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3 浮気はしないでね
始まり(2)
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「きゃー、アルベルト様と結婚を発表されたフローラ様よ……!?」
「今日の新聞をご覧になりまして?」
「もちろんですわ、恐ろしい陰謀をお二人で協力してお止めになったとか」
「もう、昨日いらした時から素敵でしたわぁ」
「何が素敵でしたわぁ……っですよ。お気楽なことでいいですこと」
隣を歩くアリス・ブレンジャー嬢がボソボソ文句を言っている。
アルベルト王太子と私は、王家の馬車で聖ケスナータリマーガレット第一女子学院までやってきていた。アリスを迎えに来たのだ。
アリス・ブレンジャー子爵令嬢は姉であるエミリー・ブレンジャー子爵令嬢の醜聞を物ともせず、自力で次期王立魔術博物館の職位を得ようと、国王や王妃や関係者に王宮で自分の存在感を熱心にアピールしていた。
私たちが朝起きた時には既にアリスと国王はかなり打ち解けた様子で、熱心に魔力盗難犯罪に対する防御策について話し込んでいた。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。でも、このレディたちのあなたたちへの熱狂は本当にうるさ……」
ジャックが奮闘しているものの、艶やかなドレスを着た貴族令嬢たちが大勢駆け寄ってくるのが見えて、アリスは口をつぐんだ。
たじろぐほどの大熱狂に私も一瞬怯んだぐらいだ。アリスのメイドのレイチェルはすっ飛んできて、アリスのそばに張り付くようにしていた。
「アリスお嬢様、他のお嬢様たちに聞こえますわ……」
「いいのです。あの世間知らずなレディたちには聞こえた方が身のためですから。キャーってレベルでは済まないほどの貢献度なのよ、フローラ嬢は!」
息巻くようにアリスが言うので、私は思わず嬉しくなり、並んで歩くアリスを見つめた。
「あら……わたくしのことを褒めてくださるのですか?」
「えぇ、もちろんですわ。アルベルト王太子も……その……少しは見直しましたわ。あれほどフローラ嬢に夢中になられるとは思いもしなかったですわ。まぁ、もちろん私はザックリードハルトのルイ……」
「アリス・ブレンジャー子爵令嬢、次期王立魔術博物館の職位を得たければ、私からの強力な口添えも必要なのではないか?」
ザックリードハルトのルイ皇太子のことを言い出したので、氷の貴公子はグッとアリスの方に身を乗り出してそれ以上の発言を牽制した。
――ムッときていらっしゃるわ……。
「あら、あなたがドSなナルシストだということを忘れていたわ」
「なっ!」
「自分の力を誇示して私に『推し』に対する発言を止めるなんて……聖ケスナータリマーガレット第一女子学院きっての『天才』策士のわたくしであれば、自力できっと王立魔術博物館の職位を……」
「あ!ザヴォー・ストーンリゾートでは泳ぎますかぁ!?」
後ろで隠れてもぐもぐと口を動かしていシャーロットがすっ飛ん狂な声をあげて、アリスと氷の貴公子の会話に割って入った。
「シャーロット、泳ぐにはまだ早いわ。あぁ、でも温泉施設では泳げるかしら?」
アリスはシャーロットの言葉にすぐに応じた。昨晩フルーツを分けてもらってから、2人は随分打ち解けたようだ。
「私も水着を持って行くべきだわ、レイチェル?デビュタントは肌を焼くのは控えるべきだけれど屋内なら大丈夫よね」
「お嬢様、泳ぎになられるのですか?」
メイドのレイチェルは眉をひそめている。
「お嬢様ぁ、シャーロットとお嬢様の水着を寮の部屋から持ってきてもいいですかぁ?」
「もちろんよ、シャーロット!」
シャーロットが私の言葉でパァッと顔を輝かせて寮に走って行くのを見て、レイチェルも仕方ないと諦めた様子でアリスの水着を取りに走って行こうとした。
「あぁそういえば昨日キャンセルした大流行りの宮廷用女性小物店を訪ねなければ。レイチェル?私についてくるのはいいからお店での取り置きをお願いできるかしら?」
「え……他の者にお願いいたします。わたくしもその……豪華寝台列車に乗ってみたいのです」
「じゃあ、寮からあなたの荷物と私の水着を入れた荷物を持ってきてくださるかしら?」
「わかりました」
レイチェルがシャーロットの後を追って行った途端に私たちはまたレディたちの熱狂的な歓迎騒ぎに飲み込まれた。
「きゃーっフローラ様の指輪はやはり素敵ですわ!」
「氷の貴公子の心を射抜くなんて、本当に憧れですわぁ!」
アリスと氷の貴公子の話はレディたちの歓声にかき消された。
***
私は氷の貴公子の寝室で危うく貞操を失うところだった。
――いや、半分失ったような感じなのだけれど……。
――そのことを思い出すと、赤面して顔から火が出そうになるわ……。
――さっきまで私たちがお部屋でしていたことは……あれは新婚になれば一生続くことなのかしら……?
