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第一章 あるいは運命だったのかもしれない
第2話 得体のしれない何かを拾ってしまった
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もはや人形と呼んでいいのかもわからない、得体のしれない何かを拾ってしまった。
宇宙人? 妖精? お化け? 幻覚?
少女は混乱したまま自宅の玄関を開ける。奥からタオルを持って迎えに出てきた母親は、ずぶ濡れの少女を見て早口でまくし立てた。
「おかえり、紗良。お風呂沸いてるから入っちゃいなさい。やだもう……制服、明日までに乾くかしら。靴下はここで脱いじゃってね」
お風呂と聞いて、スクールバッグの中の未確認生命体の事を想う。この子も入れてあげた方が良いかもしれない。
「このままバスルームに直行しちゃうね」
怪しまれないよう、バッグを持ったまま脱衣所へと滑り込む。そっと中を確認すると、タオルハンカチを毛布のようにしてくるまる謎の生命体と目が合った。やはり幻ではなかったんだなと、紗良はゴクリと唾を飲み込む。
「あのね、お風呂……わかる? 体を温めた方が良いと思うの。一緒に入ろ?」
恐る恐る声をかけてみるとコクリと頷いたので、話が通じることにひとまず安堵した。
紗良はスクールバッグの中から小さな生き物を両手で優しく抱き上げる。雨に長い間打たれていたのだろう。体はすっかり冷え切っていてガタガタと震えていた。
洗面器で風呂の湯を掬い、即席の小さなバスタブを作ってやると、彼女は嬉しそうに紗良を見上げた。それから自分の着ていたものを一気に脱ぎ捨て、ドボンと洗面器へ飛び込んだ。肩まで湯につかると、ふにゃーっと満足そうに顔をほころばせる。
そこで初めて、小さな生き物に狐のような耳と尻尾が付いていることに気が付いた。
「あなたは何者? どこから来たの?」
紗良自身もバスタブに身を沈めると、思いついた疑問をそのまま口にした。小さな生き物は湯の中で泥にまみれた髪をほぐすのに苦戦しながらチラッと上を見る。
紗良は豆粒ほどのシャンプーを手に取ると、器用に泡立て小さな生き物の髪を優しく洗ってやった。昔、着せ替え人形の頭をこうして洗ったことがあったなと思い出し、懐かしさに思わず頬が緩む。
「私の名前は、鞠。どこから来たかは、ナイショだよ」
シャンプーされるのが余程気持ちいいのか、寝てしまいそうな程うっとりとした表情で鞠が答える。
「ナイショか……。鞠ちゃんは、狐なの?」
「ううん。狐の守護精霊。ご主人様とはぐれちゃった。だって、ご主人様は最近霊力が弱ってるから、見つけにくいんだもん」
「はぐれちゃったって、もしかして迷子? ご主人様ってどんな人? そうだ。見つかるまでずっと家にいなよ」
シャンプーを洗い流し、濁った洗面器の湯を綺麗なものに替えてやりながら、紗良は思わずそんな提案をしてしまった。あまりにも可愛い動く人形のような鞠に、どんな服が似合うだろうと妄想する。押入れの奥にしまい込んだ着せ替え人形の服を引っ張り出して、ファッションショーをしたくてたまらない。
「ありがとう、でも大丈夫だよ。それに私、あんまり人間に知られちゃダメなの。雨が止んだら出ていくね」
「そんな……じゃあ、せめて今夜だけでも泊っていって。ね? お願い」
詮索し過ぎて警戒されてしまったかと焦りながら、紗良はバスタブから身を乗り出す。
宇宙人? 妖精? お化け? 幻覚?
少女は混乱したまま自宅の玄関を開ける。奥からタオルを持って迎えに出てきた母親は、ずぶ濡れの少女を見て早口でまくし立てた。
「おかえり、紗良。お風呂沸いてるから入っちゃいなさい。やだもう……制服、明日までに乾くかしら。靴下はここで脱いじゃってね」
お風呂と聞いて、スクールバッグの中の未確認生命体の事を想う。この子も入れてあげた方が良いかもしれない。
「このままバスルームに直行しちゃうね」
怪しまれないよう、バッグを持ったまま脱衣所へと滑り込む。そっと中を確認すると、タオルハンカチを毛布のようにしてくるまる謎の生命体と目が合った。やはり幻ではなかったんだなと、紗良はゴクリと唾を飲み込む。
「あのね、お風呂……わかる? 体を温めた方が良いと思うの。一緒に入ろ?」
恐る恐る声をかけてみるとコクリと頷いたので、話が通じることにひとまず安堵した。
紗良はスクールバッグの中から小さな生き物を両手で優しく抱き上げる。雨に長い間打たれていたのだろう。体はすっかり冷え切っていてガタガタと震えていた。
洗面器で風呂の湯を掬い、即席の小さなバスタブを作ってやると、彼女は嬉しそうに紗良を見上げた。それから自分の着ていたものを一気に脱ぎ捨て、ドボンと洗面器へ飛び込んだ。肩まで湯につかると、ふにゃーっと満足そうに顔をほころばせる。
そこで初めて、小さな生き物に狐のような耳と尻尾が付いていることに気が付いた。
「あなたは何者? どこから来たの?」
紗良自身もバスタブに身を沈めると、思いついた疑問をそのまま口にした。小さな生き物は湯の中で泥にまみれた髪をほぐすのに苦戦しながらチラッと上を見る。
紗良は豆粒ほどのシャンプーを手に取ると、器用に泡立て小さな生き物の髪を優しく洗ってやった。昔、着せ替え人形の頭をこうして洗ったことがあったなと思い出し、懐かしさに思わず頬が緩む。
「私の名前は、鞠。どこから来たかは、ナイショだよ」
シャンプーされるのが余程気持ちいいのか、寝てしまいそうな程うっとりとした表情で鞠が答える。
「ナイショか……。鞠ちゃんは、狐なの?」
「ううん。狐の守護精霊。ご主人様とはぐれちゃった。だって、ご主人様は最近霊力が弱ってるから、見つけにくいんだもん」
「はぐれちゃったって、もしかして迷子? ご主人様ってどんな人? そうだ。見つかるまでずっと家にいなよ」
シャンプーを洗い流し、濁った洗面器の湯を綺麗なものに替えてやりながら、紗良は思わずそんな提案をしてしまった。あまりにも可愛い動く人形のような鞠に、どんな服が似合うだろうと妄想する。押入れの奥にしまい込んだ着せ替え人形の服を引っ張り出して、ファッションショーをしたくてたまらない。
「ありがとう、でも大丈夫だよ。それに私、あんまり人間に知られちゃダメなの。雨が止んだら出ていくね」
「そんな……じゃあ、せめて今夜だけでも泊っていって。ね? お願い」
詮索し過ぎて警戒されてしまったかと焦りながら、紗良はバスタブから身を乗り出す。
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