16 / 68
第一章
皇帝の孫の昔の恋人
しおりを挟む
暖炉の前で炎を見つめていると、ラファエルがそっと部屋に入って来て、私を抱きしめてくれた。
「ジェラールはもう大丈夫だ。奴は今度こそ二度と君の前に姿を現せないよ」
ラファエルはそっと私にささやいた。
「ええ。わかっているわ」
私はうなずいた。口付けをして「今日の予定はまず、古代の言葉の学習のあとは……」と言いかけると、唇に人差し指を押されて「しーっ」とされた。
「騎士団のみんなも朝は早いから、朝一で武術の訓練をしよう。夜は言葉の学習と私と君の夫婦の時間にしよう」
ラファエルはイタズラっぽい瞳で私を見つめて甘く囁いた。最後の言葉を言いながら、ラファエルの指が私の背中をそっとさすり、私は飛び上がりそうになった。
「ええ」
恥ずかしさで真っ赤になりながら、私は同意した。
そのままベッドに二人で腰掛けて言葉の勉強をした。私の発音をいくつか訂正されながら、私が知っている隣国の言葉をベースに古代語を学ぶ。私はペンを持って書き留めていく。
言葉の発音を直されて、顎に手をかけられたと思ったら、ラファエルの唇が近づいてきて、私の唇をそっと温かく包んだ。ペンをそっと取りあげられた。
「そろそろ休もう。明日もたくさん移動するのだ」
ラファエルは低く落ち着いた声で私にささやき、私も眠りにつく前に幸せな思いでうなずき、宿屋のベッドで二人で眠りについた。
朝になって目が覚めると、窓辺に私はシーツを括りつけた。寝る前に本当は準備をしておきたかったのだけれども、昨晩はできなかったので、朝起きてから準備をしたのだ。
宿屋を抜け出して、馬で移動する時に乗る予定の馬を窓辺の下に連れてきた。白馬でとてもおとなしい馬で、エリーという名前だ。私は窓を伝って降りてきて、下で待っている馬に飛び乗る訓練をするつもりだった。
部屋に戻るとラファエルも目を覚まして身支度を整えていた。
「やるのか?」
「ええ。私は本気よ」
ラファエルは苦笑いをして階下に降りて行き、窓の外に繋がれたエリーの元に行った。ラファエルは馬の横に立ってこちらを見上げて、窓辺にいる私を見つめている。
この宿屋には花びらが丸く集まったボンザマーガレットがあちこちに咲いている。ラファエルの立つ足元のすぐ横にもストロベリーピンクと淡い黄色いマーガレットが咲いていた。上手く飛び降りて、それらを傷つけないようにしようと私は思った。
「行くわ」
私はシーツを使ってなんとか壁伝いに降りて、エリーに飛び乗った。エリーは驚いた様子だったけれども、私が背中に飛び乗るのを甘んじて受け入れてくれた。うまく行った。
ラファエルは私が落ちないように見守っていて、万が一に備えてそばに控えていてくれている。3回目の時は、思いっきりラファエルに抱き止められてしまった。エリーに飛び乗り損ねたのだ。私は恥ずかしさのあまりにラファエルの顔も見れないほどだった。
私はその動きを12回繰り返した。要は慣れだ。8回目でコツをつかみ、スピードがだいぶ上がった。私は一度死にかけているのだ。何が起きたのか知っているのは私だけだ。私は死を悟ってから戻って来ているので、自分の死を避けるためならなんでもするつもりだった。
「なんとかなりそうだわ」
「そうだな。見事だ。明日はもっと上達していそうだ」
