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第一章 私を陥れたのは誰?
私が聖女!?
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「中継つながっています。えー、こちら隕石を撃退した光線が出たというアパート前に来ています」
アパートの部屋のテレビから賑やかな実況中継が聞こえてくる。私の部屋の真下にも同じことを喋っている女性アナウンサーが立っている。
アパート上空にはドローンやヘリコプターが飛びかっていて、音がうるさい。
私はどうしてこうなったと青ざめていた。
数時間前、確かに私は結菜に言われて空に向かって呪文を唱えてみせた。それはほんの気休めで、おふざけだった。今朝、結菜が2階から落下するのを私が魔法を使って救ったと思い込んだ結菜が、隕石を魔法で撃退してくれとせがんだのだ。私はやってみた。それが思わぬ効果を発揮して、今に至る。
私は大学からヒューとサミュエルと魔導師ジーニンと一緒にアパートまで戻ってくると、アパートの住人のほとんどが集まってきていた。ニュースを見て家であるアパートに帰宅してきていたのだ。
大家さん、私の部屋の右隣のおばあちゃん、階下に住むサラリーマンの男性、階下に住む大学生、結菜と悠斗とそのお母さんがアパート前に集まってきていたのだ。サラリーマンは佐々木さんで、大学生は純斗だ。皆、同じアパートに住むから顔見知りだった。
保育園の年長組の結菜が泣きながら地球が滅亡するなんて嫌だと言いながら、私に抱きついて頼んだ。
「富ちゃん、今朝みたいに魔法で地球を救ってちょうだい」
結菜は今朝私が魔法で彼女を救ったと勘違いをしていた。ただ、泣いている幼い子を泣き止ませるには仕方ないと私は頷いて、空に向かって右手の人差し指を向けた。
何気なく私が息を大きく吸い込んだ時、静かな声が耳奥でした。
『Lvl27790の聖女のスキルを使いますか?』
「使いますっ!」
私は気合を入れるために声を出して宣言した。その瞬間、光線が私の指から飛び出して空の彼方に向かった。
「おぉ!」
「なんだ、今のは!」
世界中が、日本中がざわついた。もっともざわついたのは古いアパート前だった。
「おぉ、隕石が地球に衝突する軌道から外れたと言っていますよ!」
「さっきの光線は隕石を撃退するためのものだったのでしょうか」
そこからあっという間にGoogleマップや衛星写真から、私の住む古いアパートが世界に特定されたというわけだ。今は、スマホを掲げた一般の方やテレビ局の人たちが沢山アパート前に集まっていた。地面に跪いて神に祈っていた世界中の人は、日本から救いの神光線が出たと信じられない超常現象について話している。なんでこうなったのか分からない。
「だから、富ちゃんは本物の魔法使いなんですよっ!」
結菜は大興奮だった。悠斗もそうだ。ヒューと魔導師ジーニンは「偉大な聖女さまですよ」と結菜と悠斗に教え込んでいる。私はその状況にもう力が抜けた。
アパートの住民はテレビ局や取材には一切応じなかった。みんな大人は見たことは黙っていて、私が聖女だなんて一言も取材の人には話さなかった。私も一応、魂の抜けたような力の抜けた感じでテレビの前には立った。顔を隠すために大学生の純斗に借りたメガネをかけて。
「疲れているので、お引き取りいただけますか」
「私どもはこのアパートから光線が出たという目撃情報を調べているのですが「そんなものは全く気づきませんでした!」」
私は本当によるよろと魂が抜けたように力尽きた風情で、取材は無意味だと訴えた。でも、報道陣は面白おかしく描きたいので引き下がらない。
「冤罪ですよっ!?」
私はちょっとやばい人を演じることにした。この際仕方がない。言葉のチョイスは完全に間違えているが、そうでもしないと『この人ちょっとやばい人かも』というのは伝わらないものだ。
「なんにも関係ないと言っているでしょう。それなのにあなたたちはアパートに押しかけてきて騒がしくしている。訴えます!」
私はたんかを切ってヤバさを全面に押し出した、つもりだ。その時、私の援軍が現れた。大学生の純斗が隣にすっと立ち、「なんも見えなかったっすよ」と話し始めた。
カメラは一斉に大学生純斗に向かい、純斗は普通の大学生といった自然さで「顔出したらダメですよ」と報道陣に釘を刺して、自分たちアパートの住人は何も見ていないし、騒がれる意味が分からないと訴えた。マスクをしていて、新たな度が強いメガネをかけて純斗はもはや分からないぐらいに変装をしていた。
純斗の振る舞いは功を奏したようだ。
脇道からスマホを掲げて私を撮っている近所の中学生らしき子を見つけて、私はツカツカと歩み寄り、腕組みして彼を睨んだ。
「撮るのをやめな」
「聖女になった御気分は「っなわけないでしょっ!!!」」
私は中学生を一喝した。中学生は私の剣幕に恐れをなして逃げるように帰って行った。
後ろを振り返ると、純斗の隣にサラリーマンの佐々木さんとおばあちゃんも立って、皆で報道陣に否定していた。
私はその様子をアパートの自分の部屋に戻りながら、ぼぉっと見ていた。
今日は変な日だ。
頭の中で聞こえるスキルに関する声は、確かに私を助けてくれる。
ならば、私は本当に聖女となる。
――は?私が聖女!?
