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◇第7章 One year later◇
二度目の冬①
目まぐるしく変化していく日々に必死に食らいついているうちに、季節は容赦なく移り変わっていく。
「そういえば、去年の大晦日はレオが急に泣きだしてビックリしたな。あれからもうすぐ一年か」
鍋をひと混ぜしてからコンロの火を止めた月島が、急にあははと声を上げて笑った。
定休日のカフェで、調理場が見えるカウンター席に座っていた玲旺は思い切り顔をしかめる。
「何でいきなり思い出したわけ? つーか、言うほど泣いてねぇし」
「んー。芽キャベツ見てたら、もうすぐクリスマスだなと思って。そしたら大晦日の記憶まで蘇ってきた。はい、お待たせ。今日は丸ごと芽キャベツ入りのポトフ」
玲旺の目の前に持ち手の付いたココット皿が置かれ、コンソメの良い香りが辺りにふわっと漂った。
「わ。この器、お洒落だな」
「熱いから気を付けて」
玲旺は昨年のあの日以来、カフェの定休日や閉店後に、こうして月島に料理を振舞われていた。遠慮なくものを言う玲旺は、どうやら試食役に向いているらしい。
「どう?」
「美味いよ。この前のより、今日の塩加減の方が好きだな。丸ごとの芽キャベツは見た目も良いね。色が綺麗」
「そっか、良かった。レオが持ってきたワイン開けようか。ってか、もっと安いワインでいいのに。こんな良いヤツ記念日にしか飲まないだろ、普通」
遅めのランチで気軽に開けるには、少々贅沢な銘柄に月島が慄く。
「そう? でも、俺が飲みたかったんだからいいじゃん別に」
「まぁ、ね。俺は便乗して飲めるから有難いけどさ。レオって何だか浮き世離れしてるよなぁ。卵かけご飯も知らなかったし」
月島は話しながらも、ワインのコルクを綺麗に引き抜く。
グラスに注がれる赤い液体を眺めていたら、カウンターに置いてあったスマホからメールの通知音が鳴った。手繰り寄せて開いたメールを読んで、玲旺は目を見張る。
「やった。氷雨さんが来週こっちに来てくれる! うわ、すっごい久しぶりだな」
「氷雨? 誰それ」
メールに夢中でワインに口をつけない玲旺をよそに、月島は独りで勝手に飲み始めていた。
「氷雨さんは友達。ん、待って、友達? いや、戦友だな」
「へぇ、戦友。いいな、そのポジション。羨ましい」
「何言ってんの。眞はとっくに戦友ポジションだよ?」
遅れてグラスを持ち上げた玲旺が、月島のグラスに「乾杯」と言いながら軽くぶつけて良い音を鳴らす。月島は深いため息を吐いたあと、オーバーに肩をすくめてみせた。
「レオって天然過ぎて怖い。人たらし? 学生時代とか人気者だったろ。友達多そうだよな」
「ははっ。俺が? まさか、その逆だよ。ずっと一人だった。嫌われ者演じてたから」
余程予想外だったのか、月島は口に運ぼうとしていたグラスを止めて玲旺を凝視する。
「嫌われ者を演じる? 何でそんな必要が」
「うん。ほら、最初から嫌われてたら楽じゃん。仲のいい奴に裏切られる心配もないし」
その一言で学生時代の玲旺の身に何があったのか、大体の察しを付けたようだった。月島は、厨房側からカウンターに身を乗り出す。
「言っておくけど、俺はお前を裏切らないからな。安心しろよ。で、嫌われ者をヤメたきっかけは?」
「あはは。眞はそんなことしないってわかってるよ。きっかけ? 話すと長くなるからまた今度ね」
玲旺はスマホを脇に置くと、ポトフに入っていた分厚いベーコンを見つけて嬉しそうに頬張った。はぐらかされて答えを得られず、不満そうな顔の月島は、玲旺のスマホに目を向ける。
「それってさ、久……。いや、やっぱやめた。何でもない」
「ん」
