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さよなら、??②
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ふと目を開けると、そこは見慣れたオフィス。夢の中の、ではあるが。
自身のデスクに歩いていくと、すっかり定位置のように座っているペルがいた。
「…だからそれ、やめてってば。」
「だから気にしないでってば。…体調はどう?治った?」
「そんな早くは治らないと思う。でもまぁ、元々声以外何ともないしね。特にここじゃ何ともないかな。」
「そう。」
「…。」
ペルの口数がいつもより少ない。普段だったらもっとどうでもいい話をするのに。
「…ねぇ、彼についてどう思う?」
「彼?」
「同僚の。」
「あぁ、中村。別に。元々周りをよく巻き込んで行動するタイプだったし、今回もそうなんじゃないかな。…いいかどうかは分からないけど。」
育休明けの中村に対して、他の職員からの『どうかかわっていいものか』という雰囲気が漂っているのは感じる。明確な不快感とまではいかないが、やりにくさのようなものはあるのだろう。特に働き方に関して調整やら相談やらで動かねばならない安田は、上と中村との間に挟まれているような状況。伝え方一つにしても気を遣わねばならず、苦労していることだろう。
ぜひとも頑張ってほしいが。
「家族に対して献身的なのは好印象。でも他の人間を蔑ろにしているのは悪手、といったところかしらね。」
「蔑ろって…そこまでじゃないんじゃない?家族を優先しているってだけで。」
「それが免罪符みたいになったら、他の人は何も言えないじゃない。反論を封じて、自分の要望ばっかり通そうとする。NOと言おうものなら、声高に守られるべき権利だと主張する。」
「…実際そうじゃない。」
「私たちは?他の人間は保護されない存在だっていうの?」
「そうじゃない。そうじゃないけど…。」
「この前言ってたじゃない。『私の時間を使って理想を叶えようとするな』って。」
「…。」
「それが本心でしょ。」
良い人ぶるな。そう言われているように感じる。
「そこにあの奥さん。随分と申し訳なさそうにしてたじゃない。当然の権利なんだったら、もっと堂々としていいでしょうに。どうせなら、当たり前でしょってふんぞり返っててくれたら悪態の一つでも言えるのにねぇ。」
「ちょっと…。」
「あの彼の相手なんだから。」
「…何が言いたいの。」
自身の要望を通そうとする中村の奥様にしては、こちら側に対して引け目があるような態度だったとは思う。もしかしたら、中村の休みがちな働き方は夫婦の総意ではないのかもしれない。ただ中村が暴走しているだけ。
でも、そこを指摘するほどの関係性は、私にはない。
「それぞれの家庭のことだものね。他人であるアンタには、発言権なんて…。」
分かってる。
ペルの毛色が、どんどん暗く、黒く、淀んだ色に変化していく。
「あーあ、奥さん大変そうね。悪意がないだけに質が悪い。ああいう人間は、自分が間違ってないって聞く耳持たないんだから。現実的かどうかなんて、関係ないのよ。周りの人間を踏み台にして、自分はみんなが言いたかったことを言っている、みたいな達成感に浸ってる。」
「そこまで言うことないじゃない。」
「…アンタ、やけにかばうじゃない。実際体調崩して、温かい家族像みたいなものを押し付けられて。迷惑かけられている側だっていうのに。どうかしたの?」
どうかも何も、中村の主張自体は間違っているわけじゃない。ただそれを達成すること自体が現実的じゃないだけで…。
いや、私はこれに関して決着をつけに来たのだ。
「ペル、私もういいんだ。…もういいの。」
「…。」
「ペルはさ、ここを上手に使うように言ってくれてたじゃない?私、ここをストレス発散の場にしてむかつく相手をぶっ飛ばしてたわけなんだけど。」
「特に最初のは最高だったわね。」
「ありがとう。でもやっぱり現実に影響するわけないから、結局は自分でうまく付き合っていくしかなくて。そうなるとさ、相手を変えるんじゃなくて私が変わる方が現実的なんだよね。夢の中で相手を殺して、現実では自分を殺すの。」
