【完結】傷物の姫 妃選抜の儀の最下位者ですが、若君、あなたは敵ではなかったのですか?

西野歌夏

文字の大きさ
48 / 66
春の宵の恋煩い編

陰謀① 爛々の優琳姫Side

しおりを挟む
 鷹宮さまは花蓮姫がお好き。
 美梨の君も花蓮姫がお好き。
 おそらく……。


 あぁ、多分そうよ。きっと美梨の君も花蓮姫に惚れていらっしゃるわ。
 ほぼ間違いないわ……。


 私は美味しい酒のことを思ってため息が出た。いや、恋が実らないことを思ってため息が出たのだ。


 長く美しい髪を持ってしても、自慢の刺繍をこれみよがしに見せびらかしても、爛々らんらんの家の二の姫である私には、勝ち目がない。


 おそらく……。
 おそらく……。
 私は美梨の君にも全く愛されないのよ。
 鷹宮さまにはお情けで娶っていただけるだろうか?

 いや、無理だろう。
 花蓮姫にぞっこんでらっしゃるのだから。


優琳ゆうりん姫さま。今宵のお支度のお酒でございますが」


 物憂げに恋の病に伏せる風の私に、侍女の寧凪ねいなが話しかけてきた。まあるい顔にエクボを浮かべて、私の様子を見つめている。

 今、切ないため息をついている真っ最中の私に聞いてきているわけ?
 いい度胸をしているわ。

「今宵は花蓮さまとお約束したので、お酒は極上のものでもてなすわ」
「ならば、鷹宮さまも今宵はこちらにいらっしゃいますでしょうか」

「それは……は……あぁ、あの2人はいとも簡単に相思相愛になりやがって」
「はい?今なんとおっしゃいました?」


 あっいけない!
 心の声がダダ漏れだわ。


「なんでもないわ。鷹宮さまもいらっしゃるかしら?どうでしょうねぇ」

 私は首をかしげた。

「美梨の君をお呼びしますでしょうか?」
「いいわねぇ、いいわ!」

 寧凪の提案に私は載った。


 どうせ美梨の君は、心の中にいらっしゃる花蓮さまのことが忘れられないでしょうし、私が極上のお酒でお誘いすれば、傷心の美梨の方は来てくださるかもしれないわ……。


 我が爛々らんらんの家の醸造蔵は御咲の国随一だ。


 肉厚な体。
 この可愛らしい童顔。
 ぽってりとした唇。
 完璧な化粧。
 胸元が大きく開いた美しい衣。
 そして。

 極上のお酒!

 そこに花火。
 月夜に輝く雪。

 完璧だわ……!

 美梨の君をお慰めするには、完璧な天蝶節の夜だわ。


 完璧過ぎるかも……。


 あとで、後宮の春の宮に極上のお酒を私から届けさせましょう。

 少し前だが。選抜の儀の吏部尚書を担当していた髭面の芦杏ろあんが酒を振る舞って、死に追いやろうとした事件もあることだから、花蓮姫はきっと吏部尚書が配給する酒は飲まないはずだ。


 花蓮さまへのお酒は、私の使いが直接届けた方が良いだろう。


 鷹宮さまと花蓮姫は、きっと春の宮で2人っきりで花火を見て素晴らしい夜を過ごすでしょ?

 なら、私は美梨の君と……。
 そうね、そうね、それが良いわ。

 私はウキウキした気持ちになり、失意の美梨の君をお慰めするために、今宵の花火の席を準備することにした。

 なぜか選抜の儀の最中であっても、美梨の君との飲食は皇帝より許されていたのだ。


 鷹宮さまのご親友だからかしら?


 私はその理由をよく知らない。
 だが深く突っ込んで聞き回って、美梨の君が前宮から出禁になっては困る。


 私は頭をふるふると振って気を取り直して、花火がよく見える場所を探そうと、白蘭梅棟の中を歩き回ることにした。



 私は選抜の儀第4位だ。
 爛々の家の優琳姫ゆうりんひめだ。

 選抜の儀第5位は少々年増の猛々もうもうの家の呵楪かちょう姫だ。広々とした白蘭梅棟は、爛々の家と猛々の家が使っている。


 私は18歳で、第5位の呵楪姫かちょうひめは26歳だ。

 8つも違う立派なお姉様である呵楪姫かちょうひめは癖の強い姫で、色気だけなら優勝という姫だ。


 どこもかしこも艶かしくて大人っぽい。
 いや、もう大人なのだけれど……。


 何せ、本気で鷹宮さまに惚れている。


 前宮は鷹宮さまに本気で惚れている姫ばかりで溢れているが、その姫たちの中にあっても彼女は格別な姫だ。機会さえがあれば、呵楪かちょう姫は肌の露出で誘惑しようとするのだから。

 非常に上品な露出ではあるのだけれど。


 とにかく、何がなんでも第4妃までのいずれかに選ばれたいと躍起になっているのが、呵楪かちょう姫だ。



「いちゃいちゃしちゃって……頭にくるわ」

 
 小さな声が聞こえて、ビクッとして立ち止まった私は周囲を見渡した。

 どこから声がした?
 私の心の中が漏れた?


