道化師の矜持

教祖

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第1幕

introduction 2

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 ピエロは今日も張り付いたエガオを衆目に晒す。
 エガオとは便利なものだ。基本はどの場面にも対応する上に、例外的な場面においても、背景――――バックボーンがあることで、努めてエガオを作る健気なイメージを付けることができる。
 エガオは万能と言っていいのではないか。それが笑平ピエロの考えだった。
 ――――10分前までは。
 
 「ねえ、里見」
 放課後の教室には偶然にも笑平と菅野栞の二人だけだった。
 学校内で苗字で呼ばれることなど、関わりの薄い教師陣を除いては無いと思っていた笑平の耳に届いた声音は同世代のもの。必然的にそれは菅野からの呼びかけであった。
 「……これはこれは菅野さん。私めに何か御用でしょうか」
 驚いたのも一瞬。仮面を纏い即応する。恭しく胸に手を当てさながら執事のようにお辞儀する。
 
 「そんなに自分作って楽しい?」

 菅野の声はやけに平坦だった。
 「――――!?」
 笑平の体が硬直する。
 語気が強かったわけでも、糾弾の声を投げられたわけでもない。ただの問いかけだ。なのになぜ菅野のつま先から視線を上げることがこんなにも難しいのか。
 意を決して目線を上げる。思いのほか勢いよく頭は元の位置へ戻った。なのになぜ――――

 「楽しいに決まってるじゃないですか! 私は楽しい事しかできない病気なんです。この世の全てを楽しんで見せますよ」

 ――――目を合わせたのは菅野ではなく、彼女の背後の掲示ポスターのピエロだったのだろうか。
 取り繕うように芝居がかった手振りで四角くなった空を仰ぐ。昼間の晴天の青に茜色が混じり始めている。
 静寂の青をゆっくりと染めていく茜。それは笑平の焦燥感を掻き立てる。
 
 「そっか」

 静寂を破った菅野の言葉には感情があった。紛れもない諦め。呆れ。
 いや、どこか納得していたようにも思う。それが何に対してのものか知る術を笑平は持っていない。
 「そうですとも。あれですかな? 私が頑張ってこのキャラを演じているのではないかと案じていただいたのですかな。心配ご無用! 私は強い子――――」
 「それは無いから大丈夫。時間取らせてごめん。じゃ」
 笑平の言葉を切って菅野は教室を後にした。再び教室は静寂に包まれ、笑平はその中に取り残される。
 なんの時間だったのか。意図はなんだったのか。彼女が冷やかしで話しかけてくるとは到底思えないので意味があったのだろうが、考えても当人以外にその心中は分かるはずもない。
 狐に化かされた気分で笑平も教室を後にした。
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