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魔王と侵入者
出会い魔王 その2
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「さて、この状況を説明していただけますか?」
「……はい」
ひとしきり絞った後、パインは爺を問いただした。
御歳70を迎える背中は年相応に小さくなっていた。
もはやカップに湯気はない。
「大丈夫か!?」
どこか既視感を覚える言葉の主は魔王。
パインと同じくドアを破壊する気だったのか、やけに風通しが良くなった扉の枠を二度見しながらの呼びかけだった。
「おかえりなさいませ。魔王様」
「人間はどこだ?」
「こちらに」
小刻みに震える五指をどうにか揃えて2人を指した。
「こいつらが門を?」
「そのようですな」
「そもそもなんで爺がこいつらが門を通ってこっちに来たのを知ってるんだ?」
「それはですな――――」
「爺」
「はいっ」
魔王が帰ってきたことで、回復の兆しが見えたかに思えた爺の背丈が、たった二文字の重みで再び小さくなってしまった。
「皆で共有しなければ意味がないでしょう。あと、そのしたり顔でこれから話を進めるようなら、どうなるかお分かりですよね?」
「十二分に存じ上げております」
平伏とはこういう姿を言うのだろう。上体を伏せ床と並行にすることで腰を完全な直角にした爺の姿を目の当たりにし、魔王はこの世の心理を一つ学んだのだった。
メイド達は静かにうなづいた。
「少し見ない間に老けたな爺」
「刹那にして悠久の時を経ました故」
「哀愁すら感じるよ」
「哀れんでくださるのなら、まだ救いがあるというものです。ではこちらで起きた出来事をお話しします」
人間界から帰ってきた2人を椅子へと促し、全員が席へ着いた。
雨ですっかり重くなったローブ一式を脱ぎ去り、魔王は執務服、パインはメイド服を身に纏い、2人はようやく一息ついた。
横長の机の短い辺の左右にに爺と魔王。
入り口を背に左からヴィエル、セリア、聖護、源太。
奥側、向かい合う形で左からハリル、バンゼイン、コリユス、パインの順。
ティーカップの中を入れ替え、爺の話を通じ、2人の発見から今までの一連の騒動を共有する。
その間話の中心となっている本人達は話をされていることは自覚しながらも、内容など分かるわけもなく、それが疑心暗鬼を加速させるのだった。
「なるほどねえ」
ひと通りの話を聞き、描き起こされた絵を眺めながらティーカップを置いた。
「私達が門まで戻ってきた時には術は解かれていました。つまり別の人間がやったか、或いは――――」
パインの堂々巡り再び。
あーでもないこーでもないと終わらない無限ループ。
こうなってはどうしようもない。
パインがイレギュラーに弱いことは、城内では周知の事項だ。
だが、事実誰も憶測すら立てられないでいた。
状況が特殊すぎるのだ。
「なあパイン、幻術の解除の言葉ってなんだっけ?」
ふと、何か思い出したかのような魔王の投げかけに
「アペィヤーです。正確にはモノの姿を現わす時の言葉ですが」
「そうか。確かに文字に起こすのも難しい発音だな」
「それはそうでしょう。万が一がありますから」
「まあでも、発音出来ない訳じゃないな。パイン、こいつらに聞いてくれ。門の幻術はお前達が剥いだのかって」
「……はい」
ひとしきり絞った後、パインは爺を問いただした。
御歳70を迎える背中は年相応に小さくなっていた。
もはやカップに湯気はない。
「大丈夫か!?」
どこか既視感を覚える言葉の主は魔王。
パインと同じくドアを破壊する気だったのか、やけに風通しが良くなった扉の枠を二度見しながらの呼びかけだった。
「おかえりなさいませ。魔王様」
「人間はどこだ?」
「こちらに」
小刻みに震える五指をどうにか揃えて2人を指した。
「こいつらが門を?」
「そのようですな」
「そもそもなんで爺がこいつらが門を通ってこっちに来たのを知ってるんだ?」
「それはですな――――」
「爺」
「はいっ」
魔王が帰ってきたことで、回復の兆しが見えたかに思えた爺の背丈が、たった二文字の重みで再び小さくなってしまった。
「皆で共有しなければ意味がないでしょう。あと、そのしたり顔でこれから話を進めるようなら、どうなるかお分かりですよね?」
「十二分に存じ上げております」
平伏とはこういう姿を言うのだろう。上体を伏せ床と並行にすることで腰を完全な直角にした爺の姿を目の当たりにし、魔王はこの世の心理を一つ学んだのだった。
メイド達は静かにうなづいた。
「少し見ない間に老けたな爺」
「刹那にして悠久の時を経ました故」
「哀愁すら感じるよ」
「哀れんでくださるのなら、まだ救いがあるというものです。ではこちらで起きた出来事をお話しします」
人間界から帰ってきた2人を椅子へと促し、全員が席へ着いた。
雨ですっかり重くなったローブ一式を脱ぎ去り、魔王は執務服、パインはメイド服を身に纏い、2人はようやく一息ついた。
横長の机の短い辺の左右にに爺と魔王。
入り口を背に左からヴィエル、セリア、聖護、源太。
奥側、向かい合う形で左からハリル、バンゼイン、コリユス、パインの順。
ティーカップの中を入れ替え、爺の話を通じ、2人の発見から今までの一連の騒動を共有する。
その間話の中心となっている本人達は話をされていることは自覚しながらも、内容など分かるわけもなく、それが疑心暗鬼を加速させるのだった。
「なるほどねえ」
ひと通りの話を聞き、描き起こされた絵を眺めながらティーカップを置いた。
「私達が門まで戻ってきた時には術は解かれていました。つまり別の人間がやったか、或いは――――」
パインの堂々巡り再び。
あーでもないこーでもないと終わらない無限ループ。
こうなってはどうしようもない。
パインがイレギュラーに弱いことは、城内では周知の事項だ。
だが、事実誰も憶測すら立てられないでいた。
状況が特殊すぎるのだ。
「なあパイン、幻術の解除の言葉ってなんだっけ?」
ふと、何か思い出したかのような魔王の投げかけに
「アペィヤーです。正確にはモノの姿を現わす時の言葉ですが」
「そうか。確かに文字に起こすのも難しい発音だな」
「それはそうでしょう。万が一がありますから」
「まあでも、発音出来ない訳じゃないな。パイン、こいつらに聞いてくれ。門の幻術はお前達が剥いだのかって」
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