脳内殺人

ふくまめ

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それぞれの収まりどころはこんなもん

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アラームが私を夢の中から呼び戻す。
徐々にはっきりしてきた意識の中で、私を呼び続けるスマホ画面をタップする。結局、土日は体調こそ悪化しなかったものの、何をするにもやる気が起きずゴロゴロして過ごしてしまった。
疲れている、というのもあながち間違いではなかったのかもしれない。そう思ってズボラな自分を肯定しておく。
今日は月曜日。体調も戻ってきているし、問題なく勤務可能。思ったよりも気持ちは落ち着いている。きっと、ペルのおかげだ。



「おはようございます。」
「菓子さん、おはよう。体調は大丈夫?」
「はい。お休みいただいて、もうすっかり。ありがとうございました。」
「いいのよ!最近忙しそうにしていたし、あまり無理しないようにね!」
「はい。」

いつものように早めに来ていた大久保さん。出勤してきた私にいち早く気がつくと、体調を気にかけてくれた。何だかんだ、この人は周りをよく見てくれているのだ。…見過ぎ、ということもあるとは思うけども。
とにかく、無理はしないように!と釘を刺しながら、ポケットに飴ちゃんをねじ込むことも忘れない。まさかの予想通りの展開。しかしポケットの中にあるのは、清涼感のあるのど飴ではなくおにぎり型のイチゴミルク味。意外だ。この飴のサクサク感っていうの?結構好き。
密かにほっこりしながら自分のデスクに行くと、隣にはすでに高橋の姿が。珍しい。

「先輩!仕事して大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ、大げさ。」
「でも、最近顔色悪かったし、表情だって暗かったし…。」

私の姿を確認したとたん、思わずといった様子で立ち上がる高橋。私は死にかけていたのか?と思うほどの反応。意外と心配されていたらしい。

「もう簡単に仕事もらっちゃダメですよ!」
「高橋だって仕事残して帰ってたくせに。」
「うっ…!も、もうしませんもん!ちゃんと考えます…。」
「別に他の人に仕事任せても大丈夫だよ。でも事前に作戦会議とかしたいかな。」

早めに相談します…でも今日相談するのは先輩の方ですからね!とスティックコーヒー、ならぬスティックココアを机に叩きつけられる。一見集中力を高めそうなコーヒーではあるが、カフェインの摂り過ぎは体に負担となる。効率よく動ける高橋らしいチョイス。…その効率の良さを向ける対象が暴走することがないわけではない、ということもあるだろうが。
実はあまりコーヒーが得意ではない。今日の仕事のお供にと早速いただこうかと給湯室で準備をしよう。そう思って入った給湯室の片隅には、紙袋が置かれている。誰かのプレゼントか?

「あ、か、菓子、その…。」
「うわびっくりした。中村か、どうかした?」

誰かのお祝いか何かかと結論付け、ココアの準備を再開すると同時に声をかけられる。非常に驚いたが、声の主である中村の浮かない表情の方が気になってしまう。

「あのさ、それ、なんだけど。」
「ん?あぁこの紙袋?中村の?はい。」

歯切れ悪く先ほど発見した紙袋を指さしたので、この袋の持ち主は中村だったのかと察しがついた。誰かから中村へのプレゼントだったのかもしれない。何のタイミングの贈り物だろうか?そう思って紙袋を差し出す。有名お菓子のロゴ書かれている。奥様へのプレゼントかもしれない。

「いやこれ…菓子に。」
「…私?何で?」
「…いつもご迷惑を…。」
「…ほう。」

中村曰く、仕事に復帰してから私に迷惑をかけっぱなしだったと。そして先日のスーパーでの出来事。あの態度はなんだと、職場で仕事を手伝ってもらっている人?お菓子でも持って謝罪しなさい!と奥様に叱られたんだとか。そう体を小さくしながら説明する中村。アホらし。

「…あの時の態度はさすがにないと思った。」
「…すみません。」
「奥様に指摘されて、初めて気がついたの?」
「う…。」
「はぁ…まずそもそも、体調が悪いご息女を他人に関わらせないで。可哀そうでしょ、病院にも行ってきて疲れているのに。」
「…はい。」
「私への態度は…まぁご息女を危険から遠ざけようとした結果、ともとれるので…。今後はもう少し考えて動くようにしてくれれば。」
「もちろんです…。」
「…ま、人様の家庭事情に口出すのは失礼と承知の上で言わせてもらえば、今後の生活について奥様としっかり話し合った方がいいと思うよ。なんかその…中村は少し暴走気味に見えてね…。」
「あぁ…。」