「…。」
「ただ我慢しているのがいいわけじゃないだろうけどさ。その方が簡単な気がして。でもどこかに譲れない部分があって、それを無視していたらどこかが壊れていくんだって、今回実感した。」
「…彼のことね。」
「うん。」
想像する。私の手元に現れたのは、シンプルな花瓶とカラフルな花束。花瓶を自身のデスクに置き、そのまま花束を花瓶に生ける。
イスに座って気持ち花の並びを整える。デスクから離れるように、イスに座ったまま後ろへと蹴りだす。コロコロと勢いよく転がったイスのキャスターが自然と減速し、止まる。その場で指を立て、額縁のようにして最終確認。センスに自信はないが、こんなものだろう。
「まぁまぁじゃない。」
「でしょ。」
肩に飛び乗ってきたペルから及第点をいただく。花は特に詳しくない、色合いとかもあまり気にならない。そんな人間が想像するにしては、いい出来ではなかろうか。
「…これでいいのね?」
「うん。」
「後悔しない?」
「しないよ。…というか、ここで私が考えていることなんて、何でもお見通しなんじゃないの?」
「最終確認よ。…自分自身にね。」
「…だよね。」
ペルの毛色がすっかり変わってしまった。
鈍い痛みと悲しみを感じる。暗く、重い色。
どこかで分かっていたような気がする。ペルの振る舞いや言動が、心の奥底で私が感じていたことを反映していることに。
ペルが、私自身の分身ともいえる存在であることに。
「…このあたりで、お別れかしらね。」
「一旦ね。」
私の肩から飛び降り、再びデスクの上に飛び乗って花瓶のそばに座る。
私自身とは、完全に別れられるはずがない。
「まったく、嫌な役割ばかりさせられるわ。アンタが表でいい子ぶっている分、アタシはこっちで暴れ回らないと気が気じゃないわ。」
「ごめんね。」
私は、知らず知らずのうちに自分が本当に思ったことを押し殺していた。
本当の心、ペルは、とっても苦しかっただろう。
「今度は恋心まで置いてくるつもりなんて…。」
「ごめんてば。」
そう、私はきっと、中村に恋をしていた。
自身のデスクに歩いていくと、すっかり定位置のように座っているペルがいた。
「…だからそれ、やめてってば。」
「だから気にしないでってば。…体調はどう?治った?」
「そんな早くは治らないと思う。でもまぁ、元々声以外何ともないしね。特にここじゃ何ともないかな。」
「そう。」
「…。」
ペルの口数がいつもより少ない。普段だったらもっとどうでもいい話をするのに。
「…ねぇ、彼についてどう思う?」
「彼?」
「同僚の。」
「あぁ、中村。別に。元々周りをよく巻き込んで行動するタイプだったし、今回もそうなんじゃないかな。…いいかどうかは分からないけど。」
育休明けの中村に対して、他の職員からの『どうかかわっていいものか』という雰囲気が漂っているのは感じる。明確な不快感とまではいかないが、やりにくさのようなものはあるのだろう。特に働き方に関して調整やら相談やらで動かねばならない安田は、上と中村との間に挟まれているような状況。伝え方一つにしても気を遣わねばならず、苦労していることだろう。
ぜひとも頑張ってほしいが。
「家族に対して献身的なのは好印象。でも他の人間を蔑ろにしているのは悪手、といったところかしらね。」
「蔑ろって…そこまでじゃないんじゃない?家族を優先しているってだけで。」
「それが免罪符みたいになったら、他の人は何も言えないじゃない。反論を封じて、自分の要望ばっかり通そうとする。NOと言おうものなら、声高に守られるべき権利だと主張する。」
「…実際そうじゃない。」
「私たちは?他の人間は保護されない存在だっていうの?」
「そうじゃない。そうじゃないけど…。」
「この前言ってたじゃない。『私の時間を使って理想を叶えようとするな』って。」
「…。」
「それが本心でしょ。」
良い人ぶるな。そう言われているように感じる。
