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春の宵の恋煩い編
陰謀② 爛々の優琳姫Side
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話題を変えようと必死に周囲に目をやって目を凝らした私は、一瞬奇妙なものを見た気がして、ハッとした。
私は目が良い。
だが、呵楪姫はもっと良い。猛々の家の遺伝であると聞いた事がある。
子供の頃に見たらしいのだが、遠目からでも鷹宮の本気の凛々しさ、美しさが分かったと、よく話していた。
「姫さま、あちらをご覧になって!?」
私は顔を寄せて小声で囁いた。
「どこよ?」
「あちらです。松羽宮のさらに向こうに五色の兵たちが大挙して歩いていますでしょう?」
その後ろを最近やってきた奏山らしき人影が追っている。
魅惑的な顔が一瞬で般若の表情になった呵楪姫は、欄干から身を乗り出して鷹のような眼差しでその様子を見た。
「でも、なんだが五色の兵の顔つきがおかしいわ。法術にでもかけられたみたいに変だわ。時鷹さまが今日は宮廷にいらしているわ……。永鷹さまのお誕生日だから」
呵楪姫は風で肩にかけた羽織がずれて、また肩がむき出しになるのも構わずに身を乗り出してじっと見つめていた。
そういえば、先ほどから少し先の近くの青桃菊棟で侍女や家付の男衆がバタバタと走り回っている。夜々の家の者たちのようだが、何が起きたのかよく分からない。
と思えば、たった今青桃菊棟の前に車がついた。車の中から侍女2人が出てきた。
そのうち1人は……。
あれ?
誰?
「邑珠姫?」
「今世最高美女」
呵楪姫と私は同時に言った。
「何かあったのね?」
「あんな格好をしているとは……もしかして、身分を隠して街に出た!?」
私と呵楪姫は手を取り合った。
「今世最高美女が街に出たのならば、私たちも……!?」
私たちはそんな浮き足だった期待に胸を弾ませて、互いの両手を握りあったが、すぐに五色の兵のことを思い出して我に返った。
天蝶節に先帝と現皇帝、世継ぎである鷹宮が一堂に会す。今日は特別な日だからだ。だからこそ、五色の兵の動きがおかしいのは絶対に伝えるべきだ。
「まずいわ」
「知らせる相手は皇帝よね」
「そうね。鷹宮さまは今日はまだ見ていないわ」
でもどうやって皇帝まで伝えるの!?
「馬?」
「どこの?」
車置き場の近くに厩もある。
「あなた、馬に乗れるかしら?宮廷を馬でかけるなんて、相当なことだけれど……」
その時だ。
「しっ静かに」
小さな声で呵楪姫は私に黙るように合図をした。人差し指を唇に押し当てている。
「あれは鷹宮さま?」
呵楪姫の視線の先に、青桃菊棟を訪れようとしている鷹宮さまのお姿を見つけて、私たちは無言になった。お顔は鷹宮さまだが、なぜか頭巾をかぶっていた。
隠れて今世最高美女に会いにいらしたの?
私たち2人は顔を見合わせた。
「いつの間にあのお2人?」
「いや、ちょっと待って。私たちはすぐに五色の兵の異変を鷹宮さまにお伝えせねばなりませんわ」
私がそう言うと同時に、私たちは階段を降りて白蘭梅棟を飛び出した。
私たち2人が息を弾ませて、鷹宮さまの所まで全力疾走した時、雪の残る前宮で恋の煌めきを見た気がした。
そこで、今世最高美女と鷹宮さまが2人だけの会話をしていたのだ。
青桃菊棟の前に鷹宮さまが立っていて、そのすぐ横に着替えたらしい邑珠姫が立っていた。なぜか2人は互いを眩しそうに見つめていた。
低い声が聞こえて、私たちは飛び上がりそうになった。鷹宮さまのお声とまるで違ったからだ。
呵楪姫と私は息を飲んだ。
え?
「邑珠姫、私の正体はあなたの思う人で合っている」
私たちは五色の兵の事を報告すべきか、躊躇した。私たちに気づいた邑珠姫は私と呵楪姫に恥ずかしそうに言った。
「こちらは、秦野谷国の花武皇子ですわ」
今世最高美女の邑珠姫は美しいお顔をポッと赤らめて、それはそれは見惚れてしまうほどの可愛らしさを見せて、鷹宮さまそっくりの方を紹介してくれた。
ただ、邑珠姫が言った言葉に凍りついた。
「激奈龍が悪巧みをしかけてきているわ。鷹宮さま暗殺を謀っているわ。非常事態よ」
私たちは絶句した。
なんですってっ!?
「鷹宮のフリをしてここまで来たんだが、先の皇帝と永鷹さまが危ない。あなたたちは宮中を案内できますか?」
鷹宮さまそっくりのその方は低い声で私たちに尋ねた。
鷹宮さまのフリをした?
