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第三章 囚われの身から幸せへ
囚われの身から脱出 ヴァイレオットSide
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「メロ伯爵夫人、このようなところで何を?」
男の険悪な鋭い声が響き、しばしの沈黙が漂った。
私は必死で念じたが、頭の中はしんと静まり返っている。ヴァイオレットは剣術を習得していない。富子が習った護身術は中学と高校の授業で習った柔道ぐらいだ。
――中世に柔道?
私は体育の時間のジャージを頭にイメージした。野武士でもいい。イメージは突然襲いかかるあやつらだ。ドレスの下に高校の時のジャージを履いて、リラックスしているイメージを脳内でした。
――できる!できる!できる!
私は無言でジゼルの前に飛び出した。男の手に掲げていたランプを一撃で払い落とした。その衝撃でジゼルとカトリーヌが「きゃっ」と叫んで後ろに下がってできたスペースを有効利用して、男をブン!と背負い投げした。
――体育の野村先生、ありがとう!上手くできました!
私は高校時代の筋骨隆々で逞しい体育担当の野村先生の面影に心の底から感謝した。
しかも、ヴァイオレットは、私が日記に記した通りに体の鍛錬もこの一年間怠らなかったようだ。
――褒めてつかわす、17歳のヴァイオレット!
私は心の中で自画自賛した。
「すごいわ。今のはスキルじゃないわよね?」
「違うわ。素手よ」
聖女カトリーヌ素朴な疑問に私は答えながら、地下牢の廊下に伸びた男の人相をじっくりと見ようとした。男はうめいている。男が起き上がろうとした瞬間に、男がやってきた方から突然黒い影が現れて、男の頭をランプで一気に叩いた。男はうめいて横たわった。
「あら、ソフィー妃かしら?」
「あらあら。これはこれはジゼル、夫の麗しい愛人がなぜこんな小汚い地下牢の廊下をうろついているのかしら?」
「お美しい限りのソフィー妃こそ、ヴァイオレット聖女を亡き者にしに来たわけじゃないですよね?」
「失礼ですわね。いくら妃の座を奪われるからと言って、そんな陰険なことはしないわ。わたくしをなめないでくださるかしら。私は王位を追われて辛酸を舐めた元国王の家族という、悲しき貧しさに十数年耐えた身よ。妃の座にしがみつくためだけに、心に恥じるようなことはしないわ」
どうやら、やってきたのは今度はカール大帝の妻のソフィー妃のようだ。ジゼルはカール大帝の公妾のようだ。
――妃と愛人が二人して私たちを助けにやってきた?
――どうなっているの?
「それにしても、この男はあなた達が倒したの?この男は夫の乳母シャーリーンの手下よ」
ソフィー妃の問いかけに、愛人のジゼルがツンとすまして答えた。
「聖女は素手でクマをも投げ飛ばせるようよ。スキルは使えないのに、自力でこのクマのような男を投げ飛ばしたわ」
「ま!その術は是非わたくしも今後のために習得したいですわ」
二人は仲が良さそうに話している。
「あの、お言葉ですが、そろそろ逃げないと」
たまりかねた聖女カトリーヌが妃と愛人を制すように割り込んだ。褐色の肌に血の気が戻ってきている。
「そうね。ここで油を売っているわけにはいかないわね。さあ、急いで逃げるわよ。みなさん、こっちよ」
ソフィー王妃が張り切って足早に地下牢脱出のために歩き始めた。男に投げつけたランプを拾い上げ、何事もなかったのように歩いている。
そう言えば、前の人生でも噂で大層美しい伯爵夫人がカール大帝の公妾だという話を聞いたことがあった。それがジゼルということになる。妃のことは聞いたことが無かったが、なかなかの豪傑のようだ。
息を張り詰めていた私はフーッと息を吐いた。後ろにいるカトリーヌも安堵のため息をついている。
「さっき夫の乳母のシャーリーンのところの術師にお酒を飲ませたのよ。とっても高くて貴重なお酒を仕方ないから振る舞ったのよ。聖女2人を拉致するなんて許せませんから。今はぐっすり寝ているわ」
「あら、私はカール大帝にも飲ませたわ」
「愛人よ、よくやりましたわね。あなた、素晴らしい働きよ」
「お妃様も頑張りましたね」
「当然よ」
「さっき仰っていたことですが、私も貧しい村に住むお針子の私生児として育ったので、私も愛人の座にしがみつきはしませんわよ」
「あら、あなた気が合うわ」
「今更ですわ。お妃様」
二人はヒソヒソとそんな事を話しながら、曲がりくねった地下牢のような場所を歩いて抜けた。
聖女カトリーヌを始め、ソフィー妃、愛人ジゼル、私と貧しさに耐えぬいた女性4人で脱出しているさまは、心強いものだった。
そのまま私たちは地下室を抜け出した。外はとっくに日が暮れていた。
どうしても私は聖女の力を取り戻さずに、ニホンに帰るわけには行かない。17歳のヴァイオレットをこの状態でここに残すわけには行かない。私はヒューの死でショックを受けた自分を立て直す必要がある。
17歳のヴァイオレットには無理だろう。
でも、私は父の死にも、その後の貧乏生活にも一応たくましく耐えて生き抜いてきた自負が支えだ。どんなにヒュー王子の死がショックでも、私なら立ち向かえるはずだ。あらゆる苦難を乗り越えてここまで来たのは私なのだから。
――初恋の人の死。私の初めてを捧げた人の死。
私の心がまた震え始めた。
――いけない。
男の険悪な鋭い声が響き、しばしの沈黙が漂った。
私は必死で念じたが、頭の中はしんと静まり返っている。ヴァイオレットは剣術を習得していない。富子が習った護身術は中学と高校の授業で習った柔道ぐらいだ。
――中世に柔道?
