魔王の子育て日記

教祖

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魔王と侵入者

出会い魔王

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 鼻を抜ける薬品の匂い。
 いつもは長居を避けるこの匂いも、今は安堵さえ感じる。
 ようやく目が慣れ、いつものベッドが眼に映る。
 「帰ってきたな。今の時間は――――」
 「いつものお茶の時間でしょう。魔王様の部屋に集まっているはずです。行きましょう」
 「先に行っててくれ。コイツを隠してすぐに行く」
 魔王は門へと向き直り、唇をひと舐め。
 「分かりました。もしもの時は身の安全を第一にしてください。私が時間を稼ぎます」
 「わかってるよ」
 返事を聞き終えたと同時、パインは医務室を出た。
 目指すは魔王の部屋。
 すぐに左折し扉を二つ過ぎると、左手に見える中央階段を駆け上がる。
 踊り場を一つ経由して3階へ。
 階段を登りきって右折、廊下を駆け抜け突き当りの扉の前で脚を止める。
 華美な装飾はないが、精緻に掘りあげられた百合の花が重厚感を与えている。
 ――――この先にいる
 確証はなくとも、自身の勘が告げていた。
 拳を固める。握るのではない。
 関節、指、皺の一本までも、妥協は許さない。
 あるべき場所に収めることで、手中にを無くし、ひとつにする。
 師の教えは、意識などなくとも身体が動く程に染み付いていた。
 「っ!」
 焦りはあるが、躊躇は無かった。
 鋭く息を吐き、扉を殴りつける。
 開けた瞬間戦闘になろうとも、間を開けずに飛び込んで行けるように、体勢は崩したくなかった。
 留め具が弾け、扉が開かれる。
 敵がいるなら、扉の正面。
 
 「大丈夫ですか!?」
 目線の先には

 
 ハリルがいた。
 「メイド長!」
 
 横長の机を一瞬で回り込み、パインの手をとる。
 「何かされたんですか? いったい誰が!?」
 「本当に帰ってきてくれてありがとうございます!」
 「人間はどこです?」
 部屋を見回す。 
 いつもの風景。ティーカップが湯気を立て、皆が席に着いている。
 カップが――――多い?
 わずかに目線を降ろすと、見慣れない風貌が2人、こちらを見て震えていた。
 「これは……」
 
 
 「思わぬ訪問者ですな」
 眉を上下させ態とらしく爺が言った。
 後にパインはこの件について、
 「魔族史上初の得意顔が死因の者を生み出してしまうところでした」
 と話している。
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