なんと大それたことを……。
鷹宮さま暗殺を激奈龍は仕掛けている!?
私の入内は、予期せぬ展開になったようだ。
私は目が良い。
だが、呵楪姫はもっと良い。猛々の家の遺伝であると聞いた事がある。
子供の頃に見たらしいのだが、遠目からでも鷹宮の本気の凛々しさ、美しさが分かったと、よく話していた。
「姫さま、あちらをご覧になって!?」
私は顔を寄せて小声で囁いた。
「どこよ?」
「あちらです。松羽宮のさらに向こうに五色の兵たちが大挙して歩いていますでしょう?」
その後ろを最近やってきた奏山らしき人影が追っている。
魅惑的な顔が一瞬で般若の表情になった呵楪姫は、欄干から身を乗り出して鷹のような眼差しでその様子を見た。
「でも、なんだが五色の兵の顔つきがおかしいわ。法術にでもかけられたみたいに変だわ。時鷹さまが今日は宮廷にいらしているわ……。永鷹さまのお誕生日だから」
呵楪姫は風で肩にかけた羽織がずれて、また肩がむき出しになるのも構わずに身を乗り出してじっと見つめていた。
そういえば、先ほどから少し先の近くの青桃菊棟で侍女や家付の男衆がバタバタと走り回っている。夜々の家の者たちのようだが、何が起きたのかよく分からない。
と思えば、たった今青桃菊棟の前に車がついた。車の中から侍女2人が出てきた。
そのうち1人は……。
あれ?
誰?
「邑珠姫?」
「今世最高美女」
呵楪姫と私は同時に言った。
「何かあったのね?」
「あんな格好をしているとは……もしかして、身分を隠して街に出た!?」
私と呵楪姫は手を取り合った。
「今世最高美女が街に出たのならば、私たちも……!?」
私たちはそんな浮き足だった期待に胸を弾ませて、互いの両手を握りあったが、すぐに五色の兵のことを思い出して我に返った。
天蝶節に先帝と現皇帝、世継ぎである鷹宮が一堂に会す。今日は特別な日だからだ。だからこそ、五色の兵の動きがおかしいのは絶対に伝えるべきだ。
「まずいわ」
「知らせる相手は皇帝よね」
「そうね。鷹宮さまは今日はまだ見ていないわ」
でもどうやって皇帝まで伝えるの!?
「馬?」
「どこの?」
車置き場の近くに厩もある。
「あなた、馬に乗れるかしら?宮廷を馬でかけるなんて、相当なことだけれど……」
その時だ。
「しっ静かに」
小さな声で呵楪姫は私に黙るように合図をした。人差し指を唇に押し当てている。
「あれは鷹宮さま?」
呵楪姫の視線の先に、青桃菊棟を訪れようとしている鷹宮さまのお姿を見つけて、私たちは無言になった。お顔は鷹宮さまだが、なぜか頭巾をかぶっていた。
隠れて今世最高美女に会いにいらしたの?
私たち2人は顔を見合わせた。
「いつの間にあのお2人?」
「いや、ちょっと待って。私たちはすぐに五色の兵の異変を鷹宮さまにお伝えせねばなりませんわ」
私がそう言うと同時に、私たちは階段を降りて白蘭梅棟を飛び出した。
私たち2人が息を弾ませて、鷹宮さまの所まで全力疾走した時、雪の残る前宮で恋の煌めきを見た気がした。
そこで、今世最高美女と鷹宮さまが2人だけの会話をしていたのだ。
青桃菊棟の前に鷹宮さまが立っていて、そのすぐ横に着替えたらしい邑珠姫が立っていた。なぜか2人は互いを眩しそうに見つめていた。
低い声が聞こえて、私たちは飛び上がりそうになった。鷹宮さまのお声とまるで違ったからだ。
呵楪姫と私は息を飲んだ。
え?
「邑珠姫、私の正体はあなたの思う人で合っている」
私たちは五色の兵の事を報告すべきか、躊躇した。私たちに気づいた邑珠姫は私と呵楪姫に恥ずかしそうに言った。
「こちらは、秦野谷国の花武皇子ですわ」
今世最高美女の邑珠姫は美しいお顔をポッと赤らめて、それはそれは見惚れてしまうほどの可愛らしさを見せて、鷹宮さまそっくりの方を紹介してくれた。
ただ、邑珠姫が言った言葉に凍りついた。
「激奈龍が悪巧みをしかけてきているわ。鷹宮さま暗殺を謀っているわ。非常事態よ」
私たちは絶句した。
なんですってっ!?
「鷹宮のフリをしてここまで来たんだが、先の皇帝と永鷹さまが危ない。あなたたちは宮中を案内できますか?」
鷹宮さまそっくりのその方は低い声で私たちに尋ねた。
鷹宮さまのフリをした?
なんと大それたことを……。
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私の入内は、予期せぬ展開になったようだ。
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