私は体育の時間のジャージを頭にイメージした。野武士でもいい。イメージは突然襲いかかるあやつらだ。ドレスの下に高校の時のジャージを履いて、リラックスしているイメージを脳内でした。
――できる!できる!できる!
私は無言でジゼルの前に飛び出した。男の手に掲げていたランプを一撃で払い落とした。その衝撃でジゼルとカトリーヌが「きゃっ」と叫んで後ろに下がってできたスペースを有効利用して、男をブン!と背負い投げした。
――体育の野村先生、ありがとう!上手くできました!
私は高校時代の筋骨隆々で逞しい体育担当の野村先生の面影に心の底から感謝した。
しかも、ヴァイオレットは、私が日記に記した通りに体の鍛錬もこの一年間怠らなかったようだ。
――褒めてつかわす、17歳のヴァイオレット!
私は心の中で自画自賛した。
「すごいわ。今のはスキルじゃないわよね?」
「違うわ。素手よ」
聖女カトリーヌ素朴な疑問に私は答えながら、地下牢の廊下に伸びた男の人相をじっくりと見ようとした。男はうめいている。男が起き上がろうとした瞬間に、男がやってきた方から突然黒い影が現れて、男の頭をランプで一気に叩いた。男はうめいて横たわった。
「あら、ソフィー妃かしら?」
「あらあら。これはこれはジゼル、夫の麗しい愛人がなぜこんな小汚い地下牢の廊下をうろついているのかしら?」
「お美しい限りのソフィー妃こそ、ヴァイオレット聖女を亡き者にしに来たわけじゃないですよね?」
「失礼ですわね。いくら妃の座を奪われるからと言って、そんな陰険なことはしないわ。わたくしをなめないでくださるかしら。私は王位を追われて辛酸を舐めた元国王の家族という、悲しき貧しさに十数年耐えた身よ。妃の座にしがみつくためだけに、心に恥じるようなことはしないわ」
どうやら、やってきたのは今度はカール大帝の妻のソフィー妃のようだ。ジゼルはカール大帝の公妾のようだ。
――妃と愛人が二人して私たちを助けにやってきた?
――どうなっているの?
「それにしても、この男はあなた達が倒したの?この男は夫の乳母シャーリーンの手下よ」
ソフィー妃の問いかけに、愛人のジゼルがツンとすまして答えた。
「聖女は素手でクマをも投げ飛ばせるようよ。スキルは使えないのに、自力でこのクマのような男を投げ飛ばしたわ」
「ま!その術は是非わたくしも今後のために習得したいですわ」
二人は仲が良さそうに話している。
「あの、お言葉ですが、そろそろ逃げないと」
たまりかねた聖女カトリーヌが妃と愛人を制すように割り込んだ。褐色の肌に血の気が戻ってきている。
「そうね。ここで油を売っているわけにはいかないわね。さあ、急いで逃げるわよ。みなさん、こっちよ」
ソフィー王妃が張り切って足早に地下牢脱出のために歩き始めた。男に投げつけたランプを拾い上げ、何事もなかったのように歩いている。
そう言えば、前の人生でも噂で大層美しい伯爵夫人がカール大帝の公妾だという話を聞いたことがあった。それがジゼルということになる。妃のことは聞いたことが無かったが、なかなかの豪傑のようだ。
息を張り詰めていた私はフーッと息を吐いた。後ろにいるカトリーヌも安堵のため息をついている。
「さっき夫の乳母のシャーリーンのところの術師にお酒を飲ませたのよ。とっても高くて貴重なお酒を仕方ないから振る舞ったのよ。聖女2人を拉致するなんて許せませんから。今はぐっすり寝ているわ」
「あら、私はカール大帝にも飲ませたわ」
「愛人よ、よくやりましたわね。あなた、素晴らしい働きよ」
「お妃様も頑張りましたね」
「当然よ」
「さっき仰っていたことですが、私も貧しい村に住むお針子の私生児として育ったので、私も愛人の座にしがみつきはしませんわよ」
「あら、あなた気が合うわ」
「今更ですわ。お妃様」
二人はヒソヒソとそんな事を話しながら、曲がりくねった地下牢のような場所を歩いて抜けた。
聖女カトリーヌを始め、ソフィー妃、愛人ジゼル、私と貧しさに耐えぬいた女性4人で脱出しているさまは、心強いものだった。
そのまま私たちは地下室を抜け出した。外はとっくに日が暮れていた。
どうしても私は聖女の力を取り戻さずに、ニホンに帰るわけには行かない。17歳のヴァイオレットをこの状態でここに残すわけには行かない。私はヒューの死でショックを受けた自分を立て直す必要がある。
17歳のヴァイオレットには無理だろう。
でも、私は父の死にも、その後の貧乏生活にも一応たくましく耐えて生き抜いてきた自負が支えだ。どんなにヒュー王子の死がショックでも、私なら立ち向かえるはずだ。あらゆる苦難を乗り越えてここまで来たのは私なのだから。
――初恋の人の死。私の初めてを捧げた人の死。
私の心がまた震え始めた。
――いけない。
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