57 / 68
◇第7章 One year later◇
心の拠り所①
「まぁね。ふわふわしてたのは、キミのせいだけじゃないけど。あの子はキミが日本に戻った後、どうするんだろうね。ちょっと心配になっちゃう」
「……眞のこと?」
表情を曇らせた玲旺は、月島がいるはずのカウンター奥へ視線を向けた。ここから厨房の様子はよく見えないが、懸命に仕事をこなす月島を想像する。
「お姉さんと暮らしていて、学生時代はここで過ごして土地勘もある。そんなキミでも心細くて人恋しくなっちゃうのに、全く馴染みのない場所へ単身乗り込んだ彼の孤独はどれほどだろうね? 多分、キミが思ってる以上に、彼にとってキミは心の支えだと思うよ」
月島と初めて会話した時を思い出す。確かに月島は、久しぶりに日本語が聞けて嬉しかったと言っていた。もしかしたら月島の方も、玲旺が日本人である可能性を考え、話しかけるずっと前から気にかけていたのかもしれない。
「眞は……同志だよ。大事な戦友」
「そうね。大事な戦友なら、なおさら流されないようにね」
「うん」
テーブルの上に置いた手をいつの間にか握り締めていた。珈琲はすっかり冷めている。
「キミはきっと、来年の秋には日本に戻ると思うわ。心積もりはしておいて」
手のひらに深く残る爪痕を見つめていた玲旺が、顔を上げて氷雨と視線を合わせた。区切りが見えた喜びと、それまでにもっと成長しなければと言う焦りが混ざり合って、玲旺の体を駆け巡る。
氷雨はゆったりした動作で手を伸ばし、玲旺の額を中指でピンと弾いた。
「痛って! 何すんだよ」
「なんつー顔してんのよ。焦る気持ちもわかるけど、出来る事を少しずつ増やしなさいね」
ヒリヒリする額をさすりながら、玲旺は頷く。
「うん、わかってる。足を引っ張るのだけは嫌だから」
「期待してるよ」
容赦ないなと思いつつ、気合を入れられたようで少しだけ体が軽くなる。
その後は互いの近況や他愛のない話で盛り上がり、冷めた珈琲ですら美味しいと感じた。
「あー名残惜しい。まだまだ話し足りないわ。でも、もう行かなくちゃ」
腕時計に視線を落とした氷雨が、残念そうにため息を吐く。
「国際列車でパリに移動するんでしょ? 発着駅まで送るよ」
「発着駅じゃなくて、地下鉄の駅までで大丈夫。あんまり一緒にいると、キミを連れて行きたくなっちゃうから」
外に出ると本格的に日が暮れていて、豪華なイルミネーションに目を奪われた。
「氷雨さん。今日はありがとう。俺、色々ヤバかったからさ。今日はホント救われた」
氷雨は白い息を吐きながら、声を上げて笑う。
「仕方ないよ、キミは魅力的だからね。ヤバかったって自覚しただけ偉いと思うわ」
やがて地下鉄の駅に到着し、改札の前で氷雨は玲旺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「じゃあまたね。大丈夫、自信もって。キミはちゃんと成長してるよ」
「氷雨さんと並んでも遜色ないように、これからも本気で頑張るよ。……氷雨さんも俺の大事な戦友だからね」
「キミは本当に煽るのが上手いなぁ。そんなこと言われたら、僕だってもっと頑張ろうって思っちゃうじゃない?」
じゃあねと立ち去る氷雨の背中を、見えなくなるまで眺めていた。もう少し話したかったなとか、また会いたいなとか、楽しかった記憶で体がいっぱいになる。
月島もこんな気持でいつも見送っているのかもしれないと思った時、コートのポケットでメールの通知音が鳴った。
差出人は月島だ。
『今年もうちの店でやるカウントダウンパーティー来るの?』
わざわざ今日このタイミングで確認しなくても良い内容のメールに、玲旺は胸を締め付けられながら「行くよ」と返信した。
月島の短い文面の中に、不安のようなものを感じ取ってしまう。
友人として、心の拠り所にされるのは全く構わない。むしろ頼ってくれとさえ思う。でもその先は応えられない。
『じゃあ、そん時会えるな。またね』
すぐに返ってきたメールを見て、スマホを再びポケットにしまった。
「……眞のこと?」
表情を曇らせた玲旺は、月島がいるはずのカウンター奥へ視線を向けた。ここから厨房の様子はよく見えないが、懸命に仕事をこなす月島を想像する。
「お姉さんと暮らしていて、学生時代はここで過ごして土地勘もある。そんなキミでも心細くて人恋しくなっちゃうのに、全く馴染みのない場所へ単身乗り込んだ彼の孤独はどれほどだろうね? 多分、キミが思ってる以上に、彼にとってキミは心の支えだと思うよ」
月島と初めて会話した時を思い出す。確かに月島は、久しぶりに日本語が聞けて嬉しかったと言っていた。もしかしたら月島の方も、玲旺が日本人である可能性を考え、話しかけるずっと前から気にかけていたのかもしれない。