私は氷の貴公子の巧みな指と唇で翻弄されてしまった。だが、氷の貴公子の部屋の隅には先客がいたのだ。ベッドでなすがままにされそうになった時に、猫のユーリーが部屋の隅にいるのが視界に入って我に返った。
「だ……だめ……だめです……わ……まだ本物の魔力があるべき位置にないわ……偽の魔力を解体しきっていない……だめ……だめぇ……だめなの!」
私はベッドからなんとか逃げるように降りて、ドロワーズを身につけた。自分で着れる範囲でドレスを身につけ始めた。
「今すぐにザヴォー・ストーンに……あの小さな漁村に行かなければならないわ!昨晩魔力箱詰虫は正常化したから偽の魔力が配達されることはない……でもまだ偽の魔力がきっと残っているわ。だから、今日これからザヴォー・ストーンに行きましょう!」
氷の貴公子はブルーの瞳を信じられないといった様子で見開き、私を見つめた。
「今日の新聞をご覧になりまして?」
「もちろんですわ、恐ろしい陰謀をお二人で協力してお止めになったとか」
「もう、昨日いらした時から素敵でしたわぁ」
「何が素敵でしたわぁ……っですよ。お気楽なことでいいですこと」
隣を歩くアリス・ブレンジャー嬢がボソボソ文句を言っている。
アルベルト王太子と私は、王家の馬車で聖ケスナータリマーガレット第一女子学院までやってきていた。アリスを迎えに来たのだ。
アリス・ブレンジャー子爵令嬢は姉であるエミリー・ブレンジャー子爵令嬢の醜聞を物ともせず、自力で次期王立魔術博物館の職位を得ようと、国王や王妃や関係者に王宮で自分の存在感を熱心にアピールしていた。
私たちが朝起きた時には既にアリスと国王はかなり打ち解けた様子で、熱心に魔力盗難犯罪に対する防御策について話し込んでいた。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。でも、このレディたちのあなたたちへの熱狂は本当にうるさ……」
ジャックが奮闘しているものの、艶やかなドレスを着た貴族令嬢たちが大勢駆け寄ってくるのが見えて、アリスは口をつぐんだ。
たじろぐほどの大熱狂に私も一瞬怯んだぐらいだ。アリスのメイドのレイチェルはすっ飛んできて、アリスのそばに張り付くようにしていた。
「アリスお嬢様、他のお嬢様たちに聞こえますわ……」
「いいのです。あの世間知らずなレディたちには聞こえた方が身のためですから。キャーってレベルでは済まないほどの貢献度なのよ、フローラ嬢は!」
息巻くようにアリスが言うので、私は思わず嬉しくなり、並んで歩くアリスを見つめた。
「あら……わたくしのことを褒めてくださるのですか?」
「えぇ、もちろんですわ。アルベルト王太子も……その……少しは見直しましたわ。あれほどフローラ嬢に夢中になられるとは思いもしなかったですわ。まぁ、もちろん私はザックリードハルトのルイ……」
「アリス・ブレンジャー子爵令嬢、次期王立魔術博物館の職位を得たければ、私からの強力な口添えも必要なのではないか?」
ザックリードハルトのルイ皇太子のことを言い出したので、氷の貴公子はグッとアリスの方に身を乗り出してそれ以上の発言を牽制した。
――ムッときていらっしゃるわ……。
「あら、あなたがドSなナルシストだということを忘れていたわ」