 きょろきょろ周囲を見渡す私に声が再び聞こえた。


「ここよ」


 艶っぽい気だるそうな声がして、私は見上げた。張り出した二階の欄干から両肩を露わにして長い髪を風に靡かせた呵楪姫の姿を見つけた。


「お寒くないですかっ!?」


 私は慌てて二階に走るようにして廊下を移動して、階段を上がった。


 私は少々体が丸く重いので、階段を上がると息が切れた。


「まったくこれほど色っぽい姫をないがしろにするとはね……」


 呵楪かちょう姫は流し目で私を見つめて微笑んだ。

「私を誘惑してどうするんですかっ!?早く肩を隠してくださいましっ!誰かに見られたらどうするのですっ!そのお体は鷹宮様だけにお見せするもので……」
「あぁん、どうせ見てくれないじゃないっ!」


 間髪入れずに、膨れっ面で呵楪かちょう姫は私に言った。いらいらされているようだ。

 私にスッと近づいてきて、私の二重顎を指で持ち上げて囁いた。


「鷹宮さまは末席の姫に夢中だわ。私はここでこの美しい体を持て余してこの春を待ちわびているのよ。ちょっとぐらい誰かに見られたっていいじゃない?」


 私はビクッとして後ろに後ずさった。


「だからって私に見せつけなくても。呵楪かちょう様の色気にはドギマギしますわ……」
「あはっ」

 呵楪かちょう姫は笑うと欄干に斜めに体を預けて挑発的な姿勢で私を見つめていたのをやめてくれた。そして、両肩を羽衣のような鮮やかな衣で包んで隠した。


 私はほっとしてためい息をついた。


「嬉しいわ。優琳姫ゆうりんひめは本当のことを言ってくれて」

少し頬を赤らめて私を見つめて言った呵楪かちょう姫を不覚にも可愛らしいと思ってしまった。いや、元から美しい人なのだ。


 色気が凄過ぎるのだけれど。

 だが、こんなに艶っぽくて色っぽいのに、鷹宮さまは呵楪姫かちょうひめには見向きもしなかった。


「残酷よねぇ」


 呵楪かちょう姫はゆっくりとそう呟くと、静かに雪の積もった桃の花を見つめた。鮮やかなピンク色の花に真っ白い雪が重なり、美しく清純な体を真っ白い貞操観念で包む姫たちの姿と重なる。


「あなた、5月まで無事に乗り切ったら、何をするおつもり?」


 唐突に呵楪姫に聞かれて、私は正直に答えた。


「鷹宮さまの第4位に選ばれるのが私の目標なのです」
「まぁ、可愛い」
「だから、呵楪さまと私は揃って後宮入りですよ。そうなったら、私たちはずっと一生後宮で共に過ごすのです。お子をもうけて……鷹宮さまが振り向いてくださらない時は私がお慰めいたしますわ」


「それ本気?」


 私は迫ってきた呵楪かちょう姫の艶っぽさにドギマギしながら、うなずいた。


「可愛いいこと言うじゃない」

 私はふわりと抱きしめられた。いい匂いで何だか良い気分だ。


「一緒に今晩お酒を飲みますか?」
「いいわよ。花火を愛でましょ。あなた、本気で可愛いわよ」


 きゃっ!

 ど……っどういう色気でそんなセリフを?

 いやっ……。
 ちょっとこっちが恥ずかしいじゃない。


 長い髪を風に靡かせて、ふっと笑みを浮かべて私に微笑んだ呵楪姫は、くどいているように私に接近して囁いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛げのない令嬢は甘やかされ翻弄される

よしゆき
恋愛
両親に可愛がられず、甘え方を知らず、愛嬌のない令嬢に育ったアルマ。彼女には可愛らしく愛嬌のある自分とは正反対の腹違いの妹がいた。  父に決められた婚約者と出会い、彼に惹かれていくものの、可愛げのない自分は彼に相応しくないとアルマは思う。婚約者も、アルマよりも妹のリーゼロッテと結婚したいと望むのではないかと考え、身を引こうとするけれど、そうはならなかった話。

あなたは私を愛さない、でも愛されたら溺愛されました。

桔梗
恋愛
結婚式当日に逃げた妹の代わりに 花嫁になった姉 新郎は冷たい男だったが 姉は心ひかれてしまった。 まわりに翻弄されながらも 幸せを掴む ジレジレ恋物語

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

旦那様が素敵すぎて困ります

秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです! ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。

結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!? 本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。

女騎士と鴉の秘密

はるみさ
恋愛
騎士団副団長を務める美貌の女騎士・シルヴィ。部下のマリエルを王都に連れ帰ってきたのは魔女の息子・エアロだった。惹かれ合う二人だが、シルヴィが城へ行くと、エアロの母である魔女には目も合わせて貰えず…。 ※拙作『団長と秘密のレッスン』に出て来るシルヴィとエアロの話です。前作を読んでいないと、内容が分からないと思います。 ※ムーンライトノベル様にも掲載しています。

記憶喪失のフリをしたら夫に溺愛されました

秋月朔夕
恋愛
フィオナは幼い頃から、自分に冷たく当たるエドモンドが苦手だった。 しかしある日、彼と結婚することになってしまう。それから一年。互いの仲は改善することなく、冷えた夫婦生活を送っていた。 そんなある日、フィオナはバルコニーから落ちた。彼女は眼を覚ました時に、「記憶がなくなった」と咄嗟にエドモンドに嘘をつく。そのことがキッカケとなり、彼は今までの態度は照れ隠しだったと白状するが、どんどん彼の不穏さが見えてくるようになり……。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

処理中です...