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3ー愛の着地

52 調合薬の最後のパーツ

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 秋の栗拾いの季節だった。教室の外を中等三年の忍びたちが籠いっぱい栗を入れて運んでいた。口ぐちに栗ご飯が楽しみだと話している。
 寺小屋の校舎が立ち並ぶ周りには、紅葉した葉っぱがたくさん落ちていて、それを箒で掃いている中等五年の忍びたちがいた。

「もう、そういう季節なんだな。栗拾いか。そうか、俺も昔から栗が好きでー」
 窓の外をみんなで眺めていた王子が突然叫んだ。

「思い出した!そうだ、10歳の俺はマーコールのヤギを見たことがあったんだよ!」
「王子、マーコールのヤギみたいなのをどこかで見たことがあるな?」
「うん、あるよ。ベロキラプトルがあっちの草原でヤギを飼っているのを1度だけ見たことがあるよ」

 10歳の王子の回答でわたしたちは色めきたった。

「あっちの草原?」
 10歳の帝が右手で指差した方向を皆で眺める。ナディア以外は、十年前の魔暦12年もこの地球で生活していたので、全員が知っている草原のはずだ。

「この時、誰かが『ガハラ』みたいなことを言い出したんだ。沙織か?」
 全員が私を見た。

「沙織、ガハラのつく草原で頭に浮かぶものを言って見て」
「ガハラガハラガハラ。関ヶ原、秋葉原、戦場ヶ原、百合が原・・・・・・」
「ちょっと待った!戦場が原!?」
「それ、ある。似た名前の草原がある」

「ガハラ、ガハラ、戦場ヶ原、戦場ヶ原、『戦時路ヶ原』!」
「センジロガハラ?」
「それだよ!思い出した!センジロガハラだってみんなで言って、みんなが教室を出て行ったんだ。そのあとは俺は覚えていない。」

「よーし、分かったぞ。センジロガハラに住むベロキラプトルが、絶滅したはずのマーコールのヤギを飼っているんだな」

「よし、探しに行こう!教授、やっぱりあと2時間ぐらいで戻ってきます。少しだけお待ちいただけないでしょか」
 わたしは柳原名誉教授にお願いした。白髪に白髭の教授は仕方ないと言ったふうに首を振ってうなずいた。

「混ぜたものがダメになるので、2時間までですよ。それまでわたしは今日みなさんが混ぜたこちらの鉢を保管しておきます。」


「わたしはヤギの匂いのついたベロキラプトルを探せるわ。吸血鬼の力を使ってね」

 わたしはうなずいた。元はと言えば、わたしの症状を回復させるための調合薬作りだ。役に立ちたい一心だった。

 こうして、10年前の秋、美しいセンジロガハラに仲間全員で行った。ナディアは私の背中に乗って飛んだ。
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