【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

文字の大きさ
56 / 75
第三章 囚われの身から幸せへ

巻き戻し ヴァイオレットSide(1)

しおりを挟む
 奇妙な状況だ。
 純斗の事務所の運転手が、人気若手俳優である純斗の迎えにワゴン車でアパートまでやってきた。マネージャーが助手席に乗っていたが、純斗は私を後部座席に乗せた。大学まで私を送ると言って純斗がきかなかったのだ。

 そこになぜか、スーツを着た爽やか美青年のヒューも乗り込んできた。すると慌てて魔導師ジーニンも美青年を追って乗り込んできた。純斗の事務所のマネージャーは助手席から振り向いて、目をむいて怒った表情をしてきたが、純斗は完全無視していた。

「こちらがよく話している僕の大好きなとみちゃん。週刊誌に写真を撮られた時のためにも、バレないように何人も乗っていた方がカモフラージュになるでしょう」

 純斗はマネージャーにそう説明した。マネージャは私と爽やか美青年と魔導師ジーニンをジロジロ見たが、諦めたような表情で頭を振って推し黙った。黙認ということか。

「会社には遅れると連絡したから大丈夫」

 私と純斗に爽やかに説明した美青年は、「で?」と促してきた。

「ヴァイオレットのスキルを封じ込めたのは何だったの?あの後、原因が分かったの?」
「そうだ、俺もそれが聞きたかった」

 純斗とスーツ姿の美青年に詰め寄られて、二人の顔面偏差値の高さに私はクラクラっときた。ぽつぽつと、あの後何があったかを私は説明した。

「君をカール大帝の妻にするだって!?」
「あぁ、世継ぎ問題か。最悪だ」

「カール大帝の乳母のシャーリーンが盲目的にカール大帝を甘やかしているという噂はあった。バリドン公爵家に術のかかった食料を仕入れさせていたとは、全く気づかなかったな」

「しかし、ソフィー妃と離婚してまで、次の妃に隣国ボアルネハルトの聖女を強制的に拉致して据える計画とは……」

 純斗と爽やか美青年はボアルネハルトとハープスブートに関する知識レベルが同等で、非常に気が合った。

 二人とも私の話を聞いておぞましいといった表情を互いに浮かべていた。


「ねえ、ヒューはビール純粋法を制定しようとしていたわね。それに反対する人はいたかしら?」

 私はふと気になって聞いた。

「いたよ。ゼルニエ侯爵夫人とその夫のゼルニエ侯爵だ」
「シャーロットおばさまが?」

 私は思わぬ名前が出てきて、驚きのあまりに動きを止めた。頭の中で何かが警告する。私はシャーロットおばさまを非常に信頼していた。10歳の時に突然死した母の葬式にも、一緒に馬車に乗って墓地に行ったぐらいだ。

 しかし、最初の人生で親友だと思っていたマルグリッドが私を裏切っていたのは既に判明している。私が処刑される時、ヒューのそばにいたのはマルグリッドだった。彼女は私が火炙りの刑に処されるのを内心喜んで見ていたに違いない。

 ――私は信頼していた人に裏切られている。もし、シャーロットおばさまもそうなら……。


「以前にシャーロットおばさまが、継母のルイーズに説教していたのよ。自分の生まれ育った伯爵領の食べ物だけでなく、他の地の食料も食べなさいと説教していたわ。ただの偶然かもしれないけれど」

 私の言葉を受けて、ヒューは考えながら話し始めた。 

「不自然な言葉ではないが、今から考えると、継母ルイーズが自分の実家のベジューランダ伯爵領の食べ物に固執したことが、結果的にヴァイオレットを守っていたわけだから、ゼルニエ侯爵夫人が本当に何を意図していたかは、分からなくなるな」

「もしかすると……最後にソフィー妃が言いかけた言葉だ。『あなたの身近に本当の敵がいる』それは、思わぬ身近な人が本当の敵だと言っているのではないか?シャーロットおばさまなら、思わぬ身近な人だな」

 純斗がハッとした様子で言った。

 純斗はすっかりレキュール辺境伯のような話っぷりだった。助手席から私たちを時折振り返って見るマネージャーは、胡散臭いものを見つめるような目で私たちを見ている。何かの素人芝居に純斗を巻き込んでいると疑っていそうだ。

「彼女に動機はあるのだろうか」

「動機ゼルニエ侯爵夫人の高祖父はリチャード4世だ。父の国王陛下が死んで、ヒューが死んで、アルフレッドが死ぬと……ボアルネハルトの王位継承権第一位はゼルニエ侯爵夫人になる。僕はアルフレッドが僕の死を願うとは思えない」

 ハンサムな爽やか青年はシャツのネクタイを緩めながら、遠くを見つめながら言った。魔導師ジーニンはじっと黙って、皆の話を聞いている。黒いワゴン車の外がまるで馬車道であるかのように、皆が中世の前世にどっぷりハマった会話を繰り広げていた。

 私は目をつぶった。今頃、ヴァイオレットはカール大帝から逃げ延びただろうか。しかし、シャーロットおばさまが怪しいとなると、バリドン公爵邸に戻っても危ない。

「ジーニン、いますぐにやりなそう」

 爽やかな美青年が言った。

「そうしよう!」

 純斗も魔導師ジーニンにそう言った。そして助手席のマネージャーに切羽詰まった様子で声をかけた。

「マネージャー、ごめんなさい。まだ時間の猶予はあるよね?現場に30分到着が遅れると伝えてくれないかな。今日の俺の撮影はもっと遅くでもいいはずだから」

 助手席のマネージャーは振り向いて、純斗の顔をじっと見たが、仕方ないと言った様子でうなずいた。

「オーケー」
「マネージャー、ありがとう!運転手さん、そこで車を停めてくれる?」

 純斗は少し先に行った先のコンビニの駐車場を運転手さんに指定していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...