魔王の子育て日記

教祖

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波乱の幕開け

待ち人 その3

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 男たちが招かれたのは、街の中心に建つ迎賓館。
 名の通り、賓客を迎え入れる為に設備の整えられた施設である。 
  民家とも街の露店とも違う、明らかに見たものを楽しませるための意匠が施されている。
 瓦屋根は大きく張り出し、鎖樋までついている。
 使われている木材も鈍く黒光りし、落ち着きと高級感がある。
 周りは塀に囲まれ、よく整えられた庭の草木が顔をのぞかせていた。
 一行は開け放たれた門と玄関の戸を抜け、中へと入る。
 村正たちが靴箱に靴をしまい込むと男たちはそれに倣った。
 前の者が靴を脱ぎ奥に進めば、次の者が靴ひもに手を掛ける。
 連鎖していく動きが、まるで同一人物が同じ動きを繰り返しているような錯覚に陥らせる。
 そんな不思議な光景も最後尾の兵士が靴を収めると共に終わる。
 我に返った村正たちは、男たちを連れ大広間へと向かった。
 玄関からまっすぐ進んだ突き当り。襖を開けば、50畳はあろうかという大広間が広がっていた。
 一面畳張りの広間には、向かい合う形で座布団が並べられている。
 その前には膳が置かれ、ガラスの湯呑に入った冷茶と茶菓子が涼しげに並んでいた。
 その傍らに控える人物が二人。
 肩にかかる流れるような黒髪を持つ女性と大広間の中でさえも存在感を放つ巨躯と鋭い眼光を持つ男性。
 女性は全身を白、男性は黒の衣服で身を包んでいる。紛れもなくこの地域に伝わる伝統礼装である。
 女性は腰回りがくびれ、全身の輪郭が出やすく、男性は肩から足に掛けて余裕をもって布がとられており、輪郭がわかりにくい作りになっている。
 そんな二人は村正たちの到着を確認し、出迎えに駆け寄ってくる。
 「そなた達が支度をしてくれたのか。わざわざすまない」
 「いえ、暑い中お越しいただきありがとうございます、武神様」
 「お目にかかり大変嬉しゅうございます。一生の幸せでございます」
 「ああ……」
 さすがの男も、控えていた男の威圧感には驚きの声が漏れた。
 また女性的な動きと相まって、兵士たちには小さなどよめきが起きていた。
 「皆さま、まずは体を軽くされ、一息ついてください」
 「お言葉に甘えよう」
 村正に促され、男は兵士たちに呼びかけた。
 ――――武装解除。村長たちの厚意に感謝し、膳を頂戴する。はじめ!
 兵士たちは呼びかけに従い、武装を解き身を軽くすると、各々村長たちに頭を下げ座布団の後ろに立つ。
 全員が位置に就いたのを確認すると、男も自身の武装を解き、最奥の上座の座布団に腰を下ろす。
 それを皮切りに男に近い兵士から波紋が広がるように腰を下ろしていく。
 どれ程の訓練を積めばこれほどまでの統率の取れた集団になり得るのだろうか――――
 村正は旋律にも近い感情を覚えながら、自分も男の正面の座布団に腰を据えた。
 他2人の村長も腰を下ろし、ようやく準備が整った。
 「粗茶ですが、お召し上がりください。茶は余分に用意がございますので」
 「恐れ入る。頂戴しよう」
 男が茶に口を付ける。無骨ながら気品を感じる所作で一息つくと、大きく頷いた。
 兵士たちはそれを見て安堵の表情を浮かべるとようやく口を付け始めた。
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