されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

始動⑦

 スランプを危惧する玲旺の心情を察したのか、宮木が玲旺の隣に並び、静かな声で語りかける。

「彼らにとっては同期のライバルたちに大きな差をつけるチャンスですからね。変に力が入り過ぎて空回りし、思うようにいかなくなると迷子になってしまうんですよ。半分大人で半分子どもの彼らには、とても良い経験でもあるんですけど。その辺りはきちんと我々がフォローしてよく見ておきますから、ご安心ください」

 胸を張ってうなずく宮木に、玲旺も微笑みを返す。

「何かできる事があれば、なんでも言ってください。彼らの可能性を、ここで潰してしまうことだけは避けたいので」

 玲旺はごく自然にその言葉が出たのだが、宮木はいたく感激したようで、胸の前で手を組み「ありがとうございます」と告げた。

「そんな風に言って頂けるなんて……初めて立つ大舞台がフローズンレインさんで、あの子たちは本当に幸せだわ。企業や事務所によっては、役者やモデルを使い捨ての道具のように扱いますから」

 悲しげに眉を寄せる宮木の声には実感がこもっていた。きっと宮木自身も、今まで悔しい思いを何度もしてきたのだろう。
 こちらまでやるせない気持ちになり、玲旺は宮木になんと返したらよいのか解らず口を引き結んだ。
 久我が軽く玲旺の背中を叩き、重い空気を払うように笑いかける。

「そう言った部分を少しずつでも改善できるよう、我々も何か力になれたら良いですね」

 それが簡単でないことは、久我も重々承知しているだろう。それでも口に出して言うことで、本当に何かが変わるような気がするから不思議だ。
 宮木は恐縮したように頭を下げる。

「すみません。生徒たちの話題から、更に話を飛躍させてしまって」
「いえ。一企業に出来る事は限られていますが、少しでも良い方向に変えられるように努めます」

 深影の身に起きたことを知っている玲旺には、とても無関係の遠い出来事には思えなかった。実際には、もっと酷い目にあった人もいるだろう。
 業界の暗い部分を改善するなど途方もない事だが、胸に留めておくのと何も意識しないのとでは、大きな違いだ。
 背負うものが次々と増えていくなと思いつつ、玲旺は挑戦出来る喜びを噛みしめる。きっと以前の自分ならば、スタートラインにすら立たせてもらえなかった。

 ふと視線を感じ顔を上げると、慈しむような眼差しでこちらを見つめる久我と目が合った。自分の成長を喜んで貰えているような気がして、玲旺も嬉しそうに見つめ返す。
 その瞬間、久我の瞳が僅かに揺れた。
 しかし玲旺が憂色の尻尾を捕まえる前に、久我は顔を背けるように腕時計に目を落とす。

「申し訳ありません。この後行かなければならない所がありますので、ここで失礼いたします」

 宮木に残念そうに告げる久我の表情には、もう憂いの影は微塵もなかった。
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