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~ 第二章 賽は投げられた ~
誰が為に⑩
「魔法の服……って、どういうこと?」
改めて聞かなくてもその意味は何となく理解できるが、久我は確認するように敢えて問いかけた。玲旺も同じような気持ちで少女に目を向ける。
今まで惜しげもなくフローズンレインを称えてくれた彼女が、次にどんな賛辞を呈してくれるのか非常に興味があった。
しかし、先ほどまでハイテンションで語ってくれていた少女は、一転して落ち着いた口調に変わった。胸に手を当て、宝物をお裾分けするように、丁寧に言葉を紡いでいく。
「昨年の東京コレクションで初めてフローズンレインを見た瞬間、震えました。ぼんやりとして定まらない、靄みたいに掴めない理想が、形になって現れてくれたみたいで。『こういうのが好き』っていう憧れが詰まってたんです」
彼女は自分で作ったシャツのボタンを、ぎゅっと握り締める。
「フローズンレインの服を着たモデルさん達が、ランウェイを切り開くように歩く姿にも感動しました。進路とか友人関係とか悩みも多かったんですけど、私もあんな風に胸を張って歩きたいって思えたんです。だから、私に勇気を与えて背中を押してくれた、魔法の服を着てみたい。もっと頑張れそうな気がするから」
そこまで一息に話した少女は、ハッとしたように「ごめんなさい」と口にした。
「意味わからないですよね、すみません。私、いつもこうなんです。勝手に熱くなってバーッと語って、友達に呆れられて『つまり、どういうこと?』って聞かれちゃう」
「え、全然わかるけど」
恐縮したように顔を伏せた少女に、氷雨はなぜ謝るのかと首を捻る。
「キミの感性は正しいと思うよ。だって、フローズンレインに携わる人はみんな、キミみたいな子に届けたくて頑張ってるんだから。『怖いけどあと一歩進みたい、苦しいけどあと一段登りたい、辛いけどもう一撃だけ耐えたい』そういう時に、少しでも支えてあげられたらいいなって願いを込めてる。だから、キミが魔法の服だって言ってくれるの、凄く嬉しい。……って、思うんじゃないかな。多分だけど」
第三者のような口ぶりで話していた氷雨が、「到着」と言って立ち止まる。見上げた目線の先には、フローズンレインの店舗があった。
少女は緊張と感動が織り交ざったような面持ちで、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「どうしよう。お店に入った瞬間、嬉しくて気絶しちゃうかもしれません。どの服も欲しくて選べないかも」
圧倒されて立ちすくむ少女に、久我が励ますように声をかける。
「大丈夫。落ち着いて、ゆっくり見ておいで。どの服にするか選びきれなかったら、スタッフに相談するといいよ。君にピッタリな服を、喜んで一緒に探してくれるから」
久我の言葉に、氷雨も深くうなずいた。
「それでも迷ったら、一期一会だと思って直感で決めちゃいな。あ、でもゆっくり見過ぎて、帰りが遅くならないようにね。ここから駅までの道はわかる? キャッチやなナンパも多いから、声を掛けられても立ち止まっちゃ駄目だよ」
女の子は元気よく「はい!」と返事をした後、大きく深呼吸をする。玲旺は彼女に感謝を伝えたくて、スマートフォンに『ありがとう』と打ち込んだ。その文字を見た少女は、キョトンとする。
「それは私の台詞ですよ。本当に、ありがとうございました!」
ぺこりと深く頭を下げて、少女は意気揚々と歩き出した。入口の手前で立ち止まり、笑顔で手を振ってから店内へと消えていく。
見えなくなった背中に向かって、玲旺はもう一度声に出して「ありがとう」と呟いた。
改めて聞かなくてもその意味は何となく理解できるが、久我は確認するように敢えて問いかけた。玲旺も同じような気持ちで少女に目を向ける。
今まで惜しげもなくフローズンレインを称えてくれた彼女が、次にどんな賛辞を呈してくれるのか非常に興味があった。
しかし、先ほどまでハイテンションで語ってくれていた少女は、一転して落ち着いた口調に変わった。胸に手を当て、宝物をお裾分けするように、丁寧に言葉を紡いでいく。
「昨年の東京コレクションで初めてフローズンレインを見た瞬間、震えました。ぼんやりとして定まらない、靄みたいに掴めない理想が、形になって現れてくれたみたいで。『こういうのが好き』っていう憧れが詰まってたんです」
彼女は自分で作ったシャツのボタンを、ぎゅっと握り締める。
「フローズンレインの服を着たモデルさん達が、ランウェイを切り開くように歩く姿にも感動しました。進路とか友人関係とか悩みも多かったんですけど、私もあんな風に胸を張って歩きたいって思えたんです。だから、私に勇気を与えて背中を押してくれた、魔法の服を着てみたい。もっと頑張れそうな気がするから」
そこまで一息に話した少女は、ハッとしたように「ごめんなさい」と口にした。
「意味わからないですよね、すみません。私、いつもこうなんです。勝手に熱くなってバーッと語って、友達に呆れられて『つまり、どういうこと?』って聞かれちゃう」
「え、全然わかるけど」
恐縮したように顔を伏せた少女に、氷雨はなぜ謝るのかと首を捻る。
「キミの感性は正しいと思うよ。だって、フローズンレインに携わる人はみんな、キミみたいな子に届けたくて頑張ってるんだから。『怖いけどあと一歩進みたい、苦しいけどあと一段登りたい、辛いけどもう一撃だけ耐えたい』そういう時に、少しでも支えてあげられたらいいなって願いを込めてる。だから、キミが魔法の服だって言ってくれるの、凄く嬉しい。……って、思うんじゃないかな。多分だけど」
第三者のような口ぶりで話していた氷雨が、「到着」と言って立ち止まる。見上げた目線の先には、フローズンレインの店舗があった。
少女は緊張と感動が織り交ざったような面持ちで、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「どうしよう。お店に入った瞬間、嬉しくて気絶しちゃうかもしれません。どの服も欲しくて選べないかも」
圧倒されて立ちすくむ少女に、久我が励ますように声をかける。
「大丈夫。落ち着いて、ゆっくり見ておいで。どの服にするか選びきれなかったら、スタッフに相談するといいよ。君にピッタリな服を、喜んで一緒に探してくれるから」
久我の言葉に、氷雨も深くうなずいた。
「それでも迷ったら、一期一会だと思って直感で決めちゃいな。あ、でもゆっくり見過ぎて、帰りが遅くならないようにね。ここから駅までの道はわかる? キャッチやなナンパも多いから、声を掛けられても立ち止まっちゃ駄目だよ」
女の子は元気よく「はい!」と返事をした後、大きく深呼吸をする。玲旺は彼女に感謝を伝えたくて、スマートフォンに『ありがとう』と打ち込んだ。その文字を見た少女は、キョトンとする。
「それは私の台詞ですよ。本当に、ありがとうございました!」
ぺこりと深く頭を下げて、少女は意気揚々と歩き出した。入口の手前で立ち止まり、笑顔で手を振ってから店内へと消えていく。
見えなくなった背中に向かって、玲旺はもう一度声に出して「ありがとう」と呟いた。
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