「なっ!」
「自分の力を誇示して私に『推し』に対する発言を止めるなんて……聖ケスナータリマーガレット第一女子学院きっての『天才』策士のわたくしであれば、自力できっと王立魔術博物館の職位を……」
「あ!ザヴォー・ストーンリゾートでは泳ぎますかぁ!?」
後ろで隠れてもぐもぐと口を動かしていシャーロットがすっ飛ん狂な声をあげて、アリスと氷の貴公子の会話に割って入った。
「シャーロット、泳ぐにはまだ早いわ。あぁ、でも温泉施設では泳げるかしら?」
アリスはシャーロットの言葉にすぐに応じた。昨晩フルーツを分けてもらってから、2人は随分打ち解けたようだ。
「私も水着を持って行くべきだわ、レイチェル?デビュタントは肌を焼くのは控えるべきだけれど屋内なら大丈夫よね」
「お嬢様、泳ぎになられるのですか?」
メイドのレイチェルは眉をひそめている。
「お嬢様ぁ、シャーロットとお嬢様の水着を寮の部屋から持ってきてもいいですかぁ?」
「もちろんよ、シャーロット!」
シャーロットが私の言葉でパァッと顔を輝かせて寮に走って行くのを見て、レイチェルも仕方ないと諦めた様子でアリスの水着を取りに走って行こうとした。
「あぁそういえば昨日キャンセルした大流行りの宮廷用女性小物店を訪ねなければ。レイチェル?私についてくるのはいいからお店での取り置きをお願いできるかしら?」
「え……他の者にお願いいたします。わたくしもその……豪華寝台列車に乗ってみたいのです」
「じゃあ、寮からあなたの荷物と私の水着を入れた荷物を持ってきてくださるかしら?」
「わかりました」
レイチェルがシャーロットの後を追って行った途端に私たちはまたレディたちの熱狂的な歓迎騒ぎに飲み込まれた。
「きゃーっフローラ様の指輪はやはり素敵ですわ!」
「氷の貴公子の心を射抜くなんて、本当に憧れですわぁ!」
アリスと氷の貴公子の話はレディたちの歓声にかき消された。
***
私は氷の貴公子の寝室で危うく貞操を失うところだった。
――いや、半分失ったような感じなのだけれど……。
――そのことを思い出すと、赤面して顔から火が出そうになるわ……。
――さっきまで私たちがお部屋でしていたことは……あれは新婚になれば一生続くことなのかしら……?
私は氷の貴公子の巧みな指と唇で翻弄されてしまった。だが、氷の貴公子の部屋の隅には先客がいたのだ。ベッドでなすがままにされそうになった時に、猫のユーリーが部屋の隅にいるのが視界に入って我に返った。
「だ……だめ……だめです……わ……まだ本物の魔力があるべき位置にないわ……偽の魔力を解体しきっていない……だめ……だめぇ……だめなの!」
私はベッドからなんとか逃げるように降りて、ドロワーズを身につけた。自分で着れる範囲でドレスを身につけ始めた。
「今すぐにザヴォー・ストーンに……あの小さな漁村に行かなければならないわ!昨晩魔力箱詰虫は正常化したから偽の魔力が配達されることはない……でもまだ偽の魔力がきっと残っているわ。だから、今日これからザヴォー・ストーンに行きましょう!」
氷の貴公子はブルーの瞳を信じられないといった様子で見開き、私を見つめた。
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