この際言いたいことを言ってしまおうと、今まで遠慮してきたことを伝えてみる。そんな感じのこと、妻に何回か言われてる…とさらに中村は肩を小さくしてしまった。その様子を見て、可哀そうだなと思うより先に言わんこっちゃない、それ見たことか、といった感想が脳内を駆け巡っている私はいい性格をしていると思う。

「じゃああとは話し合いをしていって、今後につなげるように頑張るだけだね。…お菓子、ありがたくいただくけど、これ皆に配っていい?」
「へ、いやでもそれ、菓子に渡そうと…。」
「仕事のフォローに入っているのはみんな一緒。中村からの日頃の感謝だって配ったらいい。」
「それはそうだけど…でも今回の謝罪の分が…。」
「謝罪なんていいから今後に生かしてくれー。」

もうそろそろデスクに戻らなければ。ココアを忘れずに持って皆の元へ。
中村から普段お世話になっているからって差し入れ来ましたよー、と声をかけると女性職員が何々?と早速確認しにやってきた。大久保さんと鈴木さんは、少し離れて様子を伺っていた中村に声をかけに行っていた。
『わざわざいいのに』と鈴木さん。
『そうよ!気なんか使わないで!』とすかさず中村のポケットに飴ちゃんをねじ込む大久保さん。
差し入れを確認し終えた職員たちも、口々にごちそうさまです、わざわざありがとうございます、とお礼を言ってデスクへ戻っていく。

「おはよ…ってどうしたどうした。何かあったか?」
「あぁ安田さん、おはようございます。」

そろそろ完売かな、なんて思っていると安田が出勤。少々興奮状態にあるオフィスに首をかしげている。中村からの差し入れがあったのだと説明すると、納得すると同時に『俺の分残っているか!?』とダッシュ。
そういうところだぞ、安田。

「わざわざすまんな、中村!ごちそうさん。」
「あぁ、いえ…。」
「そんな中村に朗報です。朗報でいいのか?まぁ進展があったので、悪い話ではないと思う。皆も聞いてくれるかー。」
「何です、安田さん。もう少しで就業時間なんですけど。」
「大久保さん、一応業務連絡ということで。えー、中村の復帰にあたって、勤務形態やら休みの取り方だとか仕事量の調整だとか、いろいろごちゃごちゃしていて大変だったと思う。」
「…大変、ご迷惑を…。」
「いやいや、中村が悪いわけじゃないんだよな。…お前そんなキャラだった?まぁとにかく、現場の状況を上に報告していました。それはもう頻繁に!んでもって、ついに『柔軟な働き方ができるように新しいシステムを検討する』と、正式に、返事が来ました。」
「…つまりそれって?」
「いわゆる働き方改革ってやつ?この職場にも導入されることになりそうです!」
「これまでとどう変わっていくんです?」
「今のところ、分かりません!が!少なくとも今までのように、やったことないしって突っぱねられることはなくなります!」
「あ、ありがとうございます…!」
「いや、中村が声をあげてくれたから、少しずつ動き出した。…中村が求めるような体制には程遠いけど、もう少し付き合ってくれ。そんな中村君、実は君を働き方改革を行っていくメンバーに推薦しようと思っています!どうかな?」
「え、俺、ですか?でも…。」
「あー言っとくけど、別に左遷とかじゃないからな!意見がほしくてさ、アドバイザーみたいなもんかな。お偉いさん方はさ、育休なんて取ったことないおっさんばっかだからさ。実際に取っている人間の生の意見が欲しいってことよ。」
「お、俺がお役に立てるなら!」

そんなこと言わずに引っ張って行くくらいで頼むぞ!とガハガハ笑いながら中村の肩をバシバシ叩いている安田。どうやらこのオフィスにも新しい風が吹き始めているようだ。本格的な動きはまだまだこれからだろうが、今回のきっかけになったであろう中村をメンバーに入れることで、きっといい方向に変われるだろう。
仕事量に関しては早急に見直すから、もう少し踏ん張ってくれー!との掛け声とともに、中村からもらったお菓子を振り回しながら安田はデスクへと向かっていく。
いいぞ安田、頼むぞ。
私の分のお菓子はすでになかったが今回は許そう。
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