ラファエルも認めてくれた。没落令嬢だった私は、食料を得るためにしょっちゅう森に入らなければならなかった。おかげで普通の令嬢よりはお転婆なことも得意だった。
やがて騎士たちも起き出してきて、私は騎士団と共に朝の鍛錬に励んだ。剣は上から叩き落とすように落とされる。それをいかに払うかを中心に私は練習を繰り返した。額から汗が飛び散り、頬が真っ赤になり、宿屋の主人が朝食ができたと呼びにくる頃には汗だくになった。私は熱心にラファエルから学んだ。
「皆様、朝食の支度ができましたよ」
「よーし、さあ今日も元気に食べて出発だ」
「そうだな、一汗かいて腹も減ったしな」
宿屋の主人の賑やかな掛け声で、騎士たちも朝食の席に向かうために鍛錬をやめた。
「奥様、どうぞ身支度をこちらで整えましょう」
「ありがとう」
ベアトリスとジュリアが声をかけてくれて、私もうなずいた。顔の汗を拭き取ってもらって、私は微笑んだ。朝から体を動かすととても気持ちが良い。
騎士団の人々の私に対する目線が微妙に変わって来たように思う。確実に変わったと思うのは、大国から志願してきた騎士たちからの目線だ。
「奥方は、ジークベインリードハルトの皇帝の孫の嫁として、俺たちと一緒に鍛錬をされるらしい」
「さすがだな」
「いやあ、昨晩いきなり古代語を話されたのには驚いた」
「まあ、まだ発音は変なところがあったけれども、それでも驚いたぜ」
昨晩、ジェラールをひっとらえるように古代語を使ったことで、私のラファエルの花嫁であろうとする覚悟を感じ取ってくれた騎士が多かったようだ。
――ええ、夫に恋をするだけの妻では役目を果たせないと分かったのよ。
私は心の中で独り言を言うと、身支度を整えるためにベアトリスとジュリアに付き添われて部屋に戻った。
――今日は強行軍になるはずだわ。森を抜けたところで追い剥ぎに会うはずだったわ。あの荒くれ集団を避けられれば良いのだけれども。
私はこれから何が起こるか知っている者として、思案していた。
――朝食の席で地図を見ながら、今日の進むべき進路についてさりげなく別の道を提案してみようかしら?
私は心の中で考え込んでいた。ここで、私は自分の行動が変わったことで、周りの動きが変わることに気づいていなかった。最初の時は私は朝から鍛錬などせずにすぐに朝食の席に降りて行っていた。今は鍛錬をしたので、少し遅れて朝食の席に参加することになってしまった。
私が部屋で身支度を整えて階下の食堂に降りていくと、先にラファエルが騎士たちと食べ始めていた。しかし、一人の女性がラファエルに近づいていくのが見えて、私は思わず食堂のドアの影で立ち止まった。
「ラファエル!?」
女性が驚いた様子で声をかけているのが見える。
とても美しい女性だ。私の髪はブロンドで瞳は青い。彼女の髪はプラチナブロンドで、色素が抜けるように肌が白く、頬は薔薇色だった。エメラルドのような瞳がきらきらと輝いている。
「レティシア?」
ラファエルも驚いた様子だけれども、満面の笑みになって彼女に挨拶をした。
――誰かしら?
私は周りの騎士たちの微妙な反応にすぐに気づいた。この反応はどこかの街でも見かけたわ。私が席を外していて戻ってきた時にちょうどラファエルの周りの騎士たちがやっぱりこんな反応をしていた記憶がある。もしかすると最初の時にもラファエルと彼女はこうしてどこかで出会っていたのかもしれない。
――ラファエルと彼女の間には何かあるのね。昔の恋人かしら?