――公爵令嬢の記憶は本物で、今私は地球を救った!?
――私は婚約破棄されて断罪されて処刑された公爵令嬢で聖女なの?
ありがち異性回転性設定過ぎて、私までおかしくなったのだろうか。
――いやいやそれはないって!
私の名前はヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドン。ヴァイオレットはバルドン公爵の長女で、策に陥れられ、冤罪で18歳で処刑された。
これは私自身の話のようだ。さっき、確かに光の光線が出て空に向かって何かをしたのははっきりと自覚がある。昨日鳥になって空を飛んだ自覚もはっきりある。コカコーラの噴水を一瞬で止めた自覚がある。時々頭の中に蘇る断片的な記憶の破片はヴァイオレット自身の記憶のようだ。
なんで、本当に、私はヴァイオレットなのか。
そんなバカなと震える私の目に、アパートの前に咲いている、大家さんが育てているブルーリバーとピンクリバーのスーパートレニア カタリーナの涼やかな花の向こうで涙ぐんでいるサミュエルと魔導師ジーニンの姿が見えた。
ヒューは二人に肩を回してそんな二人を抱きしめている。あれは……地球滅亡から救われたことに涙しているのではなく、「彼らの聖女さま」が戻ってきたことに涙している?
私はあまりの事態に眩暈がした。
アパートの部屋のテレビから賑やかな実況中継が聞こえてくる。私の部屋の真下にも同じことを喋っている女性アナウンサーが立っている。
アパート上空にはドローンやヘリコプターが飛びかっていて、音がうるさい。
私はどうしてこうなったと青ざめていた。
数時間前、確かに私は結菜に言われて空に向かって呪文を唱えてみせた。それはほんの気休めで、おふざけだった。今朝、結菜が2階から落下するのを私が魔法を使って救ったと思い込んだ結菜が、隕石を魔法で撃退してくれとせがんだのだ。私はやってみた。それが思わぬ効果を発揮して、今に至る。
私は大学からヒューとサミュエルと魔導師ジーニンと一緒にアパートまで戻ってくると、アパートの住人のほとんどが集まってきていた。ニュースを見て家であるアパートに帰宅してきていたのだ。
大家さん、私の部屋の右隣のおばあちゃん、階下に住むサラリーマンの男性、階下に住む大学生、結菜と悠斗とそのお母さんがアパート前に集まってきていたのだ。サラリーマンは佐々木さんで、大学生は純斗だ。皆、同じアパートに住むから顔見知りだった。
保育園の年長組の結菜が泣きながら地球が滅亡するなんて嫌だと言いながら、私に抱きついて頼んだ。
「富ちゃん、今朝みたいに魔法で地球を救ってちょうだい」
結菜は今朝私が魔法で彼女を救ったと勘違いをしていた。ただ、泣いている幼い子を泣き止ませるには仕方ないと私は頷いて、空に向かって右手の人差し指を向けた。
何気なく私が息を大きく吸い込んだ時、静かな声が耳奥でした。
『Lvl27790の聖女のスキルを使いますか?』
「使いますっ!」
私は気合を入れるために声を出して宣言した。その瞬間、光線が私の指から飛び出して空の彼方に向かった。
「おぉ!」
「なんだ、今のは!」
世界中が、日本中がざわついた。もっともざわついたのは古いアパート前だった。
「おぉ、隕石が地球に衝突する軌道から外れたと言っていますよ!」
「さっきの光線は隕石を撃退するためのものだったのでしょうか」
そこからあっという間にGoogleマップや衛星写真から、私の住む古いアパートが世界に特定されたというわけだ。今は、スマホを掲げた一般の方やテレビ局の人たちが沢山アパート前に集まっていた。地面に跪いて神に祈っていた世界中の人は、日本から救いの神光線が出たと信じられない超常現象について話している。なんでこうなったのか分からない。
「だから、富ちゃんは本物の魔法使いなんですよっ!」
