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3 浮気はしないでね
始まり(3)
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「ここでやめられるの……?」
――本心はやめたくないですわ……。
「やめたくないですけれど、やめなければならないのです。私たちにはまだやるべきことが残っていますから」
氷の貴公子はガックリと肩を落とした。
だが、すぐに建て直した。
「最も早くザヴォー・ストーンに着くには……寝台列車になる。馬車だと時間が倍以上かかるから」
私は車椅子で病室で悲嘆に暮れた時のことを思い出した。結婚発表の時に衣装に合わないからと外すように言われた時計がドレスの内側に隠してあった。その時計を私は腕にはめなおした。
「まだ終わっていませんわ……アリス・ブレンジャーとジャックを連れて、魔力解体呪文を念の為に発動してから、寝台列車に乗りましょう。ウォーターミー駅での発車時刻を先ほど実は調べたのです……あと二時間後に駅を出発するのです」
「さすが、俺の妻になる人だ」
シャム猫のユーリーが私にすり寄ってきた。
「もちろん、あなたも連れて行くわ」
アルベルト王太子は急いで身支度をした。私もシャーロットが待つ自分の客室に戻った。
部屋に入ると、まあるいほっぺを膨らませてもぐもぐ苺を食べていたシャーロットは、私を見るなりごくんと口の中のものを飲み込んだ。
「準備はできてますぅ!」
結婚発表を影で見ながら泣いていたシャーロットの足元には、旅行かばんが置いてあった。
「王妃様にお願いしたら、お嬢様に合いそうなものを朝から手配してくれていたのです。でも、寮に一度戻れたら……その……」
「シャーロットの荷物よね、当然持ってきましょう。アリス・ブレンジャーは少し前に学院に戻ったから、一緒に来て欲しいとお願いするために学院に立ち寄るから大丈夫よ」
***
こうして私たちは聖ケスナータリマーガレット第一女子学院までアリスを迎えにやってきたのだ。そして華やかなレディたちの熱狂的な歓迎に遭遇していた。
急いでシャーロットとレイチェルが旅行カバンを持って戻ってきた。
「水着も荷物に入れました」
「ありがとう、レイチェル」
アリスはご機嫌で、ブルーの瞳をキラキラさせていた。黒髪は綺麗に結い上げられている。泳いだら髪も乱れるが、アリスは全く気にしないだろう。
駅までの馬車には、アリス、私、アルベルト王太子、シャーロットが一緒に乗り、ジャックとレイチェルは護衛の者たちと後ろの馬車に乗り込んだ。
シャーロットのバスケットは皆のおやつ箱になっており、私が地図を見ている間、当たり前のように氷の貴公子とアリスとシャーロットが私のすぐ隣や前でもぐもぐ食べていた。
ハイド・パークの周りの大きな通りを馬車は急いで走っていた。
紳士や貴族令嬢たちの散歩コースで多くの人々が歩いていた。彼らは王家の紋章付きの馬車に手を振ってくれていた。街中で氷の貴公子と私の結婚が話題になっているのだ。
手を振る人々に笑顔で応えているうちに、クリスから逃げようとしていたあの日の記憶が蘇った。
馬車は急いで駅に向かって通りを走っていた。
ちょうど「魔力」の供給を行う配達人が街中に配達を行う時間で、「魔力供給馬車」が忙しく配達に奔走している様をあちこちで目にした。
――正常化しているわ。
「トケーズ川上空を見て。今日は魔力が無いわ。霧のようなモヤも消えているわ」
ヴァランシエンヌ・レース越しに窓の外を確認していたアリス・ブレンジャーは満足げに言った。
ガトバン伯爵家の執事のテッドは、ザヴォー・ストーンリゾートの買い上げを父に提案しているらしかった。
先ほど結婚発表の後に父から聞かされた私は、父に意見を求められたが、迷っていた。
「お父さま、私が見てくるからそれから決めましょう」
そう一旦は答えたものの、買い上げはオズボーン公爵家が破産に追い込まれるのを助けることになるので、私は少し躊躇していた。
――クリスは私と正反対になったわ。私が一生車椅子生活になっていたのに対し、今度はクリスが寝たきりになりそうだわ……。
前世で死んだ時の修羅場を思い出した。
あの時のダンジョンで感じた現実感のある生々しい感覚が私に残っていた。前世でクリスは私を銃で撃って殺した。絶対に忘れられない感覚だ。
前回ウォーターミー駅に向かって馬車で急いでいた時、馬車の中で私は「魔力」の供給を高めてもらって、この前世の忌まわしい記憶を捨て去りたいと考えていた。
――今は違うわ。
――私は絶対に忘れてはならない気がする。
――あの悔しさがあるから、今度はクリスに一矢報いたことができた……。
――辛い記憶が逆に私を守ってくれたのだとしたら。
――そうね。おばあちゃんのことは忘れたくないわ。
――私はこのトラウマからきっと乗り越えてみせる……!