私は二度目の死を回避するために朝から鍛錬をして気分が高揚していたにも関わらず、心の中に嫉妬と戸惑いが混ざったグレーな気持ちが差込むのを感じた。
――ラファエルは、私の前に明らかに女性経験があるようだったわ。私は初めてなのに、ラファエルはそんな感じがしなかった……
最初の時は感じなかったつまらない事をふと考えてしまい、自分で自分にがっかりした。
――没落令嬢の私が陛下のとりはからいでラファエルのような素敵な人と結婚できたのよ。今更何よ、ロザーラ。しっかりしなさい。私の目的は生き残ってリシェール伯爵の領地に辿り着くことでしょう。つまらない嫉妬など今すぐ捨てなさい。
私はドアの影で自分に言い聞かせて、深く息を吐いた。
「おはよう、みなさん」
私は明るい声で騎士団の皆に声をかけて食堂の中に入って行った。レティシアと呼ばれた美しい女性が鼻で笑うような表情をして一瞬私の方を見たのを私は見逃さなかった。
ラファエルの肩に手をかけた女性に私は表情も変えずにそのまま微笑んだ。
「初めまして。ラファエルの妻でございますわ」
「あら奥様。これは失礼しましたわ。私、ラファエルとは幼馴染のレティシアと申します。ジークベインリードハルトで幼い頃ずっと一緒に育ちましたの」
ラファエルが紹介する前に、レティシアというその美しい女性は私に自ら名乗った。
そのとき私の心の中では、死ぬ前に敵に言われた言葉がよぎっていた。
『皇帝の孫の花嫁』
その言葉を使う敵は、我が陛下の国の者ではない。
古代語を操ってラファエルの事を『皇帝の孫』と呼ぶのは大国ジークベインリードハルト出身の者だ。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ!こんな美しい幼馴染がいたなんて、あなた」
私はそう無邪気に驚いた表情でラファエルとレティシアに可愛らしく微笑んで見せた。しかし、私の心の中は荒れ狂っていた。
――私を殺したのは、もしかするとあなたのお仲間かしら?
私は自分の中の暗い疑心暗鬼の気持ちに翻弄されそうになり、思わず後ずさった。
――彼女の挑発に乗ってたまるものですか。十分に朝食を取って、今日も第二の死を回避するために備えることにしましょう。
私は心の中でそう思いながら、にこやかに朝食の席についた。レティシアは何故かラファエルの隣の席に陣取っていた。ラファエルに密着しすぎている。私はイライラとしたけれども、表向きは気にしないふりをした。
――敵情視察にはもってこいの距離だわね。美しい幼馴染さん。
私はレティシアをじっくりと観察することに決めたのだ。
食卓の上には私が結婚式当日に宮殿でラファエルにもらったマーガレットの花を思い出すような、赤いパンジービオラが飾ってあった。
花言葉は「物思い」だ。私はイライラとする気持ちをおさめようとした。
「ジェラールはもう大丈夫だ。奴は今度こそ二度と君の前に姿を現せないよ」
ラファエルはそっと私にささやいた。
「ええ。わかっているわ」
私はうなずいた。口付けをして「今日の予定はまず、古代の言葉の学習のあとは……」と言いかけると、唇に人差し指を押されて「しーっ」とされた。
「騎士団のみんなも朝は早いから、朝一で武術の訓練をしよう。夜は言葉の学習と私と君の夫婦の時間にしよう」
ラファエルはイタズラっぽい瞳で私を見つめて甘く囁いた。最後の言葉を言いながら、ラファエルの指が私の背中をそっとさすり、私は飛び上がりそうになった。
「ええ」
恥ずかしさで真っ赤になりながら、私は同意した。
そのままベッドに二人で腰掛けて言葉の勉強をした。私の発音をいくつか訂正されながら、私が知っている隣国の言葉をベースに古代語を学ぶ。私はペンを持って書き留めていく。
言葉の発音を直されて、顎に手をかけられたと思ったら、ラファエルの唇が近づいてきて、私の唇をそっと温かく包んだ。ペンをそっと取りあげられた。
「そろそろ休もう。明日もたくさん移動するのだ」
ラファエルは低く落ち着いた声で私にささやき、私も眠りにつく前に幸せな思いでうなずき、宿屋のベッドで二人で眠りについた。
