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波乱の幕開け
待ち人 その5
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「お主は」
「お目汚しをするご無礼をお許しください。私は佐伯 総雲と申します」
「総雲……。ふじみの一番頭か! どおりでその身体。今も在軍なのか」
朱雀は総雲の名を聞いた矢先、旧友との再会を果たした青年のような表情を見せた
「退軍からもう10年になります」
「そうか。先の大戦の折、お主らの活躍はこちらまで届いていた」
「そのお言葉を頂けただけで、皆報われます」
「して、なぜお主がここに」
「はい、この度の進軍に私も同行させていただきたく存じます」
「ほう。構わんが此度の一件に何か確執でもあるのか」
「はい、正確には私の過去の清算とでも申しましょうか。この体なら、肉壁にはなれるかと」
「そのようなことを言うな。なんにせよ心強い申し出だ。是非願いたい」
「ありがとうございます」
「まあ、うちの兵士たちもそれなりに鍛えてある。お主に危険が及ぶようなことは、まずないと思うが」
朱雀は湯呑を手に取る。
朱雀の言葉には、誇張も驕りも感じない。ただあるがままの事実を伝えているのだと、村正は思った。
しかし、
「そのお話ですが、以前のお伝えと少々様相が異なっておりまして」
「どういうことだ」
先の話を聞いては、武神といえども揺らぐだろう。
「今回の一件、首謀者が魔族の中でも上層者、それも相当な階級の者ではないかと思われます」
「なに」
持たれたはずの湯呑は口元へ届くことはなく、朱雀の手によって膳へ戻された。
声音は変わらないが、今までにない明らかな動揺が見て取れる。
朱雀の反応に村正は静かに高揚を感じた。
「総雲、頼む」
「はい――――」
村正に促され、総雲は先日自分の店に現れた異常な力を持つ男の話を始めた。
女を連れ、粉ミルクを買いに来た男。
こちらの言語外の国から来たようで直接会話することはなかったが、荷揚げの瞬間確かに魔の気を感じた。
それも大戦で目に焼き付けた、圧倒的な力。
それがなぜ、この片田舎で粉ミルクなど探しているのか。
いくつも疑問は残るが、確かな力であった――――と、佐伯は朱雀に自分が持つ情報の全てを告げた。
朱雀本人は微動だにせず、周りの時間だけが止まっているような錯覚を覚えた。
「そうか」
沈黙を破ったのは、抑揚のない朱雀の声だった。
「それほどの手練れを臣下に持つ者ともなれば、その考えも当然か」
「左様でございます」
「この機に、それも粉乳を求めて魔族がこの地へやってきたというのは、偶然にしては出来すぎだ」
「はい。それと――――」
「話の途中ですまないが、外に間者が潜んでいるようだ」
そう言いながら朱雀は立ち上がり、おもむろに村正と佐伯の背後の壁の前に立った。
壁の上部には換気戸が設けられており、そこへ向かって跳躍する。
軽々と自身の身長以上に飛び上がると、戸前の段差に左手を掛けぶら下がり、空いた右手で戸を開く。
そのまま流れるように体を滑り込ませ、外へ出た。
村正達が息を呑む刹那、朱雀は広間を後にし、兵士たちも軽装のまま外へ飛び出していった。
「お目汚しをするご無礼をお許しください。私は佐伯 総雲と申します」
「総雲……。ふじみの一番頭か! どおりでその身体。今も在軍なのか」
朱雀は総雲の名を聞いた矢先、旧友との再会を果たした青年のような表情を見せた
「退軍からもう10年になります」
「そうか。先の大戦の折、お主らの活躍はこちらまで届いていた」
「そのお言葉を頂けただけで、皆報われます」
「して、なぜお主がここに」
「はい、この度の進軍に私も同行させていただきたく存じます」
「ほう。構わんが此度の一件に何か確執でもあるのか」
「はい、正確には私の過去の清算とでも申しましょうか。この体なら、肉壁にはなれるかと」
「そのようなことを言うな。なんにせよ心強い申し出だ。是非願いたい」
「ありがとうございます」
「まあ、うちの兵士たちもそれなりに鍛えてある。お主に危険が及ぶようなことは、まずないと思うが」
朱雀は湯呑を手に取る。
朱雀の言葉には、誇張も驕りも感じない。ただあるがままの事実を伝えているのだと、村正は思った。
しかし、
「そのお話ですが、以前のお伝えと少々様相が異なっておりまして」
「どういうことだ」
先の話を聞いては、武神といえども揺らぐだろう。
「今回の一件、首謀者が魔族の中でも上層者、それも相当な階級の者ではないかと思われます」
「なに」
持たれたはずの湯呑は口元へ届くことはなく、朱雀の手によって膳へ戻された。
声音は変わらないが、今までにない明らかな動揺が見て取れる。
朱雀の反応に村正は静かに高揚を感じた。
「総雲、頼む」
「はい――――」
村正に促され、総雲は先日自分の店に現れた異常な力を持つ男の話を始めた。
女を連れ、粉ミルクを買いに来た男。
こちらの言語外の国から来たようで直接会話することはなかったが、荷揚げの瞬間確かに魔の気を感じた。
それも大戦で目に焼き付けた、圧倒的な力。
それがなぜ、この片田舎で粉ミルクなど探しているのか。
いくつも疑問は残るが、確かな力であった――――と、佐伯は朱雀に自分が持つ情報の全てを告げた。
朱雀本人は微動だにせず、周りの時間だけが止まっているような錯覚を覚えた。
「そうか」
沈黙を破ったのは、抑揚のない朱雀の声だった。
「それほどの手練れを臣下に持つ者ともなれば、その考えも当然か」
「左様でございます」
「この機に、それも粉乳を求めて魔族がこの地へやってきたというのは、偶然にしては出来すぎだ」
「はい。それと――――」
「話の途中ですまないが、外に間者が潜んでいるようだ」
そう言いながら朱雀は立ち上がり、おもむろに村正と佐伯の背後の壁の前に立った。
壁の上部には換気戸が設けられており、そこへ向かって跳躍する。
軽々と自身の身長以上に飛び上がると、戸前の段差に左手を掛けぶら下がり、空いた右手で戸を開く。
そのまま流れるように体を滑り込ませ、外へ出た。
村正達が息を呑む刹那、朱雀は広間を後にし、兵士たちも軽装のまま外へ飛び出していった。
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