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第三章 夏の宵
第22話 アイスティー色の瞳
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「これ、百鬼夜行の歌詞だ……」
今日発表されたばかりの新曲の歌詞を、御堂はわざわざノートに書き留めたのだろうか。
何のために? 百鬼夜行のファンだから?
それにしては、随分と雑なメモ書きのようにあちこちと文字が散らばっているし、ペンのインクの乾き具合も、今日書いたばかりと思えない時間の経過を感じさせた。
安易に画面の歌詞を書き留めたものではなく、明らかに御堂自身が試行錯誤しながら書き上げたもののように見える。
「まさか」
頭に浮かんだ可能性は突拍子もなさすぎて、否定しようと首を振ったが顔は引きつったままだった。だけどその「突拍子もない可能性」を認めると、今までの不可解な出来事にも全て説明が付く。
次の瞬間、部屋のドアが開いて紗良はビクッと体を震わせた。
間口に立つ御堂は、紗良が手にしているノートに気づいて青ざめ短く息を吸う。御堂はグラスの乗った盆を静かにローテーブルの上に置くと、顔を伏せたまま紗良の手からノートを奪い取った。
「……見た?」
「見た……」
この状況から上手くごまかせる程の劇的な嘘も思い付かず、紗良は素直に頷いた。しばらく沈黙が続き、耐えきれなくなった紗良が明るい声で笑って見せる。
「み、御堂くんも百鬼夜行好きだったんだね。仲間が増えて嬉しいなあ」
白々しさは百も承知だったが、何か言わずにはいられなかった。にわかに信じることなど到底出来ない。それでも御堂は何も答えず、俯いたままじっとしている。
前髪が顔にかかって口元だけが覗いている状態の御堂に、紗良は脳内で狐の半面と獣の耳を着けてみた。
その姿は完全にユズだった。
「まさか課題のノートに紛れてるとは。迂闊だった」
「ご、ごめん。ノート勝手に見ちゃって」
ようやく声を出した御堂は、長く息を吐きながら首を振った。
「いや。俺がそこにあるノート見ろって言ったんだから、お前は悪くない」
「ほ、本当にユズなの? 私、凄く好きで……どうしよう、信じられない。私、ライブにも行ったんだよ。そうだ、その時会ったよね。私が何て言ったか、本人なら覚えてるでしょ? 言ってみて!」
気が動転して早口な紗良の言葉を聞いて、御堂もその時のことを思い出したように「ああ」と低く頷いた。
「お前が『好きです』とか調子のいいこと言うから、意地悪したくなったんだ」
「嘘……本物なんだ……」
テーブルに頬肘をついて、御堂は相変わらず日差しの強い窓の外に目をやる。
「あの後、お前一人で駅まで帰らせるの心配だったから、空也に後を追わせたんだ。そしたら案の定、ナンパされる寸前だったって聞いて焦ったよ」
空也と聞いて、紗良はハッとする。
「も、もしかして……ソラって、東雲先生?」
御堂はもうすっかり観念したようで、素直にうん。と頷いた。
今日発表されたばかりの新曲の歌詞を、御堂はわざわざノートに書き留めたのだろうか。
何のために? 百鬼夜行のファンだから?
それにしては、随分と雑なメモ書きのようにあちこちと文字が散らばっているし、ペンのインクの乾き具合も、今日書いたばかりと思えない時間の経過を感じさせた。
安易に画面の歌詞を書き留めたものではなく、明らかに御堂自身が試行錯誤しながら書き上げたもののように見える。
「まさか」
頭に浮かんだ可能性は突拍子もなさすぎて、否定しようと首を振ったが顔は引きつったままだった。だけどその「突拍子もない可能性」を認めると、今までの不可解な出来事にも全て説明が付く。
次の瞬間、部屋のドアが開いて紗良はビクッと体を震わせた。
間口に立つ御堂は、紗良が手にしているノートに気づいて青ざめ短く息を吸う。御堂はグラスの乗った盆を静かにローテーブルの上に置くと、顔を伏せたまま紗良の手からノートを奪い取った。
「……見た?」
「見た……」
この状況から上手くごまかせる程の劇的な嘘も思い付かず、紗良は素直に頷いた。しばらく沈黙が続き、耐えきれなくなった紗良が明るい声で笑って見せる。
「み、御堂くんも百鬼夜行好きだったんだね。仲間が増えて嬉しいなあ」
白々しさは百も承知だったが、何か言わずにはいられなかった。にわかに信じることなど到底出来ない。それでも御堂は何も答えず、俯いたままじっとしている。
前髪が顔にかかって口元だけが覗いている状態の御堂に、紗良は脳内で狐の半面と獣の耳を着けてみた。
その姿は完全にユズだった。
「まさか課題のノートに紛れてるとは。迂闊だった」
「ご、ごめん。ノート勝手に見ちゃって」
ようやく声を出した御堂は、長く息を吐きながら首を振った。
「いや。俺がそこにあるノート見ろって言ったんだから、お前は悪くない」
「ほ、本当にユズなの? 私、凄く好きで……どうしよう、信じられない。私、ライブにも行ったんだよ。そうだ、その時会ったよね。私が何て言ったか、本人なら覚えてるでしょ? 言ってみて!」
気が動転して早口な紗良の言葉を聞いて、御堂もその時のことを思い出したように「ああ」と低く頷いた。
「お前が『好きです』とか調子のいいこと言うから、意地悪したくなったんだ」
「嘘……本物なんだ……」
テーブルに頬肘をついて、御堂は相変わらず日差しの強い窓の外に目をやる。
「あの後、お前一人で駅まで帰らせるの心配だったから、空也に後を追わせたんだ。そしたら案の定、ナンパされる寸前だったって聞いて焦ったよ」
空也と聞いて、紗良はハッとする。
「も、もしかして……ソラって、東雲先生?」
御堂はもうすっかり観念したようで、素直にうん。と頷いた。
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