「そこにあの奥さん。随分と申し訳なさそうにしてたじゃない。当然の権利なんだったら、もっと堂々としていいでしょうに。どうせなら、当たり前でしょってふんぞり返っててくれたら悪態の一つでも言えるのにねぇ。」
「ちょっと…。」
「あの彼の相手なんだから。」
「…何が言いたいの。」
自身の要望を通そうとする中村の奥様にしては、こちら側に対して引け目があるような態度だったとは思う。もしかしたら、中村の休みがちな働き方は夫婦の総意ではないのかもしれない。ただ中村が暴走しているだけ。
でも、そこを指摘するほどの関係性は、私にはない。
「それぞれの家庭のことだものね。他人であるアンタには、発言権なんて…。」
分かってる。
ペルの毛色が、どんどん暗く、黒く、淀んだ色に変化していく。
「あーあ、奥さん大変そうね。悪意がないだけに質が悪い。ああいう人間は、自分が間違ってないって聞く耳持たないんだから。現実的かどうかなんて、関係ないのよ。周りの人間を踏み台にして、自分はみんなが言いたかったことを言っている、みたいな達成感に浸ってる。」
「そこまで言うことないじゃない。」
「…アンタ、やけにかばうじゃない。実際体調崩して、温かい家族像みたいなものを押し付けられて。迷惑かけられている側だっていうのに。どうかしたの?」
どうかも何も、中村の主張自体は間違っているわけじゃない。ただそれを達成すること自体が現実的じゃないだけで…。
いや、私はこれに関して決着をつけに来たのだ。
「ペル、私もういいんだ。…もういいの。」
「…。」
「ペルはさ、ここを上手に使うように言ってくれてたじゃない?私、ここをストレス発散の場にしてむかつく相手をぶっ飛ばしてたわけなんだけど。」
「特に最初のは最高だったわね。」
「ありがとう。でもやっぱり現実に影響するわけないから、結局は自分でうまく付き合っていくしかなくて。そうなるとさ、相手を変えるんじゃなくて私が変わる方が現実的なんだよね。夢の中で相手を殺して、現実では自分を殺すの。」
「…。」
「ただ我慢しているのがいいわけじゃないだろうけどさ。その方が簡単な気がして。でもどこかに譲れない部分があって、それを無視していたらどこかが壊れていくんだって、今回実感した。」
「…彼のことね。」
「うん。」
想像する。私の手元に現れたのは、シンプルな花瓶とカラフルな花束。花瓶を自身のデスクに置き、そのまま花束を花瓶に生ける。
イスに座って気持ち花の並びを整える。デスクから離れるように、イスに座ったまま後ろへと蹴りだす。コロコロと勢いよく転がったイスのキャスターが自然と減速し、止まる。その場で指を立て、額縁のようにして最終確認。センスに自信はないが、こんなものだろう。
「まぁまぁじゃない。」
「でしょ。」
肩に飛び乗ってきたペルから及第点をいただく。花は特に詳しくない、色合いとかもあまり気にならない。そんな人間が想像するにしては、いい出来ではなかろうか。
「…これでいいのね?」
「うん。」
「後悔しない?」
「しないよ。…というか、ここで私が考えていることなんて、何でもお見通しなんじゃないの?」
「最終確認よ。…自分自身にね。」
「…だよね。」
ペルの毛色がすっかり変わってしまった。
鈍い痛みと悲しみを感じる。暗く、重い色。
どこかで分かっていたような気がする。ペルの振る舞いや言動が、心の奥底で私が感じていたことを反映していることに。
ペルが、私自身の分身ともいえる存在であることに。
「…このあたりで、お別れかしらね。」
「一旦ね。」
私の肩から飛び降り、再びデスクの上に飛び乗って花瓶のそばに座る。
私自身とは、完全に別れられるはずがない。
「まったく、嫌な役割ばかりさせられるわ。アンタが表でいい子ぶっている分、アタシはこっちで暴れ回らないと気が気じゃないわ。」
「ごめんね。」
私は、知らず知らずのうちに自分が本当に思ったことを押し殺していた。
本当の心、ペルは、とっても苦しかっただろう。
「今度は恋心まで置いてくるつもりなんて…。」
「ごめんてば。」
そう、私はきっと、中村に恋をしていた。
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