【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

文字の大きさ
53 / 75
第三章 囚われの身から幸せへ

囚われの身から脱出 ヴァイレオットSide

しおりを挟む
「メロ伯爵夫人、このようなところで何を?」

 男の険悪な鋭い声が響き、しばしの沈黙が漂った。

 私は必死で念じたが、頭の中はしんと静まり返っている。ヴァイオレットは剣術を習得していない。富子が習った護身術は中学と高校の授業で習った柔道ぐらいだ。

 ――中世に柔道?

 私は体育の時間のジャージを頭にイメージした。野武士でもいい。イメージは突然襲いかかるあやつらだ。ドレスの下に高校の時のジャージを履いて、リラックスしているイメージを脳内でした。

 ――できる!できる!できる!

 私は無言でジゼルの前に飛び出した。男の手に掲げていたランプを一撃で払い落とした。その衝撃でジゼルとカトリーヌが「きゃっ」と叫んで後ろに下がってできたスペースを有効利用して、男をブン!と背負い投げした。

 ――体育の野村先生、ありがとう!上手くできました!

 私は高校時代の筋骨隆々で逞しい体育担当の野村先生の面影に心の底から感謝した。

 しかも、ヴァイオレットは、私が日記に記した通りに体の鍛錬もこの一年間怠らなかったようだ。

 ――褒めてつかわす、17歳のヴァイオレット!

 私は心の中で自画自賛した。

「すごいわ。今のはスキルじゃないわよね?」
「違うわ。素手よ」

 聖女カトリーヌ素朴な疑問に私は答えながら、地下牢の廊下に伸びた男の人相をじっくりと見ようとした。男はうめいている。男が起き上がろうとした瞬間に、男がやってきた方から突然黒い影が現れて、男の頭をランプで一気に叩いた。男はうめいて横たわった。

「あら、ソフィー妃かしら?」
「あらあら。これはこれはジゼル、夫の麗しい愛人がなぜこんな小汚い地下牢の廊下をうろついているのかしら?」

「お美しい限りのソフィー妃こそ、ヴァイオレット聖女を亡き者にしに来たわけじゃないですよね?」

「失礼ですわね。いくら妃の座を奪われるからと言って、そんな陰険なことはしないわ。わたくしをなめないでくださるかしら。私は王位を追われて辛酸を舐めた元国王の家族という、悲しき貧しさに十数年耐えた身よ。妃の座にしがみつくためだけに、心に恥じるようなことはしないわ」

 どうやら、やってきたのは今度はカール大帝の妻のソフィー妃のようだ。ジゼルはカール大帝の公妾のようだ。

 ――妃と愛人が二人して私たちを助けにやってきた?

 ――どうなっているの?

「それにしても、この男はあなた達が倒したの?この男は夫の乳母シャーリーンの手下よ」
 
 ソフィー妃の問いかけに、愛人のジゼルがツンとすまして答えた。

「聖女は素手でクマをも投げ飛ばせるようよ。スキルは使えないのに、自力でこのクマのような男を投げ飛ばしたわ」
「ま!その術は是非わたくしも今後のために習得したいですわ」

 二人は仲が良さそうに話している。

「あの、お言葉ですが、そろそろ逃げないと」

 たまりかねた聖女カトリーヌが妃と愛人を制すように割り込んだ。褐色の肌に血の気が戻ってきている。

「そうね。ここで油を売っているわけにはいかないわね。さあ、急いで逃げるわよ。みなさん、こっちよ」

 ソフィー王妃が張り切って足早に地下牢脱出のために歩き始めた。男に投げつけたランプを拾い上げ、何事もなかったのように歩いている。

 そう言えば、前の人生でも噂で大層美しい伯爵夫人がカール大帝の公妾だという話を聞いたことがあった。それがジゼルということになる。妃のことは聞いたことが無かったが、なかなかの豪傑のようだ。

 息を張り詰めていた私はフーッと息を吐いた。後ろにいるカトリーヌも安堵のため息をついている。

「さっき夫の乳母のシャーリーンのところの術師にお酒を飲ませたのよ。とっても高くて貴重なお酒を仕方ないから振る舞ったのよ。聖女2人を拉致するなんて許せませんから。今はぐっすり寝ているわ」
「あら、私はカール大帝にも飲ませたわ」

「愛人よ、よくやりましたわね。あなた、素晴らしい働きよ」
「お妃様も頑張りましたね」
「当然よ」

「さっき仰っていたことですが、私も貧しい村に住むお針子の私生児として育ったので、私も愛人の座にしがみつきはしませんわよ」

「あら、あなた気が合うわ」
「今更ですわ。お妃様」

 二人はヒソヒソとそんな事を話しながら、曲がりくねった地下牢のような場所を歩いて抜けた。

 聖女カトリーヌを始め、ソフィー妃、愛人ジゼル、私と貧しさに耐えぬいた女性4人で脱出しているさまは、心強いものだった。

 そのまま私たちは地下室を抜け出した。外はとっくに日が暮れていた。

 どうしても私は聖女の力を取り戻さずに、ニホンに帰るわけには行かない。17歳のヴァイオレットをこの状態でここに残すわけには行かない。私はヒューの死でショックを受けた自分を立て直す必要がある。

 17歳のヴァイオレットには無理だろう。

 でも、私は父の死にも、その後の貧乏生活にも一応たくましく耐えて生き抜いてきた自負が支えだ。どんなにヒュー王子の死がショックでも、私なら立ち向かえるはずだ。あらゆる苦難を乗り越えてここまで来たのは私なのだから。

 ――初恋の人の死。私の初めてを捧げた人の死。

 私の心がまた震え始めた。

 ――いけない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...