【完結】傷物の姫 妃選抜の儀の最下位者ですが、若君、あなたは敵ではなかったのですか?

西野歌夏

文字の大きさ
49 / 66
春の宵の恋煩い編

陰謀② 爛々の優琳姫Side

しおりを挟む
 話題を変えようと必死に周囲に目をやって目を凝らした私は、一瞬奇妙なものを見た気がして、ハッとした。


 私は目が良い。
 だが、呵楪かちょう姫はもっと良い。猛々の家の遺伝であると聞いた事がある。


 子供の頃に見たらしいのだが、遠目からでも鷹宮の本気の凛々しさ、美しさが分かったと、よく話していた。


「姫さま、あちらをご覧になって!?」


 私は顔を寄せて小声で囁いた。


「どこよ?」
「あちらです。松羽宮のさらに向こうに五色の兵たちが大挙して歩いていますでしょう?」


 その後ろを最近やってきた奏山らしき人影が追っている。

魅惑的な顔が一瞬で般若の表情になった呵楪姫は、欄干から身を乗り出して鷹のような眼差しでその様子を見た。


「でも、なんだが五色の兵の顔つきがおかしいわ。法術にでもかけられたみたいに変だわ。時鷹さまが今日は宮廷にいらしているわ……。永鷹さまのお誕生日だから」


 呵楪姫は風で肩にかけた羽織がずれて、また肩がむき出しになるのも構わずに身を乗り出してじっと見つめていた。


 そういえば、先ほどから少し先の近くの青桃菊棟で侍女や家付の男衆がバタバタと走り回っている。夜々の家の者たちのようだが、何が起きたのかよく分からない。


 と思えば、たった今青桃菊棟の前に車がついた。車の中から侍女2人が出てきた。

 そのうち1人は……。


 あれ?
 誰?


邑珠ゆじゅ姫?」
「今世最高美女」


 呵楪姫と私は同時に言った。
 

「何かあったのね?」
「あんな格好をしているとは……もしかして、身分を隠して街に出た!?」


 私と呵楪姫は手を取り合った。


「今世最高美女が街に出たのならば、私たちも……!?」

私たちはそんな浮き足だった期待に胸を弾ませて、互いの両手を握りあったが、すぐに五色の兵のことを思い出して我に返った。


 天蝶節に先帝と現皇帝、世継ぎである鷹宮が一堂に会す。今日は特別な日だからだ。だからこそ、五色の兵の動きがおかしいのは絶対に伝えるべきだ。

 
「まずいわ」
「知らせる相手は皇帝よね」
「そうね。鷹宮さまは今日はまだ見ていないわ」


 でもどうやって皇帝まで伝えるの!?


「馬?」
「どこの?」

 車置き場の近くに厩もある。


「あなた、馬に乗れるかしら?宮廷を馬でかけるなんて、相当なことだけれど……」


 その時だ。

「しっ静かに」


 小さな声で呵楪かちょう姫は私に黙るように合図をした。人差し指を唇に押し当てている。


「あれは鷹宮さま?」


 呵楪かちょう姫の視線の先に、青桃菊棟を訪れようとしている鷹宮さまのお姿を見つけて、私たちは無言になった。お顔は鷹宮さまだが、なぜか頭巾をかぶっていた。


 隠れて今世最高美女に会いにいらしたの?


 私たち2人は顔を見合わせた。


「いつの間にあのお2人?」

「いや、ちょっと待って。私たちはすぐに五色の兵の異変を鷹宮さまにお伝えせねばなりませんわ」


 私がそう言うと同時に、私たちは階段を降りて白蘭梅棟を飛び出した。


 私たち2人が息を弾ませて、鷹宮さまの所まで全力疾走した時、雪の残る前宮で恋の煌めきを見た気がした。


 そこで、今世最高美女と鷹宮さまが2人だけの会話をしていたのだ。


 青桃菊棟の前に鷹宮さまが立っていて、そのすぐ横に着替えたらしい邑珠ゆじゅ姫が立っていた。なぜか2人は互いを眩しそうに見つめていた。



 低い声が聞こえて、私たちは飛び上がりそうになった。鷹宮さまのお声とまるで違ったからだ。


 呵楪かちょう姫と私は息を飲んだ。

 え?


邑珠ゆじゅ姫、私の正体はあなたの思う人で合っている」


 私たちは五色の兵の事を報告すべきか、躊躇した。私たちに気づいた邑珠ゆじゅ姫は私と呵楪かちょう姫に恥ずかしそうに言った。


「こちらは、秦野谷国の花武皇子けいむおうじですわ」

 今世最高美女の邑珠ゆじゅ姫は美しいお顔をポッと赤らめて、それはそれは見惚れてしまうほどの可愛らしさを見せて、鷹宮さまそっくりの方を紹介してくれた。

 ただ、邑珠ゆじゅ姫が言った言葉に凍りついた。


激奈龍げきなんりゅうが悪巧みをしかけてきているわ。鷹宮さま暗殺を謀っているわ。非常事態よ」


 私たちは絶句した。

 なんですってっ!?


「鷹宮のフリをしてここまで来たんだが、先の皇帝と永鷹さまが危ない。あなたたちは宮中を案内できますか?」


 鷹宮さまそっくりのその方は低い声で私たちに尋ねた。


 鷹宮さまのフリをした?
 なんと大それたことを……。
 鷹宮さま暗殺を激奈龍は仕掛けている!?



 私の入内は、予期せぬ展開になったようだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

可愛げのない令嬢は甘やかされ翻弄される

よしゆき
恋愛
両親に可愛がられず、甘え方を知らず、愛嬌のない令嬢に育ったアルマ。彼女には可愛らしく愛嬌のある自分とは正反対の腹違いの妹がいた。  父に決められた婚約者と出会い、彼に惹かれていくものの、可愛げのない自分は彼に相応しくないとアルマは思う。婚約者も、アルマよりも妹のリーゼロッテと結婚したいと望むのではないかと考え、身を引こうとするけれど、そうはならなかった話。

あなたは私を愛さない、でも愛されたら溺愛されました。

桔梗
恋愛
結婚式当日に逃げた妹の代わりに 花嫁になった姉 新郎は冷たい男だったが 姉は心ひかれてしまった。 まわりに翻弄されながらも 幸せを掴む ジレジレ恋物語

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

旦那様が素敵すぎて困ります

秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです! ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。

結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!? 本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。

女騎士と鴉の秘密

はるみさ
恋愛
騎士団副団長を務める美貌の女騎士・シルヴィ。部下のマリエルを王都に連れ帰ってきたのは魔女の息子・エアロだった。惹かれ合う二人だが、シルヴィが城へ行くと、エアロの母である魔女には目も合わせて貰えず…。 ※拙作『団長と秘密のレッスン』に出て来るシルヴィとエアロの話です。前作を読んでいないと、内容が分からないと思います。 ※ムーンライトノベル様にも掲載しています。

処理中です...