馬車は今の時代最高の一日の乗客人数を誇るウォーターミー駅に滑り込んだ。
私たちの始まりの時、出会いの場所だ。そこにもう一度やってきた。
――本心はやめたくないですわ……。
「やめたくないですけれど、やめなければならないのです。私たちにはまだやるべきことが残っていますから」
氷の貴公子はガックリと肩を落とした。
だが、すぐに建て直した。
「最も早くザヴォー・ストーンに着くには……寝台列車になる。馬車だと時間が倍以上かかるから」
私は車椅子で病室で悲嘆に暮れた時のことを思い出した。結婚発表の時に衣装に合わないからと外すように言われた時計がドレスの内側に隠してあった。その時計を私は腕にはめなおした。
「まだ終わっていませんわ……アリス・ブレンジャーとジャックを連れて、魔力解体呪文を念の為に発動してから、寝台列車に乗りましょう。ウォーターミー駅での発車時刻を先ほど実は調べたのです……あと二時間後に駅を出発するのです」
「さすが、俺の妻になる人だ」
シャム猫のユーリーが私にすり寄ってきた。
「もちろん、あなたも連れて行くわ」
アルベルト王太子は急いで身支度をした。私もシャーロットが待つ自分の客室に戻った。
部屋に入ると、まあるいほっぺを膨らませてもぐもぐ苺を食べていたシャーロットは、私を見るなりごくんと口の中のものを飲み込んだ。
「準備はできてますぅ!」
結婚発表を影で見ながら泣いていたシャーロットの足元には、旅行かばんが置いてあった。
「王妃様にお願いしたら、お嬢様に合いそうなものを朝から手配してくれていたのです。でも、寮に一度戻れたら……その……」
「シャーロットの荷物よね、当然持ってきましょう。アリス・ブレンジャーは少し前に学院に戻ったから、一緒に来て欲しいとお願いするために学院に立ち寄るから大丈夫よ」
***
こうして私たちは聖ケスナータリマーガレット第一女子学院までアリスを迎えにやってきたのだ。そして華やかなレディたちの熱狂的な歓迎に遭遇していた。
急いでシャーロットとレイチェルが旅行カバンを持って戻ってきた。
「水着も荷物に入れました」
「ありがとう、レイチェル」
アリスはご機嫌で、ブルーの瞳をキラキラさせていた。黒髪は綺麗に結い上げられている。泳いだら髪も乱れるが、アリスは全く気にしないだろう。
駅までの馬車には、アリス、私、アルベルト王太子、シャーロットが一緒に乗り、ジャックとレイチェルは護衛の者たちと後ろの馬車に乗り込んだ。
シャーロットのバスケットは皆のおやつ箱になっており、私が地図を見ている間、当たり前のように氷の貴公子とアリスとシャーロットが私のすぐ隣や前でもぐもぐ食べていた。
ハイド・パークの周りの大きな通りを馬車は急いで走っていた。
紳士や貴族令嬢たちの散歩コースで多くの人々が歩いていた。彼らは王家の紋章付きの馬車に手を振ってくれていた。街中で氷の貴公子と私の結婚が話題になっているのだ。
手を振る人々に笑顔で応えているうちに、クリスから逃げようとしていたあの日の記憶が蘇った。
馬車は急いで駅に向かって通りを走っていた。
ちょうど「魔力」の供給を行う配達人が街中に配達を行う時間で、「魔力供給馬車」が忙しく配達に奔走している様をあちこちで目にした。
――正常化しているわ。
「トケーズ川上空を見て。今日は魔力が無いわ。霧のようなモヤも消えているわ」
ヴァランシエンヌ・レース越しに窓の外を確認していたアリス・ブレンジャーは満足げに言った。
ガトバン伯爵家の執事のテッドは、ザヴォー・ストーンリゾートの買い上げを父に提案しているらしかった。
先ほど結婚発表の後に父から聞かされた私は、父に意見を求められたが、迷っていた。
「お父さま、私が見てくるからそれから決めましょう」
そう一旦は答えたものの、買い上げはオズボーン公爵家が破産に追い込まれるのを助けることになるので、私は少し躊躇していた。
――クリスは私と正反対になったわ。私が一生車椅子生活になっていたのに対し、今度はクリスが寝たきりになりそうだわ……。
前世で死んだ時の修羅場を思い出した。
あの時のダンジョンで感じた現実感のある生々しい感覚が私に残っていた。前世でクリスは私を銃で撃って殺した。絶対に忘れられない感覚だ。
前回ウォーターミー駅に向かって馬車で急いでいた時、馬車の中で私は「魔力」の供給を高めてもらって、この前世の忌まわしい記憶を捨て去りたいと考えていた。
――今は違うわ。
――私は絶対に忘れてはならない気がする。
――あの悔しさがあるから、今度はクリスに一矢報いたことができた……。
――辛い記憶が逆に私を守ってくれたのだとしたら。
――そうね。おばあちゃんのことは忘れたくないわ。
――私はこのトラウマからきっと乗り越えてみせる……!
馬車は今の時代最高の一日の乗客人数を誇るウォーターミー駅に滑り込んだ。
私たちの始まりの時、出会いの場所だ。そこにもう一度やってきた。
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