結菜は大興奮だった。悠斗もそうだ。ヒューと魔導師ジーニンは「偉大な聖女さまですよ」と結菜と悠斗に教え込んでいる。私はその状況にもう力が抜けた。
アパートの住民はテレビ局や取材には一切応じなかった。みんな大人は見たことは黙っていて、私が聖女だなんて一言も取材の人には話さなかった。私も一応、魂の抜けたような力の抜けた感じでテレビの前には立った。顔を隠すために大学生の純斗に借りたメガネをかけて。
「疲れているので、お引き取りいただけますか」
「私どもはこのアパートから光線が出たという目撃情報を調べているのですが「そんなものは全く気づきませんでした!」」
私は本当によるよろと魂が抜けたように力尽きた風情で、取材は無意味だと訴えた。でも、報道陣は面白おかしく描きたいので引き下がらない。
「冤罪ですよっ!?」
私はちょっとやばい人を演じることにした。この際仕方がない。言葉のチョイスは完全に間違えているが、そうでもしないと『この人ちょっとやばい人かも』というのは伝わらないものだ。
「なんにも関係ないと言っているでしょう。それなのにあなたたちはアパートに押しかけてきて騒がしくしている。訴えます!」
私はたんかを切ってヤバさを全面に押し出した、つもりだ。その時、私の援軍が現れた。大学生の純斗が隣にすっと立ち、「なんも見えなかったっすよ」と話し始めた。
カメラは一斉に大学生純斗に向かい、純斗は普通の大学生といった自然さで「顔出したらダメですよ」と報道陣に釘を刺して、自分たちアパートの住人は何も見ていないし、騒がれる意味が分からないと訴えた。マスクをしていて、新たな度が強いメガネをかけて純斗はもはや分からないぐらいに変装をしていた。
純斗の振る舞いは功を奏したようだ。
脇道からスマホを掲げて私を撮っている近所の中学生らしき子を見つけて、私はツカツカと歩み寄り、腕組みして彼を睨んだ。
「撮るのをやめな」
「聖女になった御気分は「っなわけないでしょっ!!!」」
私は中学生を一喝した。中学生は私の剣幕に恐れをなして逃げるように帰って行った。
後ろを振り返ると、純斗の隣にサラリーマンの佐々木さんとおばあちゃんも立って、皆で報道陣に否定していた。
私はその様子をアパートの自分の部屋に戻りながら、ぼぉっと見ていた。
今日は変な日だ。
頭の中で聞こえるスキルに関する声は、確かに私を助けてくれる。
ならば、私は本当に聖女となる。
――は?私が聖女!?
――公爵令嬢の記憶は本物で、今私は地球を救った!?
――私は婚約破棄されて断罪されて処刑された公爵令嬢で聖女なの?
ありがち異性回転性設定過ぎて、私までおかしくなったのだろうか。
――いやいやそれはないって!
私の名前はヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドン。ヴァイオレットはバルドン公爵の長女で、策に陥れられ、冤罪で18歳で処刑された。
これは私自身の話のようだ。さっき、確かに光の光線が出て空に向かって何かをしたのははっきりと自覚がある。昨日鳥になって空を飛んだ自覚もはっきりある。コカコーラの噴水を一瞬で止めた自覚がある。時々頭の中に蘇る断片的な記憶の破片はヴァイオレット自身の記憶のようだ。
なんで、本当に、私はヴァイオレットなのか。
そんなバカなと震える私の目に、アパートの前に咲いている、大家さんが育てているブルーリバーとピンクリバーのスーパートレニア カタリーナの涼やかな花の向こうで涙ぐんでいるサミュエルと魔導師ジーニンの姿が見えた。
ヒューは二人に肩を回してそんな二人を抱きしめている。あれは……地球滅亡から救われたことに涙しているのではなく、「彼らの聖女さま」が戻ってきたことに涙している?
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