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1. 標的の選別 時は数億年先の地球

第19話 初めてのデートは中世ヨーロッパで

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 はげしく体がふるえてしまってうまく話せない。
 ふ、ふ、ふゆのザルツブルクの雪に、お、お、われた、ホ、ホ、ホーエンザルツブルク城。

 私はガタガタふるえる中で帝にそう伝えた。びしょれのまま、いきなり雪の中世ヨーロッパに召喚しょうかんされてしまったのだ。こごえ死にそうに寒い。

 辺りには雪が白く美しい降りつもった景色が広がっている。山々や湖に囲まれたこの街には何度かゲームで召喚されていたので、私は知っていた。

「ザルツブルク?」
 帝は、呆然ぼうぜんとしたご様子でそう言った。



 ここまでの経緯いきさつはこうだ。
 私と五右衛門さん貴和豪一門きわごういちもんの忍びに襲われて、たいそう美しい牡丹ぼたんという忍びの機転で救われた。私と五右衛門さんは、なんとか下流に逃げ切って様子を見て川からがった。そして草やぶに隠れていた。

 そこへ、バサバサとつばさがはためく音がした。空からプテラノドンと、帝と名乗る若い二十歳ぐらいと思える若君わかぎみがやってきた。きらびやかでうるわしいのだけれども、二十一歳前後の若君がまとう衣装としては、なかなか派手な部類ぶるいに入るいでたちだった。

 卒倒そっとうしそうな次元の凛々りりしさ。そう私は心の中で思った。

 私と五右衛門さんは、貴和豪一門に襲われたばかりだったので、最初は帝だと信じられなかった。

「しでかしたのか知っている、と言うべきだな。」
 強い嫌味いやみがにじみ出る、「し」を強調した特別な話し方をする帝の言葉を聞いて、城でお会いした帝と同一人物だとようやく理解できたのだ。


 私がお妃候補だからと助けに来てくれたという帝に、くずれそうになるほど赤面せきめんした矢先、偶然にも帝と一緒にゲームに召喚されてしまった。


 なんとか、ふるえを抑えこんで私はくり返した。
「帝、こちらは中世ヨーロッパです。冬のザルツブルクです。」
 私の横で、帝は呆然と当たりを見渡している。

「なんと!ゲームの中か?」
太古たいこの地球か?」
「私ははるか古代の地球にやって来たのか!」
 帝は涙をにじませて震える声で立て続けにそう言った。顔が喜びに輝いている。

 と私は初めて帝のことを思った。

「そうですけれども、すぐに役目を果たさなければなりません。」
役目やくめ?」

 私は一瞬でずぶ濡れのプテラノドンになりすましの術で変身した。

「見事だ。」
 帝が、私をめた。

 その瞬間に、数メートル先からゲームの参加者である颯介が飛び出してきて、私と帝はびくりとした。

「おーい、プテラ!待っていたよ!」
「え、誰?」
 ゲーム参加者の颯介は、私の隣に立っている特別仕立とくべつしたての忍び服を着た帝を見て、ぱたりと立ち止まった。

「めっちゃイケメン。80年代アイドル?」
 颯介が小さく、そうつぶやくのが聞こえた。

 これが、帝にとっては、ゲームに召喚された初めての体験だった。


 この話はのちほどしるすけれども、遠い遠い異国で私たちは少しだけ距離がちぢまった。
 しかも、帝からは、意外なことを言われて私は動揺どうようした。
 「。」と言われたのでございます!

 異国のドレスを着た人々に挟まれて、忍び服の私たち二人は心細かった。その結果、互いに寄りって行動するしかなかった。
 そして、雪のホーエンザルツブルク城で、二人で暖かい飲みものをいただいた。それは、忘れられない生涯最高しょうがいさいこうに暖かい飲み物だった。
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