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第8話 会社というもの
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そのころ、株式会社・浦島機器製造の大きな会議室には、それぞれの管理者が集まっていた。
豪腕社長と言われている慶次社長が、社長を退き、それに変わる新社長を選出するという大事な会議であり、集まっていた人たちは緊張していた。
しかし、慶次が豪腕で遣り手の社長だっただけに、彼にすぐに代われる存在の人物が見当たらないのが事実だった。
それを狙う実力者が居ないわけでは無いが、それでも飛び抜けてこうだという人物はいない。強いて言えば、慶次の娘婿の人物がその候補の一人には挙がってはいるものの、何かとプライベートで良からぬ噂もあり、いまいちそれを心配する役員も少なくない。
以前には、社長の慶次は業務の幅を拡大する為に、小さな会社でもその価値を認めると、その経営者と接触し巧みに資本提携や、グループへの参加を促した。
そして、その会社が持つ株や特許を買い上げ、やがてその会社の大株主となり、最終的には吸収して傘下にさせるのを定石としていた。
その後、自社の自分の子飼いである息の掛かった役員を送りつけ、その子会社の社長にさせることなど余念が無かった。
その範囲は医療機器や、工業向け特殊機器であったり、航空機に搭載する機器の保守点検、機器製造と販売であったりと、その範囲は多岐たきにわたっていた。
慶次にはそういう野心的で経営的な勘の鋭さがあり、それが会社を大きくした要因である。また、そういう手法では同業種や敵対する会社からは忌み嫌われる存在でもある。
弱みにつけ込み、これはと思った会社に巧みに取り込み、吸収や合併をしたが、それが少し強引なやり方だと非難されることも少なくない。
そんな慶次のことを「産業界の裏の吸収合併屋」とも言われているらしい。
そんな慶次が社長を退き、会長になるということでほっとしている役員も少なくない。彼の後に誰が次の社長になるのか、みな平静を装いながらも固唾かたずを飲んで見守っていた。
しかし結果的には慶次が会長に退いても名目が変わるだけであり、彼の威光が褪せることはないとは分かっているのだが……。
慶次の会社は中堅の機器製造メーカーであり、その製品の製造及びその販売を主にしていたが、それ以外にも様々な業種に食指を広げ、慶次がどこへでも顔を突っ込むのは彼の八方美人的で、浮気性な性癖と無関係ではないようだ。
会社の製品は多岐にわたるが、吸収合併した子会社を慶次は事業部制にして傘下にしていた。
その経営者の殆どは慶次の会社から出向させている。それは一緒のコングロマリット(複合企業)と言えなくもない。
メインは大手の会社に収める特殊な機器を製造販売して手堅いのだが……更に防衛産業に関わる計器製造メーカーを買収合併し、娘婿を社長にさせて送り込むなどし、その関係で防衛省に出入りしているようである。それは、こういう世界にも顔が利くという彼の誇示欲の表れでもある。
いま、丸の内にある高層ビルのその会社の会議室には、各事業部長でもある取締役の二十数名ほどが集まっていた。ほぼ全員が揃ったところを、彼等は社長の慶次が来るのを今か今かと待っていた。
その中で今日の核心でもあるテーマをコネで事前に知っている或る役員は、隣に座っている役員に得意げに耳打ちをしている。
「今日の会議では社長が勇退をして、その後釜を誰かに決める会議になるらしいですよ、それで実は……」と、最近、それなりの業績を上げていると自負している小型機器製造部の部長である坂井敬二郎は隣の役員に得意げに言った。彼は最近業界で注目されているドローンを手がけ業績は上がっており、今乗っている男である。
「そうですか、前からそう言う噂は聞いておりましたがなぁ、やはり……」坂井の話を始めて聞いたような顔をしているのは、口髭を生やした太り肉で恰幅のよい男だった。
彼は汎用家電製品部の部長をしている榊原康雄だったが、その話は前から聞いていて知っていたが、黙っていた。
心の中ではうんざりとして、
(わたしを誰だと思っているんだ……あんたよりその話はもっと知っていますよ。社長の慶次さんとわたしは昔から懇意にしているのでね。慶次さんの胸三寸は次期の社長を娘婿の浦島真一郎氏に固めていることも知っているんだ)と思いながら、口角に唾を溜め興奮気味に話しかけている坂井を軽く手で制止しながら軽蔑の目をして見つめていた。
榊原が会議室を何気なく見渡していると、隅の方で机の上に書類や辞書などの筆記用具を置き、椅子に座って会議が始まるのを待っている事務の女を見て驚いた。彼女は会議の議事録を記録する愛川慶子である。
彼女は名前から想像するイメージとは違って、地味な感じの女だった。総務課長からこの会議の議事録を担当するように言われたからである。こういう会議では議事録は重要であり、その会議の内容を把握し、正確できちんとまとめなければならない。