朝になって目が覚めると、窓辺に私はシーツを括りつけた。寝る前に本当は準備をしておきたかったのだけれども、昨晩はできなかったので、朝起きてから準備をしたのだ。
宿屋を抜け出して、馬で移動する時に乗る予定の馬を窓辺の下に連れてきた。白馬でとてもおとなしい馬で、エリーという名前だ。私は窓を伝って降りてきて、下で待っている馬に飛び乗る訓練をするつもりだった。
部屋に戻るとラファエルも目を覚まして身支度を整えていた。
「やるのか?」
「ええ。私は本気よ」
ラファエルは苦笑いをして階下に降りて行き、窓の外に繋がれたエリーの元に行った。ラファエルは馬の横に立ってこちらを見上げて、窓辺にいる私を見つめている。
この宿屋には花びらが丸く集まったボンザマーガレットがあちこちに咲いている。ラファエルの立つ足元のすぐ横にもストロベリーピンクと淡い黄色いマーガレットが咲いていた。上手く飛び降りて、それらを傷つけないようにしようと私は思った。
「行くわ」
私はシーツを使ってなんとか壁伝いに降りて、エリーに飛び乗った。エリーは驚いた様子だったけれども、私が背中に飛び乗るのを甘んじて受け入れてくれた。うまく行った。
ラファエルは私が落ちないように見守っていて、万が一に備えてそばに控えていてくれている。3回目の時は、思いっきりラファエルに抱き止められてしまった。エリーに飛び乗り損ねたのだ。私は恥ずかしさのあまりにラファエルの顔も見れないほどだった。
私はその動きを12回繰り返した。要は慣れだ。8回目でコツをつかみ、スピードがだいぶ上がった。私は一度死にかけているのだ。何が起きたのか知っているのは私だけだ。私は死を悟ってから戻って来ているので、自分の死を避けるためならなんでもするつもりだった。
「なんとかなりそうだわ」
「そうだな。見事だ。明日はもっと上達していそうだ」
ラファエルも認めてくれた。没落令嬢だった私は、食料を得るためにしょっちゅう森に入らなければならなかった。おかげで普通の令嬢よりはお転婆なことも得意だった。
やがて騎士たちも起き出してきて、私は騎士団と共に朝の鍛錬に励んだ。剣は上から叩き落とすように落とされる。それをいかに払うかを中心に私は練習を繰り返した。額から汗が飛び散り、頬が真っ赤になり、宿屋の主人が朝食ができたと呼びにくる頃には汗だくになった。私は熱心にラファエルから学んだ。
「皆様、朝食の支度ができましたよ」
「よーし、さあ今日も元気に食べて出発だ」
「そうだな、一汗かいて腹も減ったしな」
宿屋の主人の賑やかな掛け声で、騎士たちも朝食の席に向かうために鍛錬をやめた。
「奥様、どうぞ身支度をこちらで整えましょう」
「ありがとう」
ベアトリスとジュリアが声をかけてくれて、私もうなずいた。顔の汗を拭き取ってもらって、私は微笑んだ。朝から体を動かすととても気持ちが良い。
騎士団の人々の私に対する目線が微妙に変わって来たように思う。確実に変わったと思うのは、大国から志願してきた騎士たちからの目線だ。
「奥方は、ジークベインリードハルトの皇帝の孫の嫁として、俺たちと一緒に鍛錬をされるらしい」
「さすがだな」
「いやあ、昨晩いきなり古代語を話されたのには驚いた」
「まあ、まだ発音は変なところがあったけれども、それでも驚いたぜ」
昨晩、ジェラールをひっとらえるように古代語を使ったことで、私のラファエルの花嫁であろうとする覚悟を感じ取ってくれた騎士が多かったようだ。
――ええ、夫に恋をするだけの妻では役目を果たせないと分かったのよ。
私は心の中で独り言を言うと、身支度を整えるためにベアトリスとジュリアに付き添われて部屋に戻った。
――今日は強行軍になるはずだわ。森を抜けたところで追い剥ぎに会うはずだったわ。あの荒くれ集団を避けられれば良いのだけれども。
私はこれから何が起こるか知っている者として、思案していた。
――朝食の席で地図を見ながら、今日の進むべき進路についてさりげなく別の道を提案してみようかしら?
