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第五章 酷い夢
第39話 キミに教えてあげたいなぁ
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「鈴音」
強い風が吹き抜けると同時に尾崎の低い声が聞こえ、鈴音の肩がビクッと跳ねた。
「何をしている、物騒だな。お前は俺と違って正統な稲荷神の眷属だろう。せっかく人の魂を喰わずに済むのに、その手もこの場も穢すな、馬鹿者」
いつの間にか鈴音の背後に立っていた尾崎が、諭すように声を掛ける。鈴音は気まずそうに唇を噛んだ。
「まさか。この場で本当に痛めつけたりはしませんよ。それにしても晴様……またそのように御自分を卑下される。古来より人の魂は神の贄でした。恥じることなど一つもないというのに」
鈴音が不満そうに反論しても、尾崎はまるで聞く気がないようだった。軽くあしらわれた事で余計ムキになった鈴音は、早口でまくし立てる。
「むしろ生贄を得た白狐はそれに報いようと、人を慕いながら益々神に近くなる。それ故、晴様も天狐となられたのではありませんか。そうよ……あんなに小さなうちに妖狐になれた禅ならきっと、空狐にまでなれる」
「やめろ」
語尾に被せるように放った尾崎の声は、静かだったが怒りの色が強く滲んでいた。
鈴音も流石にそれ以上は何も言えず、大人しく引き下がる。咎められて消沈する鈴音を放ったまま、尾崎は何もない空に向かって「鞠」と呼んだ。陽炎のように空気がゆらゆらと揺れ、鞠が姿を現す。
「お呼びですか? 晴様」
「学校まで妖の道を結んでくれ」
「承知しました。どうぞこちらへ」
鞠が案内するように手招いた。振り向くと、一本道だったはずの坂がどういう訳だか二股に分かれている。
「鈴音が手荒な真似をして悪かったね。非礼の詫びだ、一緒に行こう。学校まで五分と掛からないで着くよ」
歩き出した尾崎の背を追いながら、紗良は鈴音を振りかえった。悔しそうに噛んでいた唇が開かれ、「あとで」と動いたような気がした。紗良も尾崎に気付かれないように、小さく頷いて応える。
前を向くと見覚えのない道が広がっていて、両側には青白い狐火が灯されていた。驚いて目をしばたたくと、尾崎が得意気にニッと笑う。
「これ便利だろ。昨日キミを家まで送った時もあっという間だったよ。ところで、さっきは禅に会いに行ったの? まだヘンな事、考えてないよね」
本当のことなど言えるはずもなく、紗良は曖昧に首を振った。
「早く御堂くんに会わなきゃと思って。だって昨日、私が気を失う前に保健室から走り去ったの、御堂くんですよね。多分、変な誤解しているだろうから……」
「良い機会だから、このまま禅から離れなって。今は深く考えず俺にしとけよ。俺、こう見えても結構長く生きててね、楽しい事たくさん知ってるんだ。キミに教えてあげたいなぁ。あんな事やこんな事」
強い風が吹き抜けると同時に尾崎の低い声が聞こえ、鈴音の肩がビクッと跳ねた。
「何をしている、物騒だな。お前は俺と違って正統な稲荷神の眷属だろう。せっかく人の魂を喰わずに済むのに、その手もこの場も穢すな、馬鹿者」
いつの間にか鈴音の背後に立っていた尾崎が、諭すように声を掛ける。鈴音は気まずそうに唇を噛んだ。
「まさか。この場で本当に痛めつけたりはしませんよ。それにしても晴様……またそのように御自分を卑下される。古来より人の魂は神の贄でした。恥じることなど一つもないというのに」
鈴音が不満そうに反論しても、尾崎はまるで聞く気がないようだった。軽くあしらわれた事で余計ムキになった鈴音は、早口でまくし立てる。
「むしろ生贄を得た白狐はそれに報いようと、人を慕いながら益々神に近くなる。それ故、晴様も天狐となられたのではありませんか。そうよ……あんなに小さなうちに妖狐になれた禅ならきっと、空狐にまでなれる」
「やめろ」
語尾に被せるように放った尾崎の声は、静かだったが怒りの色が強く滲んでいた。
鈴音も流石にそれ以上は何も言えず、大人しく引き下がる。咎められて消沈する鈴音を放ったまま、尾崎は何もない空に向かって「鞠」と呼んだ。陽炎のように空気がゆらゆらと揺れ、鞠が姿を現す。
「お呼びですか? 晴様」
「学校まで妖の道を結んでくれ」
「承知しました。どうぞこちらへ」
鞠が案内するように手招いた。振り向くと、一本道だったはずの坂がどういう訳だか二股に分かれている。
「鈴音が手荒な真似をして悪かったね。非礼の詫びだ、一緒に行こう。学校まで五分と掛からないで着くよ」
歩き出した尾崎の背を追いながら、紗良は鈴音を振りかえった。悔しそうに噛んでいた唇が開かれ、「あとで」と動いたような気がした。紗良も尾崎に気付かれないように、小さく頷いて応える。
前を向くと見覚えのない道が広がっていて、両側には青白い狐火が灯されていた。驚いて目をしばたたくと、尾崎が得意気にニッと笑う。
「これ便利だろ。昨日キミを家まで送った時もあっという間だったよ。ところで、さっきは禅に会いに行ったの? まだヘンな事、考えてないよね」
本当のことなど言えるはずもなく、紗良は曖昧に首を振った。
「早く御堂くんに会わなきゃと思って。だって昨日、私が気を失う前に保健室から走り去ったの、御堂くんですよね。多分、変な誤解しているだろうから……」
「良い機会だから、このまま禅から離れなって。今は深く考えず俺にしとけよ。俺、こう見えても結構長く生きててね、楽しい事たくさん知ってるんだ。キミに教えてあげたいなぁ。あんな事やこんな事」
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