーナーに視線が向いてしまうのはご容赦いただきたい。料理しないわけではないのだが、決して得意というわけではないのだ。頑張ってそこまで、という料理を食べるよりも、お手軽でおいしい料理、を求めるのは必然。…私は誰に弁明しているんだ?
「お、菓子。」
「…ん?」
そろそろレジに向かおうかと歩いていると、聞きなれた声がする。
そこにいたのは、中村だった。
「菓子、何してんだ。今日平日だろ。」
お前もだろ。
そう思っていると、後ろから子供を抱えた女性が。写真で何度か見たことがある、中村の奥様だ。小さく『誰?』『会社の同僚』と小声で説明をしている様子からも察せられる。適度なタイミングで会釈する。
「珍しいな、菓子でも休んだりするんだな。」
どういう意味だ。
「あ、俺たちは病院の帰りでさ。こっち、奥さんと娘。」
奥様からも会釈される。私も再度会釈。この会釈のやりとり、どこで終わらせていいのか分からなくて苦手なんだよね。
「娘の鼻水がなかなか治らなくてさ。何度も鼻を拭くから、鼻の下も荒れてきちゃって…ほら、可哀そうだろ?」
奥様からご息女を抱え上げ、こちらに顔を向けさせる。確かに鼻周りが赤くなっている。分かったからもうやめてあげて。体調不良、病院帰りでただでさえ疲れているのに、知らない人間の眼前に連れ出されるご息女の気持ちよ。そう願いを込めて早々に頷きで返す。
「なかなか体調戻らなくって、心配なんだよなぁ…。」
「そうかもしれないけど、もう毎回病院について来てくれなくていいんだよ?」
「いやでも小さい子連れての病院って大変だろ!心配だ!」
「うーん…。」
困ったように笑う奥様。おや?と思った頃、さすがに我慢の限界が来たのか、今まで静かに我々のやり取りを見ていたご息女がぐずりだした。中村がポンポンと背中を軽くたたいてあやすが、そう簡単に機嫌は戻らないようだ。彼らが押していたであろう買い物カートは、まだ会計が終わっていない状態。これはどちらかが離脱か?そろそろお暇しますねーの流れか?と思っていると、中村からまさかの発言が。
「おーどしたー?…あ!菓子、ちょっと抱っこしてみないか?」
「「は?」」
奥様とともに思わず聞き返してしまう。何言ってんだこいつ。
「赤ちゃん抱っこするなんて機会、なかなかないだろ。」
「いやでも、この子具合悪いし、病院帰りだよ?」
「でもほら、せっかくだしさ!」
何がせっかくなんだこのバカ。
私と奥様の気持ちは完全に一致しているだろう。
「ながむら、んんっ、その…。」
「おわ、菓子なんだその声!怖っ!」
「いや…ちょっと…喉風邪で…。」
私が編み出したこの喉風邪の数少ない攻略法が、『とにかく低い声であれば会話ができる』ということだ。コミュニケーション自体とれるようになるのだが、非常に印象が悪いということがネックになる。
中村も思わず私に抱っこさせようとしていたご息女を抱きなおす。
「喉風邪!?それ先に言えよ、娘にうつったらどうすんだ。」
ご息女の鼻風邪が私にうつる可能性は考えないのか?
というか伝えようにも声が…まぁこれは察しようがないか。
じゃあ俺たち帰るわ、とスタスタと会計へと歩いていく中村にかすかに頷いて返す。その後を追うように、奥様が『お大事に』との声とともに会釈してレジへ。それに同じく会釈で返す。気持ち中村へのものよりも深めに。少しずつ距離を取りながら、お互いペコペコと繰り返す。
やっぱりこの習慣苦手だわ。
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