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第1幕
Introduction
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「んー、10分余ったな」
新海高校国語教諭、吉崎新次郎は、自分の後方頭上にある掛け時計には目もくれず、左手首と笑平に目線を往復させる。
その仕草を待ち望んでいた29名の視線が、笑平の元へと集まる。
どれどれ今日は何をしてやろうか――
笑平もそれはとうに予想しており、頭にあるのはきっかけをどう作るか、その一点。
自分から言ってもいいができるなら――
笑平は新垣悟へニタリと笑ってみせた。
悟は空気の読める男。
「あれ、笑平くん? なんかやりたそうな顔してるね」
案の定盛り上げながらも自然に、笑平へバトンを渡してみせた。
悟を足場にして、ちらほらと煽りが飛び始める。
「バレちゃあ仕方ないっすね! みんな大好き先生モノマネシリーズの新作行ってみましょうかね!」
「やりたいなら仕方ない、ちょっとだけだぞ?」
教師の許しという免罪符を手に入れた教室内は道化師の誕生に沸いた。
ほかならぬ、許しを出した張本人が一番見たがっていることは言うまでもない。
「それじゃ失礼します」
道化師は歓声を制し、道化を演じた。
道化師という生き物は人を見る。
玉に乗っていようが、剣を放っていようが、客の顔色をうかがう任を担うのだ。
それは本職に限ったことではなく、人前に立ち感情を動かすことを生業とするものは全てだ。
笑平も例外ではない。
おどけながらも、空気が淀んでいないか、冷めた空気が流れてはいないか、常に気を配る。
すべての人間が満場一致で爆笑する空間など存在しない。だからこそ、平均的に、仮に微笑でも全員が浮かべたのなら、それは道化師の力量なのだ。
自己評価ではあるが、笑平は自分にはその力量があるのだと思っていた。このクラス、2年2組に来るまでは。
教壇に立つとよく見える。
向かって正面、席並び横五列の中央列最後方席、本に目を落とす31人目のクラスメイトの姿が。
彼女は笑平が教壇へと歩みを進めるべく起立したと同時、何か動物のようなものが刺繍されているであろう布製ブックカバーに包まれた厚めの文庫本を流れるように取り出すと、目を落とした。
それこそ、笑平が教壇から見る彼女、菅野栞のいつもの光景である。
新海高校国語教諭、吉崎新次郎は、自分の後方頭上にある掛け時計には目もくれず、左手首と笑平に目線を往復させる。
その仕草を待ち望んでいた29名の視線が、笑平の元へと集まる。
どれどれ今日は何をしてやろうか――
笑平もそれはとうに予想しており、頭にあるのはきっかけをどう作るか、その一点。
自分から言ってもいいができるなら――
笑平は新垣悟へニタリと笑ってみせた。
悟は空気の読める男。
「あれ、笑平くん? なんかやりたそうな顔してるね」
案の定盛り上げながらも自然に、笑平へバトンを渡してみせた。
悟を足場にして、ちらほらと煽りが飛び始める。
「バレちゃあ仕方ないっすね! みんな大好き先生モノマネシリーズの新作行ってみましょうかね!」
「やりたいなら仕方ない、ちょっとだけだぞ?」
教師の許しという免罪符を手に入れた教室内は道化師の誕生に沸いた。
ほかならぬ、許しを出した張本人が一番見たがっていることは言うまでもない。
「それじゃ失礼します」
道化師は歓声を制し、道化を演じた。
道化師という生き物は人を見る。
玉に乗っていようが、剣を放っていようが、客の顔色をうかがう任を担うのだ。
それは本職に限ったことではなく、人前に立ち感情を動かすことを生業とするものは全てだ。
笑平も例外ではない。
おどけながらも、空気が淀んでいないか、冷めた空気が流れてはいないか、常に気を配る。
すべての人間が満場一致で爆笑する空間など存在しない。だからこそ、平均的に、仮に微笑でも全員が浮かべたのなら、それは道化師の力量なのだ。
自己評価ではあるが、笑平は自分にはその力量があるのだと思っていた。このクラス、2年2組に来るまでは。
教壇に立つとよく見える。
向かって正面、席並び横五列の中央列最後方席、本に目を落とす31人目のクラスメイトの姿が。
彼女は笑平が教壇へと歩みを進めるべく起立したと同時、何か動物のようなものが刺繍されているであろう布製ブックカバーに包まれた厚めの文庫本を流れるように取り出すと、目を落とした。
それこそ、笑平が教壇から見る彼女、菅野栞のいつもの光景である。
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