されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

誰が為に⑫

「俺たちに?」

 礼を言われるようなことをしたっけと、玲旺は記憶を辿った。ボイスレコーダーの内容を思い返すほど、原田の身勝手な言い分に氷雨が耐えられたのかどうかの方が気になってしまう。

「全部聞いて大丈夫だったの……?」 

 恐る恐る尋ねる玲旺に、氷雨は「うん」と静かに答える。その表情は晴れやかで、心の重荷から解放されたように感じられた。

「自分でも驚くほど大丈夫だった。それも、キミたちのおかげなんだけどね」

 青空から玲旺に視線を戻した氷雨が、穏やかに微笑む。

「原田の言葉は確かに酷かったけど、キミたちの反論に感動しちゃってさ。暴言も過去のトラウマも、どうでもよくなっちゃったんだ」
「あの時は夢中で、何を言ったかよく覚えてないや。でも、トラウマの克服に少しでも貢献できたなら良かった」
「『少し』どころじゃないわよ」

 氷雨がスマートフォンを取り出し、何か操作してから玲旺に手渡す。雑踏に紛れて音声は聞き取りにくいが、端末から流れてきたのは原田に反論している玲旺と久我の言葉だった。

――氷雨を食い潰すな。彼の積み上げてきた信頼を、横からかっさらってぶち壊すなんて許さない。
――血反吐を吐いて這いつくばって、最高の物を作ろうと向き合う苦労や努力を、天才の一言で片付けるな。

 要約すると、そんな事を言っていた。
 ああ、久我も自分もちゃんと原田に反撃できていて良かったと思いながら、聞き終えた玲旺は氷雨にスマートフォンを返す。それを大切そうに胸に抱き、氷雨はうっとりした表情を浮かべた。

「ごめんね。二人の台詞に心底痺れて、ここだけ抜粋してスマホに転送しちゃった。昨日から、暗唱できそうなくらい何度も聞いてるの。それくらい嬉しかった。昔、一方的に搾取されて何も抵抗できなかった僕たちの代わりに、二人が時を超えて言い返してくれたような気がしたんだ」

 僕たち。
 それは、永遠や快晴も含まれているのだろうか。

 以前ミーティングルームで『痛いだなんて死んでも言わないよ。一度弱音を吐いたら脆くなる』と、怒鳴るように氷雨は言い放った。その時にも感じたが、今、目の前でお守りのようにスマートフォンを抱きしめる氷雨を見て、彼の孤独を改めて知る。
 緑川や倉持のような理解者はいるが、彼らは他にも生徒やタレントなど守らねばならない存在を多く抱えているのだ。きっと手を煩わせたくなくて、今までどんな窮地に陥っても助けを求める事はしなかったのだろう。

「梅田くんの傷を癒すお手伝いが出来て、光栄だよ」
「キミたちにはいつも救われてるよ。……ありがとう。あと、八つ当たりしてごめんね」

 いつもより素直な氷雨は、珍しく申し訳なさそうな顔をした。久我はゆっくり首を横に振り、小さな子どもにするように、氷雨の頭をぐりぐりと撫でる。

「俺の方こそ悪かった。それに、俺も玲旺もお前を置いてどこにも行かないから、安心してほしい」

 氷雨は大人しく頭を撫でられながら、はにかんでうなずいた。

「うん。僕はキミたちを信じる。これからも期待に全力で応えるからね。それで、あのさ。ボイスレコーダーの音声、永遠にも聞かせていい?」
「もちろん」
「よかった。これで永遠もきっと救われる。ありがとう」

 撫でられてくしゃくしゃになった髪を手櫛で梳かしながら、氷雨が孤高のアーティストではなく、友人の顔で笑う。

「それじゃあ、僕はここで。これから行くところがあるの」
「俺たち車で来てるから、目的地まで送ろうか」
「ううん、ありがと。大丈夫よ」

 じゃあね、と軽やかに手を振って、氷雨は人混みの中に消えていった。
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