後で疑義が生じたときなどは、その記録した内容が決定的になるからだ。そういう事務能力で彼女の右に出る者はいない。
今か今かと緊張しているその愛川慶子と、熱い関係で繋がっていた榊原は彼女との関係を思い出していた。
豪腕社長と言われている慶次社長が、社長を退き、それに変わる新社長を選出するという大事な会議であり、集まっていた人たちは緊張していた。
しかし、慶次が豪腕で遣り手の社長だっただけに、彼にすぐに代われる存在の人物が見当たらないのが事実だった。
それを狙う実力者が居ないわけでは無いが、それでも飛び抜けてこうだという人物はいない。強いて言えば、慶次の娘婿の人物がその候補の一人には挙がってはいるものの、何かとプライベートで良からぬ噂もあり、いまいちそれを心配する役員も少なくない。
以前には、社長の慶次は業務の幅を拡大する為に、小さな会社でもその価値を認めると、その経営者と接触し巧みに資本提携や、グループへの参加を促した。
そして、その会社が持つ株や特許を買い上げ、やがてその会社の大株主となり、最終的には吸収して傘下にさせるのを定石としていた。
その後、自社の自分の子飼いである息の掛かった役員を送りつけ、その子会社の社長にさせることなど余念が無かった。
その範囲は医療機器や、工業向け特殊機器であったり、航空機に搭載する機器の保守点検、機器製造と販売であったりと、その範囲は多岐たきにわたっていた。
慶次にはそういう野心的で経営的な勘の鋭さがあり、それが会社を大きくした要因である。また、そういう手法では同業種や敵対する会社からは忌み嫌われる存在でもある。
弱みにつけ込み、これはと思った会社に巧みに取り込み、吸収や合併をしたが、それが少し強引なやり方だと非難されることも少なくない。
そんな慶次のことを「産業界の裏の吸収合併屋」とも言われているらしい。
そんな慶次が社長を退き、会長になるということでほっとしている役員も少なくない。彼の後に誰が次の社長になるのか、みな平静を装いながらも固唾かたずを飲んで見守っていた。
しかし結果的には慶次が会長に退いても名目が変わるだけであり、彼の威光が褪せることはないとは分かっているのだが……。
慶次の会社は中堅の機器製造メーカーであり、その製品の製造及びその販売を主にしていたが、それ以外にも様々な業種に食指を広げ、慶次がどこへでも顔を突っ込むのは彼の八方美人的で、浮気性な性癖と無関係ではないようだ。
会社の製品は多岐にわたるが、吸収合併した子会社を慶次は事業部制にして傘下にしていた。
その経営者の殆どは慶次の会社から出向させている。それは一緒のコングロマリット(複合企業)と言えなくもない。
メインは大手の会社に収める特殊な機器を製造販売して手堅いのだが……更に防衛産業に関わる計器製造メーカーを買収合併し、娘婿を社長にさせて送り込むなどし、その関係で防衛省に出入りしているようである。それは、こういう世界にも顔が利くという彼の誇示欲の表れでもある。
いま、丸の内にある高層ビルのその会社の会議室には、各事業部長でもある取締役の二十数名ほどが集まっていた。ほぼ全員が揃ったところを、彼等は社長の慶次が来るのを今か今かと待っていた。
その中で今日の核心でもあるテーマをコネで事前に知っている或る役員は、隣に座っている役員に得意げに耳打ちをしている。
「今日の会議では社長が勇退をして、その後釜を誰かに決める会議になるらしいですよ、それで実は……」と、最近、それなりの業績を上げていると自負している小型機器製造部の部長である坂井敬二郎は隣の役員に得意げに言った。彼は最近業界で注目されているドローンを手がけ業績は上がっており、今乗っている男である。
「そうですか、前からそう言う噂は聞いておりましたがなぁ、やはり……」坂井の話を始めて聞いたような顔をしているのは、口髭を生やした太り肉で恰幅のよい男だった。
彼は汎用家電製品部の部長をしている榊原康雄だったが、その話は前から聞いていて知っていたが、黙っていた。
心の中ではうんざりとして、
(わたしを誰だと思っているんだ……あんたよりその話はもっと知っていますよ。社長の慶次さんとわたしは昔から懇意にしているのでね。慶次さんの胸三寸は次期の社長を娘婿の浦島真一郎氏に固めていることも知っているんだ)と思いながら、口角に唾を溜め興奮気味に話しかけている坂井を軽く手で制止しながら軽蔑の目をして見つめていた。
榊原が会議室を何気なく見渡していると、隅の方で机の上に書類や辞書などの筆記用具を置き、椅子に座って会議が始まるのを待っている事務の女を見て驚いた。彼女は会議の議事録を記録する愛川慶子である。
彼女は名前から想像するイメージとは違って、地味な感じの女だった。総務課長からこの会議の議事録を担当するように言われたからである。こういう会議では議事録は重要であり、その会議の内容を把握し、正確できちんとまとめなければならない。
後で疑義が生じたときなどは、その記録した内容が決定的になるからだ。そういう事務能力で彼女の右に出る者はいない。
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