「眞は……同志だよ。大事な戦友」
「そうね。大事な戦友なら、なおさら流されないようにね」
「うん」
テーブルの上に置いた手をいつの間にか握り締めていた。珈琲はすっかり冷めている。
「キミはきっと、来年の秋には日本に戻ると思うわ。心積もりはしておいて」
手のひらに深く残る爪痕を見つめていた玲旺が、顔を上げて氷雨と視線を合わせた。区切りが見えた喜びと、それまでにもっと成長しなければと言う焦りが混ざり合って、玲旺の体を駆け巡る。
氷雨はゆったりした動作で手を伸ばし、玲旺の額を中指でピンと弾いた。
「痛って! 何すんだよ」
「なんつー顔してんのよ。焦る気持ちもわかるけど、出来る事を少しずつ増やしなさいね」
ヒリヒリする額をさすりながら、玲旺は頷く。
「うん、わかってる。足を引っ張るのだけは嫌だから」
「期待してるよ」
容赦ないなと思いつつ、気合を入れられたようで少しだけ体が軽くなる。
その後は互いの近況や他愛のない話で盛り上がり、冷めた珈琲ですら美味しいと感じた。
「あー名残惜しい。まだまだ話し足りないわ。でも、もう行かなくちゃ」
腕時計に視線を落とした氷雨が、残念そうにため息を吐く。
「国際列車でパリに移動するんでしょ? 発着駅まで送るよ」
「発着駅じゃなくて、地下鉄の駅までで大丈夫。あんまり一緒にいると、キミを連れて行きたくなっちゃうから」
外に出ると本格的に日が暮れていて、豪華なイルミネーションに目を奪われた。
「氷雨さん。今日はありがとう。俺、色々ヤバかったからさ。今日はホント救われた」
氷雨は白い息を吐きながら、声を上げて笑う。
「仕方ないよ、キミは魅力的だからね。ヤバかったって自覚しただけ偉いと思うわ」
やがて地下鉄の駅に到着し、改札の前で氷雨は玲旺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「じゃあまたね。大丈夫、自信もって。キミはちゃんと成長してるよ」
「氷雨さんと並んでも遜色ないように、これからも本気で頑張るよ。……氷雨さんも俺の大事な戦友だからね」
「キミは本当に煽るのが上手いなぁ。そんなこと言われたら、僕だってもっと頑張ろうって思っちゃうじゃない?」
じゃあねと立ち去る氷雨の背中を、見えなくなるまで眺めていた。もう少し話したかったなとか、また会いたいなとか、楽しかった記憶で体がいっぱいになる。
月島もこんな気持でいつも見送っているのかもしれないと思った時、コートのポケットでメールの通知音が鳴った。
差出人は月島だ。
『今年もうちの店でやるカウントダウンパーティー来るの?』
わざわざ今日このタイミングで確認しなくても良い内容のメールに、玲旺は胸を締め付けられながら「行くよ」と返信した。
月島の短い文面の中に、不安のようなものを感じ取ってしまう。
友人として、心の拠り所にされるのは全く構わない。むしろ頼ってくれとさえ思う。でもその先は応えられない。
『じゃあ、そん時会えるな。またね』
すぐに返ってきたメールを見て、スマホを再びポケットにしまった。
あなたにおすすめの小説
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
百戦錬磨は好きすぎて押せない
紗々
BL
なんと!HOTランキングに載せていただいておりました!!(12/18現在23位)ありがとうございます~!!*******超大手企業で働くエリート営業マンの相良響(28)。ある取引先の会社との食事会で出会った、自分の好みドンピシャの可愛い男の子(22)に心を奪われる。上手いこといつものように落として可愛がってやろうと思っていたのに…………序盤で大失態をしてしまい、相手に怯えられ、嫌われる寸前に。どうにか謝りまくって友人関係を続けることには成功するものの、それ以来ビビり倒して全然押せなくなってしまった……!*******百戦錬磨の超イケメンモテ男が純粋で鈍感な男の子にメロメロになって翻弄され悶えまくる話が書きたくて書きました。いろんな胸キュンシーンを詰め込んでいく……つもりではありますが、ラブラブになるまでにはちょっと時間がかかります。※80000字ぐらいの予定でとりあえず短編としていましたが、後日談を含めると100000字超えそうなので長編に変更いたします。すみません。
溺愛じゃおさまらない
すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。
どろどろに愛されているけれど―――。
〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳
〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