何を言いかけてやめたのか、玲旺はわかっていながら気づかないフリをした。
「そういえば、去年の大晦日はレオが急に泣きだしてビックリしたな。あれからもうすぐ一年か」
鍋をひと混ぜしてからコンロの火を止めた月島が、急にあははと声を上げて笑った。
定休日のカフェで、調理場が見えるカウンター席に座っていた玲旺は思い切り顔をしかめる。
「何でいきなり思い出したわけ? つーか、言うほど泣いてねぇし」
「んー。芽キャベツ見てたら、もうすぐクリスマスだなと思って。そしたら大晦日の記憶まで蘇ってきた。はい、お待たせ。今日は丸ごと芽キャベツ入りのポトフ」
玲旺の目の前に持ち手の付いたココット皿が置かれ、コンソメの良い香りが辺りにふわっと漂った。
「わ。この器、お洒落だな」
「熱いから気を付けて」
玲旺は昨年のあの日以来、カフェの定休日や閉店後に、こうして月島に料理を振舞われていた。遠慮なくものを言う玲旺は、どうやら試食役に向いているらしい。
「どう?」
「美味いよ。この前のより、今日の塩加減の方が好きだな。丸ごとの芽キャベツは見た目も良いね。色が綺麗」
「そっか、良かった。レオが持ってきたワイン開けようか。ってか、もっと安いワインでいいのに。こんな良いヤツ記念日にしか飲まないだろ、普通」
遅めのランチで気軽に開けるには、少々贅沢な銘柄に月島が慄く。
「そう? でも、俺が飲みたかったんだからいいじゃん別に」
「まぁ、ね。俺は便乗して飲めるから有難いけどさ。レオって何だか浮き世離れしてるよなぁ。卵かけご飯も知らなかったし」
月島は話しながらも、ワインのコルクを綺麗に引き抜く。
グラスに注がれる赤い液体を眺めていたら、カウンターに置いてあったスマホからメールの通知音が鳴った。手繰り寄せて開いたメールを読んで、玲旺は目を見張る。
「やった。氷雨さんが来週こっちに来てくれる! うわ、すっごい久しぶりだな」
「氷雨? 誰それ」
メールに夢中でワインに口をつけない玲旺をよそに、月島は独りで勝手に飲み始めていた。
「氷雨さんは友達。ん、待って、友達? いや、戦友だな」
「へぇ、戦友。いいな、そのポジション。羨ましい」
「何言ってんの。眞はとっくに戦友ポジションだよ?」
遅れてグラスを持ち上げた玲旺が、月島のグラスに「乾杯」と言いながら軽くぶつけて良い音を鳴らす。月島は深いため息を吐いたあと、オーバーに肩をすくめてみせた。
「レオって天然過ぎて怖い。人たらし? 学生時代とか人気者だったろ。友達多そうだよな」
「ははっ。俺が? まさか、その逆だよ。ずっと一人だった。嫌われ者演じてたから」
余程予想外だったのか、月島は口に運ぼうとしていたグラスを止めて玲旺を凝視する。
「嫌われ者を演じる? 何でそんな必要が」
「うん。ほら、最初から嫌われてたら楽じゃん。仲のいい奴に裏切られる心配もないし」
その一言で学生時代の玲旺の身に何があったのか、大体の察しを付けたようだった。月島は、厨房側からカウンターに身を乗り出す。
「言っておくけど、俺はお前を裏切らないからな。安心しろよ。で、嫌われ者をヤメたきっかけは?」
「あはは。眞はそんなことしないってわかってるよ。きっかけ? 話すと長くなるからまた今度ね」
玲旺はスマホを脇に置くと、ポトフに入っていた分厚いベーコンを見つけて嬉しそうに頬張った。はぐらかされて答えを得られず、不満そうな顔の月島は、玲旺のスマホに目を向ける。
「それってさ、久……。いや、やっぱやめた。何でもない」
「ん」
何を言いかけてやめたのか、玲旺はわかっていながら気づかないフリをした。
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