脳内殺人

ふくまめ

文字の大きさ
20 / 22

さよなら、??③

しおりを挟む
「面倒なことしてごめん。でも、もうこれ持っていられないから。」
「…はぁ。」

へらっと笑いかけてみるが、ペルは黙ってため息をつくだけだ。
改めて花瓶に飾られた花束を見る。
シンプルな花瓶に活けられた花束。カラフルではあるが、花自体の種類は少ない。こうして明確に置いていくという決意を示そうと、詳しくはないながらも調べた花。

「まったく柄にもないことを…と言いたいところだけど、まぁいいわ。この花が枯れて、役目を終えるその日まで、アタシがそばにいてあげる。」
「ありがとう。」
「これは餞別よ。」

ペルはどこから取り出したのか、尻尾を器用に使って何かを投げてよこす。反射的に受け取り、投げられたものを改めて確認すると、それは一輪のひまわりだった。

「花に詳しくないアンタでも、意味は分かるでしょ。…まぁ、アタシが準備したんだから、知らないはずないんだけど。」
「うん。」
「言わんとしていることも、分かるわね?」
「…うん。」

ひまわり。花言葉は『あなただけを見ています』。

「アタシのことを知っているのは、他でもないアンタだけなんだから。…社会を生きていくって大変だろうけど、アタシのことも…本当の自分のことも大事にしてもらいたいわ。」
「肝に銘じます。」
「自分を蔑ろにして他人に尽くしていても、いつか『なんで私が』とか『自分のことも犠牲にしてまで…』って気持ちになる。そうなれば、もう他人に優しくなんてできやしないんだから。」
「はい。それはもう、身をもって。」
「頼むわよ、ホント。」

頷きながら、ひまわりを大事に抱える。ここから覚めたら、このひまわりも消えてしまう。決して忘れることのないようにしなければ。念入りに確認したペルも、納得したように頷いて見せた。
気がつくと、私が想像していたよりも随分とオフィスが狭い。安田が飛び出していった窓も、大久保さんが入り浸っていた給湯室も、高橋夫妻が立っていた床も、もうただの白い空間になってしまっている。
だが、もう一度想像して出現させようという気にはならない。

「…それじゃ、そろそろさよならかしらね、お菓子ちゃん。寂しくなったら、また来ていいのよ。」
「うん。きっとまた来るから。」
「…急がなくていいのよ。アタシもちょっと、疲れちゃったから。」

残されたオフィスの出入り口となっているドアに手をかける。
ありがとうペル。いつか来る、また逢う日まで。
ドアをくぐり、最後に振り返った瞬間に見えたのは、消えていくオフィスの景色の中で愛おしそうに花に寄り添っているペルの姿。
あの花束は、アネモネと友禅菊。
アネモネは『恋の苦しみ』『儚い恋』。
友禅菊は『さようなら』『恋の思い出』。

さよなら、恋心。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...