私は心の中で考え込んでいた。ここで、私は自分の行動が変わったことで、周りの動きが変わることに気づいていなかった。最初の時は私は朝から鍛錬などせずにすぐに朝食の席に降りて行っていた。今は鍛錬をしたので、少し遅れて朝食の席に参加することになってしまった。
私が部屋で身支度を整えて階下の食堂に降りていくと、先にラファエルが騎士たちと食べ始めていた。しかし、一人の女性がラファエルに近づいていくのが見えて、私は思わず食堂のドアの影で立ち止まった。
「ラファエル!?」
女性が驚いた様子で声をかけているのが見える。
とても美しい女性だ。私の髪はブロンドで瞳は青い。彼女の髪はプラチナブロンドで、色素が抜けるように肌が白く、頬は薔薇色だった。エメラルドのような瞳がきらきらと輝いている。
「レティシア?」
ラファエルも驚いた様子だけれども、満面の笑みになって彼女に挨拶をした。
――誰かしら?
私は周りの騎士たちの微妙な反応にすぐに気づいた。この反応はどこかの街でも見かけたわ。私が席を外していて戻ってきた時にちょうどラファエルの周りの騎士たちがやっぱりこんな反応をしていた記憶がある。もしかすると最初の時にもラファエルと彼女はこうしてどこかで出会っていたのかもしれない。
――ラファエルと彼女の間には何かあるのね。昔の恋人かしら?
私は二度目の死を回避するために朝から鍛錬をして気分が高揚していたにも関わらず、心の中に嫉妬と戸惑いが混ざったグレーな気持ちが差込むのを感じた。
――ラファエルは、私の前に明らかに女性経験があるようだったわ。私は初めてなのに、ラファエルはそんな感じがしなかった……
最初の時は感じなかったつまらない事をふと考えてしまい、自分で自分にがっかりした。
――没落令嬢の私が陛下のとりはからいでラファエルのような素敵な人と結婚できたのよ。今更何よ、ロザーラ。しっかりしなさい。私の目的は生き残ってリシェール伯爵の領地に辿り着くことでしょう。つまらない嫉妬など今すぐ捨てなさい。
私はドアの影で自分に言い聞かせて、深く息を吐いた。
「おはよう、みなさん」
私は明るい声で騎士団の皆に声をかけて食堂の中に入って行った。レティシアと呼ばれた美しい女性が鼻で笑うような表情をして一瞬私の方を見たのを私は見逃さなかった。
ラファエルの肩に手をかけた女性に私は表情も変えずにそのまま微笑んだ。
「初めまして。ラファエルの妻でございますわ」
「あら奥様。これは失礼しましたわ。私、ラファエルとは幼馴染のレティシアと申します。ジークベインリードハルトで幼い頃ずっと一緒に育ちましたの」
ラファエルが紹介する前に、レティシアというその美しい女性は私に自ら名乗った。
そのとき私の心の中では、死ぬ前に敵に言われた言葉がよぎっていた。
『皇帝の孫の花嫁』
その言葉を使う敵は、我が陛下の国の者ではない。
古代語を操ってラファエルの事を『皇帝の孫』と呼ぶのは大国ジークベインリードハルト出身の者だ。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ!こんな美しい幼馴染がいたなんて、あなた」
私はそう無邪気に驚いた表情でラファエルとレティシアに可愛らしく微笑んで見せた。しかし、私の心の中は荒れ狂っていた。
――私を殺したのは、もしかするとあなたのお仲間かしら?
私は自分の中の暗い疑心暗鬼の気持ちに翻弄されそうになり、思わず後ずさった。
――彼女の挑発に乗ってたまるものですか。十分に朝食を取って、今日も第二の死を回避するために備えることにしましょう。
私は心の中でそう思いながら、にこやかに朝食の席についた。レティシアは何故かラファエルの隣の席に陣取っていた。ラファエルに密着しすぎている。私はイライラとしたけれども、表向きは気にしないふりをした。
――敵情視察にはもってこいの距離だわね。美しい幼馴染さん。
私はレティシアをじっくりと観察することに決めたのだ。
食卓の上には私が結婚式当日に宮殿でラファエルにもらったマーガレットの花を思い出すような、赤いパンジービオラが飾ってあった。
花言葉は「物思い」だ。私はイライラとする気持ちをおさめようとした。
13
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる